安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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永遠に思える時間
永遠に思える時間、そこに立ち尽くしていた。
今目の前で起こったことを、脳が理解できない。
受け付けない。
信じられない。

世界が崩れ去ったようだった。
天地が逆さになったようだった。
自分が本当に立っているのかもわからなくて、ただ呆然と、空回りする思考を巡らせていた。

色鮮やかだったはずの世界が急激に色褪せて、真白く静かに狂っていく。



どうしてこんなことに。



何度目かに、思う。
涙が、一筋頬を伝った。



このまま正気を失えたら、それはある意味とても幸せ。









//22歳?(21歳以降)

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少しは心配してくれた?
兄さんのお墓がわかってから、ぼくはたまにそこに足を向けるようになった。
特に用があるわけではない。
静かな墓地の一角で、お花だけ変えて、佇んでいるだけ。

けれどそれが、何故か、妙に落ち着く。

「ねぇ兄さん」

あなたは優しい人だったと、あなたの友達が言っていた。
ねぇ、兄さん。

「もしあなたが生きていたら、生きていて、妹(ぼく)が居る事を知ってたら」

聞こえはしないことはわかってる。
此処にあるのは兄さんの骨。
兄さんの、お墓。
当然、答えもない。
けれど、ぼくはよく此処で誰も居ないお墓に話しかける。

「少しは心配してくれた?」

聞く人も、答える人も、居ないけど。
何故かぼくは、とても、安心する。

何故か。

誰かが聞いてくれたように、穏やかな、気分になる。










//21歳
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君に託したもの
「まずはこの島国を手に入れる」

楽しそうな、笑み。
これはいけないと、すぐにわかる。
これは、いけない。
――――ロクでもないことを考えているときの、笑み。

この男は、本気だ。

「丁度いい時期に総理大臣も変わってくれた。やつが次に何処に行くかは花梨を使って調べろ。常に先回りして、まずは恐怖を植えつける」

本気で、裏からこの国を、思い通りに操ろうとしている。
そしてぼくは、その工程に使われる。
道具と、して。

「いいな、花梨」

束の間、ほんの瞬きする間に、色々なことを想う。
ぼくが今まで犠牲にしてしまったもの。
生きるために、自由を得るために、そう言い聞かせて犯してきた罪。
それを考えれば、答えは決まっている。
同じように、視たものを、言えばいい。
唯々諾々と、従えば、いい。

――――けれど、ぼくは決めた。

この国はぼくが生まれた国。
そして、大切な、とても好きな、「友達」が、居る国。

ぼくは、漸く、決めた。

「・・・・・はい」

口の端に笑みを掃く。
それは誰も気付かないほど、小さな笑み。

本当はぼくの子供に託したかったことを、君に託していいですか。
君は優しいから、聞いたらいいと言ってくれるかも知れないけど。
言うことは多分できない。

これからぼくがやろうとしていることは、道具の信用を壊すこと。
信用できない、使えない道具など。
要りはしないのだから。

欠陥がわかるまでは、使われるだろう。
けれど欠陥がバレれば、ぼくは、破棄される。

もう子供は生めそうにないから、勝手に君に託そう。







どうか、幸せに。

あなたの望む通りに生きて、わたしの分まで幸せに、なって下さい。










//22歳?

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人を活かす
「「人を活かす気はないのか」、だと?」

聞いてみたら、その男は鼻で笑った。
しかもよほど可笑しかったらしく、くっくっと低い笑い声まで続く。
馬鹿じゃないのかと、その目が、その顔が、その声が語っていた。

男は言う。

「生きるために必要なのは人を活かす才能なんかじゃない」

むしろ邪魔だと、言い切った。

「この世界で要るのは、人を道具として使い捨てる才能だ」

ああ、そうだった。
めまいがする。
ぼくは馬鹿か?

この男はこういう男だと、嫌と言うほど知っていたはずなのに。

そして実際。
この男の言うことは、多分、正しいのだろう。

現にこの男はそれを実行し続け、今順調に「ボス」への道を辿っているのだから。









//17歳

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世の中の少数派
ぼくの部屋にはテレビがない。
必要性を感じなかったから、買わなかった。
きっと家にテレビがないというのは、世の中の少数派なんだろうと思う。
少なくとも、日本で。
どれだけの人が、テレビを見ずに生活しているのか。

あの建物から出れなかった頃は、ぼくに余計な情報を与えないことが目的で部屋にテレビがなかった。
最初は少し淋しかったけれど、やがて嫌でも慣れて。
そして今は、もう要らない。

天気なら視ればわかるし、自分の危険も力が教えてくれるからニュースも要らない。
ドラマやバラエティは、暇潰しに過ぎない。
見ていても、ただ、それだけで。

誰かと、テレビの話で盛り上がるわけでもない。

自分独りが、楽しんでも。
余計に、寂しさが募る。
それなら、知らないほうがいい。

後ろ向きな考えだと、少し苦笑したけど。
紛れもない、事実。

ぼくは自由を手に入れたけど。

これは果たしてたくさんの人を犠牲にしてまで得るものだったのかと、思う。

ぼくは。

「・・・一体、何してるんだろう」

一体何が、欲しかった?










//21歳
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恥じ入る心
「何時如何なる時も、己を恥じ入る心を忘れてはならない」
「はい、先生」

正座をした幼いぼくが、正面の人を見上げて答える。
その時ぼくは心の底から本当に、その人を尊敬していた。
否。今だって、ぼくはあの人を尊敬している。
けど。

「アイツが何処へ逃げるか視とけ」
「・・・・三つ目の路地を、右。小さな木の扉を開ける」

ぼくの言葉を受けて部下に指示を出す男。
これで逃げた「制裁者」を確保できれば、また彼の功績となる。
力があれば、上へは上がれる。
真実弱肉強食の、裏の世界。

心の奥で「逃げて」と思うぼくが居る。
けれどぼくは先ほど彼の行き先を告げ、捕まえる手助けをしている。
なんという矛盾。
恥も外聞もない、ただ、自分の安全と自由のための、告げ口。
唾棄すべき、行為。
これをぼくは、ずっと続けてきた。

代償と呼ぶには多すぎる、大きすぎる罪は幾つも重なり、きっともう清算も償いも間に合わない。

「己を恥じ入る心を、忘れてはならない。そうすれば、最低限、自分だけは裏切ることなく生きていける」

書道の先生だった。
両親はぼくに甘く、大抵はぼくのお願いを聞いてくれて。
習いたいと行ったら、お稽古に通わせてくれた。

厳粛な、人だった。
幼いぼくの頭では全てを理解できなかったけど、その潔さは感じられた。
ぼくは、真っ直ぐな、高潔な先生の生き方が好きだった。

けど。

きっと今のぼくを見たら、先生は目を背けるだろう。
それとも。
今の、ぼくを見て。

恥を知れと言って、怒ってくれるだろうか。

見せることはできない。
先生に失望されたくないし、ぼくはぼくの罪を打ち明けられるほど強くない。
それにまだ、見せる自由もない。

携帯で部下からの報告を受け取った男が、またぼくを見る。

「隠れているみたいだな。どこに居る?」

一秒先の、未来を視る。
一秒ではそれほど動くはずがないから、隠れている場所も、視える。
ぼくは、それが彼に何をもたらすか知りながら、告げる。

「―――――カウンターの裏に」

自分を、恥じ入る、ことを。

覚えているのなら、きっと、こんなことはできない。

これはとても、恥ずべき行為。









//18歳
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そりゃまたベタな展開で
「・・・・。・・・遅刻しそうでパン食べながら歩いてたら曲がり角で男の子と打つかって、ちょっとカッコよくて惹かれたら実は転校生で隣の席だった?」

事実は小説より奇なり、とか。
人生何が起こるかわからない、とか、よく言うけど。


・・・・そのベタな展開は何。


「それ、いつの少女マンガ?」
「作り話ではない。実際にあった話・・・だそうだ」
「・・・・・そりゃまたベタな展開で・・・」

此処古書喫茶の常連である「魔法使い」の東雲さん。
昼間はとある店で占いのようなことをしているそうで、その占いに来た女の子がそう言ったらしい。
目を輝かせながら語る人を思い浮かべようとして、失敗した。
ぼくには無理だ。

「おぬし、有り得ると思うか?」
「・・・あんまり」
「だろうな。わたしもだ」
「あ、やっぱり」

大体「遅刻しそうで」、ってことは学校に向かって歩いてたわけだから、前から来た人が転校生、っていう確率はかなり低いと思う。
どこからどこへ行こうとしてたの、その人。

「・・・それで、どうしてそんな話を?」
「その馬鹿娘の未来を視てくれないかと思ってな」
「・・・・・・・・は?」
「そしてそれを占い結果として伝える!どうだ、妙案だろう!」
「東雲さん、それ詐欺って言うんですよ。もしくは騙り」

予知のことがばれたのはぼくの不注意だった。
本棚が倒れる画が視えて、青の手を引いて足をとめさせた。
それならそれで普通は終わりのはずだったのに、何故か青は笑って問うた。

「不動さん、未来がわかるんですか?」

・・・・覚りの妖怪か?
一瞬そう思い、つい頷いてしまって。
その時店にいた客たちも耳に入ってしまって。
奇異の目を向けられるとか、嘘だと決め付けられるとか、色々過ぎってどうしようと思ったのだけど、何故かあっさりと「へぇ」みたいな感じで受け入れられてしまった。
この店は、客も主も従業員も、何処か不思議だ。

そこで東雲さんの携帯電話が鳴って、東雲さんはメールを開き。

「あ」
「・・・・どうかしました?」

「今度はその“運命の転校生”が実は双子で、三角関係になったって」

・・・・・・・・・・・・・・。
凄い人も居るものだ

「何か視なくてもわかりそうな気がしてきますね」
「うん、次はきっと男同士の争いに割って入って「私の為に争うのはやめて!」かな」

此処まで王道を突っ走る存在は、逆にレアかもしれない。









//21歳
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季節の節目
「あ・・・」

黄色い実がついた樹を見つけて、つい立ち止まる。
立ち止まれば歩いてたときは気付かなかった甘い香りが薫って、もうそんな時期かと時を想った。

秋を告げる日。
ぼくは花梨の実がなる頃、秋分の日に生を受けた。
つまり、今日は。
ぼくの、誕生日。

・・・・最後に祝ってもらったのは、何時のことだっただろうか。

自分の名前がその実と同じだけあって、ぼくは花梨の実が結構好きだ。
すべすべした、黄色い実。
そのままでは食べられないけど、甘い香りは持っていて。
栄養価は高い、果実。
昔は、必ず。
誕生日の頃には、母が花梨の砂糖漬けを作っていた。
懐かしい記憶。
遠い、記憶。

もう決して戻れない、過去。

最後になった10歳の誕生日にも、変わらずそれは出されて。
その時には売られる未来を視ていたぼくは幼心に「まだだ」とほっとしたけれど、結局売られたのは誕生日を2週間程過ぎた頃だった。
本当に、前日まで。
否。ぼくを売る瞬間ですら、いつも通りだった両親。
つい物思いに沈んでしまって、苦笑する。
ぼくは両親を恨んでいるのだろうか。
よく、わからない。

ああ、でも、そういえば。
あの日の三日後に小学校で遠足があって、ぼくはそれが楽しみで。
売られた後でそれに気付いて、行きたかったなとぼんやり思ったことを覚えてる。
行き先は、確か。

「・・・・・プラネタリウム、だった」

ああ。
行きたいな。

不意に、思う。
星はよく見上げるけれど、それとはまた、別に。
作られた夜空だけど、数え切れないほどの星を見上げるのは、きっと楽しい。

「遠足」は、もう、無理だけど。

今は、誰も、誘える人も、いないけれど。

いつか、誰かと、一緒に。

「・・・・行きたいな」

そしてぼくはその場を後にして、スーパーを渡り歩いて。
何軒目かで花梨を一つ、購入した。











//20歳
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ときめき
甘く暖かい感覚が、身体に浸み込んで行く。
それは雪のように柔らかく降り積もって、雪とは違い触れても消えない。

あの人の名前を呼ぶ度に。
あの人の姿を見る度に。
あの人の声を、聞く度に。

それはどこからか生まれて、確かに降り注ぐ。

どうしてそんなにも、ぼくに優しいのだろう。
どうしていつも、ぼくの望みを叶えてくれるのだろう。
ぼくだけに優しいなんて、馬鹿な自惚れはないけれど。
優しくされる資格なんてないぼくにも、彼は優しい。

ぼくが予知によって突然現れても、気味の悪い顔一つせず笑ってくれる。
ぼくの所為で嫌な目にあっても、ぼくとまた会ってくれる。
ぼくを。
友達と、言ってくれる。

それは感動に似た、小さな胸の震え。




―――――ぼくは、あなたが、とても、好きです。









//21歳
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叶うなら
叶うなら。

彼女に幸せなって欲しいと、思う。

叶うなら。

彼女には俺とは違う、道を歩いて欲しいと思う。



この身はもう、随分前に朽ち果てた。
俺の身体は死を迎え、魂だけが未だに此処にある。
妹が自分の墓の前に現れる日が来るとは、予想もしていなかった。
そもそも妹が居たことを知らなかった。当然と言えば当然で、妹が生まれた時もう既に俺は死んでいた。
親子ほどに年の離れた、互いのことなどろくに知らない兄妹。
それでも彼女は、俺に会いたかったと、泣いてくれた。
俺と同じ髪の色の、少女。

血を分けた、家族。

自然の摂理に逆らったこの身でも、願いを抱くことが許されるなら。
神に祈る資格が、少しでもあるのならば。

どうか、と、願う。

どうか、彼女を、不動花梨を。
これ以上傷つけることなく、幸せにしてやってください。










//桐原藍螺

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過去に囚われることなく
どんどん積み重なっていく罪を、忘れることは許されるのだろうか。

ぼくの所為で不幸になった人たちを顧みず、ぼくが幸せになることは、許されるのだろうか。

今までずっと「幸せになりたい」と生きていた筈なのに、今になって、ばくは躊躇う。
今までは、到底叶わぬ夢だった。
叶えたいと思ってはいたけれど、おぼろげで不定型な、幻。

それが小さくほんの少しだけ形を見せて。

どうして今までこんな簡単なことに気付かなかったのかと思うほど、ぼくは、揺らぐ。

数年だけ、だから。
きっと数年しか、続かないから。

だから?

だから―――――・・・


だから、許してとでも、言うつもりか。


過去に囚われることなく幸せになる、なんて。
ぼくに、許されるはずがない。










//21歳?(21歳以降)
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この広い世界のどこで
ぼくは自分の目で見た事のある人の未来しか視れない。
意図的でも偶然でも、直接目で見たことがなければ基本的に未来は視れない。
場所に関しては、見たことがあるだけでは駄目だ。
ぼくが居る場所の未来のみ、視れる。
それがぼくの異能。

でも、それが全てではない。

5年に一度かそれくらい。
本当に稀に、ぼくが知らない場所の、知らない人の、未来が見えることがある。

それはまったく操作できなくて、不意に浮かぶ映像。
他愛もない未来だったり悲惨なものだったり、それも様々。法則性はない。
もしかしたら、幻覚なのかもしれない。
そう思うほど、まったく見知らぬ風景が、目に映る。
それが視えたところで一体何処だかも解らないから、無用だと、マフィアは判断した。
ぼくも、そう思う。
本当に稀だし、どうにも、できない。
視える、だけ。
本当に、視えるだけだ。

この広い世界のどこでそれが起きるのか、ぼくには検討も付かない。

本当に起きるのか。
本当に、それは未来なのか。
本当に。
その場所は、この世界にあるのか。

どれもわからない。
ぼくは、何故かそれが視えるだけ。

そしてまた、それは不意に視界を過ぎった。

崖が。
崩れる、光景。

思わず、立ち上がる。
無意味な仕草をしたぼくを、何人かが奇異の目で見やった。

それは言ってみれば、ただの、白昼夢。
本当にそれが起こったか確かめようがないのだから、幻と大差ない。
けれど。
けれど、もし。

世界のどこかでそれが起こっていて、ぼくはそれを知っていたのに、放置しているとしたら?

身も知らぬ場所の光景が視えるのは本当に稀だから。
普段はあまり、思い出さない。
けれど視えてしまうと、暫く、囚われる。

あれはどこの。
あれは、いつの。
未来?

もし解っても、結局ぼくには何もできないのに。

思いは尽きない。

この、広い広い世界の、どこで。

―――――いつか、これが予知なのか幻なのかを確認出来る日が、来るといい。
そして、その時には。

ほんの少しだけでもいいから、何か、できればいい。









//17歳
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電池の寿命
「あ・・・」

ぷつんと切れた光に、小さく声を零す。
電池が切れたのだと、すぐにわかった。

電池は消耗品だ。
だから、いつかは切れる。それはわかっているし、慣れている。
でも、何故か。
いつも、とても淋しい気分になる。

電池の寿命。
役に立つうちは遠慮容赦なく使われて、使えなくなると捨てられて。
そして、また新しい電池が使われる。
それはまるで。

「もう視たくない?」

鼻で笑う男の言葉を思い出す。
もうこれ以上、人を不幸にする予知をしたくないと、告げた時のことだった。
ぼくと契約を交わした男は、ぼくの首を片手で掴み、持ち上げる。
気管が圧迫されて、ひゅうと喉が鳴った。

「なぁ花梨。お前は何か勘違いしてないか?」

ぐっと、手の力は強く込められ。
反射的にその手を退けようと手が動くけど、ぼくの力如きじゃその手はびくともしない。
男は、ぼくの苦しみ方を見て、嘲笑を浮かべた。

「お前は道具だ。使えなくなるまで、黙って使われろ。意思も命もお前のもんじゃない、俺のものだ」

そこで唐突に手は離されて、ぼくはコンクリートの地面に落下する。
塞き止められていた空気が急に入り込み、咽て咳き込んだ。
生理的に涙が零れ、肩で息をする。
そのぼくを覗き込んで、彼は言った。

「使い捨てなんだよ。次そんなこと言ってみろ・・・脅しじゃなく、殺して捨てる」

そしてその夜、ぼくは自分の未来を覗き視る。
不意に過ぎった未来は、ぼくの寿命が来る日の光景。
ぼくの、力が消える、その日の。

寿命を遂げた電池を、指の腹で小さく撫でる。
有難う、と、心の中で呟いた。
その電池を。
危険物として、袋に、入れる。
ゴミ箱に。
捨てる。

いつも、淋しい、気分になる。

それはまるで、いつかのぼくの姿。










//18歳
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家が、燃えていた。
塀に囲まれた、日本家屋。
古い家。俺が15年間、住み続けていた、家。
平屋の木造家屋はいとも簡単に火を受け入れ、周囲が赤く染まる。

パチパチと爆ぜる音の中で、俺は自分の影が火に照らされて躍るのを、じっと見ていた。

口の端が、ゆっくりと持ち上がる。

「・・・・・、・・・・・・・」

床も壁も家具も畳も。
幾多の人も、全て炎が飲み込んだ。

「・・・くっ・・・は、は・・・くくっ、はははっ!!はははははっ!」


笑いが、止まらなかった。


「ざまあみろ」と、つい思う。
高らかに笑いを零しながら、手にしていたナイフを投げ捨てた。

畳が吸った赤も、ナイフにこびり付いた赤も、炎の赤に照らされて判別つかない。

目の前の骸が最期に言った言葉が、嘲笑を引き起こした原因だった。
骸は、一応血の繋がった、男。
父親という、生き物。

「何故」と。
そんなことを、言った。

何故?


「それが解らないから、お前は精々三流なんだよ、「組長」」


俺は家族(てき)の首を手土産に、此処から上へと這い上がる。

信頼できる家族も、苦労を分かち合う友人も、そんなものは無用だ。
欲しいとも思わないし、そもそも居たからどうなるものでもない。
俺が、欲しいのは。

役に立つ道具と、踏み台になる、屍。

俺の前には誰も居ないその高みまで、俺は上る。





――――使い勝手のいい、未来がわかる便利な道具を手に入れるのは、それから3年後。

小賢しいガキの形をしたその道具は、不動花梨と名乗った。










//樹閃月(いつき せんげつ)

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あなたに願うこと
ぼくと結婚してくれる、奇特な誰かへ。
あなたに願うことは、唯一つ。

ぼくを愛さなくていいから、ぼくとあなたの子を愛して下さい。

その子を幸せにして下さい。
家を作ってあげて下さい。
変える場所を、作ってあげて下さい。
慈しんで、育ててあげて下さい。
ぼくと結婚してくれるような人だから、問題ないと思うけど。
大切に、してあげて下さい。

それが、ぼくの、願いです。

あなたはぼくを責めるでしょう。
こんな生き方しかできなくて、御免なさい。
あなたを傷つけることになって、御免なさい。
けれどあなたなら大丈夫。
あなたはぼくが居なくても、大丈夫。
あなたの一番は他にある。
だから、ぼくのことは忘れてください。

まだ、先はどうなるかわからないけれど。
全ての憂いが解決して結婚できると思えるほど、ぼくは楽天家ではないから。
きっとぼくは、あなたに色々なことを隠して結婚するでしょう。
だからきっと、ぼくはあなたから離れるでしょう。
あなたには怒る権利がある。
ぼくは幾らでも嫌いになっていいから、ぼくの子供は、愛してください。

まだ見もせぬあなた。
居るかどうかすらわからない、あなた。

どうか、ぼくの願いを叶えてください。









//21歳
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夜空に輝く・・・
満点の星空を見上げてじっとしている時、ぼくはいつも未来を思う。
能力を使うとぼくの目に映る光景。
未来(さき)の景色。
未来の数は選択の数。
星の数ほどに未来がある。
この降るような星空の光と同じだけ、人には未来が待っている。
ぼくは人よりほんの少しだけ、その星を間近で見れるだけ。
そう。見れる、だけ。

手を伸ばしても、決して届かない。
届いては、いけない。

未来を望むように変える力は、ぼくにはない。
その権利も、ない。

ぼくの言葉は悪戯に選択を惑わせるだけ。
ぼくの行動は、人に選択を限らせるだけ。
だから本当は、ぼくは何も言ってはいけない。

なのに。
そう、解っていながら。

ぼくは星を落とすような、罪を犯す。

ぼくが「告げる」という選択は、星に手を伸ばす行為。
光り輝く未来を、歪めて落とす、行為。
自由に、望むように未来を変えることは出来ないのに。
最悪の方向に、変えてしまう。

満点の星を見上げると。
いつも、ぼくは自分の罪を思い出す。
だから、ぼくは何時でも空を見上げる。
忘れてはいけないから。
忘れることは、許されないから。

夜空に輝く美しい星は、ぼくにとっては幾千の未来。

ぼくはこれまで、幾つの星を落としてしまったのだろうか。
そして、これから。
幾つの星に、手を伸ばしてしまうのだろう。

ぼくがこんなことを願うのは、間違っているのはわかっている。
願うなら、自分でどうにかするべきなのだ。
願うくらいなら、自分の命など惜しまずに、告げない道を選ぶべき、なのだ。

そうと、わかっていても。
ぼくには、それが、できない。

だから、ぼくは願う。
願う資格がないことを知っていても、願う。

お願いだから、どうか――――・・・。



もうこれ以上、ぼくに星を落とさせないで。




ぼくは今日も夜空を見上げる。

「・・・、・・・弱くて、御免なさい」

呟いても、当然返事はない。
それでも、ぼくは。

謝らずには、いられない。










//21歳
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目には映らなくても
「お兄ちゃん?」

幼いぼくは、確か目を瞬いたと思う。
ぼくはずっと一人っ子だと思っていたから、とても、驚いた。
母さんは頷いて、自分が16歳の時に生んだ子だと言った。

「今どこに居るの?」
「解らないわ。売ってしまったから」

それはとても自然に言われた言葉で。
ぼくは一瞬、意味を掴み損ねた。

「売って・・・・・?」
「仕方なかったの。あの子は可愛かったわ。でも、あの頃私たちには生きていくためのお金が必要だったし、それに・・・」
「・・・それに・・・・?」

母さんは、にこりと笑う。
次の言葉も、やはり自然に紡がれた。

「それに、あの子は化物だったんだもの」

更に質問を重ねて、ぼくはその「兄さん」がテレパス、つまり思念だけで話をすることができる能力者だったことを知った。
そして両親は、幼い「兄さん」を研究施設に売ったのだと、理解した。
22歳も年が離れていた。
けれど、ちゃんと、血の繋がった「兄さん」がぼくに居たのだと、知った。
ぼくと同じ、異能の。
その後ぼくも「兄さん」と同じく人に売られ、マフィアで「兄さん」の研究データを見つけた。
『「不動匠」こと実験サンプルA-1に関する実験データ』
その書類は、そう銘打たれていた。
蛇の道は蛇、ということなのか、ぼくが買われたマフィアの研究室に、それはあった。
「兄さん」は、ぼくとは違い色々出来た。透視、テレパス、霊視。ぼくと同じ予知もできたらしい。
だから、データは豊富にあった。
書類の最後は、「目標喪失(ロスト)」で終っていた。
一度も会った事のない「兄さん」。
けれど、ぼくはその兄さんが、好きだった。
どんな人か、知らないけれど。
親近感が、あった。
血の繋がりからか、それとも「同類相憐れむ」なのかはわからない。けれど、ぼくは両親よりもよほど見知らぬ兄さんが好きだった。
どんな人だろう。
ずっと、そう、思っていた。
生きているなら、会いたかった。
話して、みたかった。
親子ほどに年の離れた兄さんだけど、妹と、呼んでくれるだろうかと。
そして死んでいるなら。
せめて、お墓を、参りたい、と。
思っていた。


「――――此処が、藍螺のお墓」


ぼくと兄さんは似ているらしい。
ぼくはこの人に呼び止められる未来を視ていた。
呼び止めて、ぼくではない人の名を、この人が呼ぶのを。

この人は、兄さんの友達だった人。

兄さんは。

17歳で、亡くなった、らしい。

実験施設で「A-1」としか呼ばれなかった兄さんは、その研究施設が破棄された後、自分の名前を思い出せなくて。
兄さんを助けてくれた人が、兄さんに名前を付けてくれた、そうだ。
お墓には、桐原藍螺と、名前があった。

兄さんの友達は、お墓の前で微笑む。
けれど目線はお墓ではなく、その、少し上だった。

「少し久しぶりだな、藍螺」

まるでそこに。
誰かが、居るように。
その人は、語りかけた。

ぼくには霊視の能力はない。
けれど。
けれど、けれど。

目には映らなくても、きっとそこには、誰かが居た。

「・・・・・兄、さん・・・?」

ねぇ、あのね、ぼくは。

「・・・・・・・一度でいいから、あなたに、会ってみたかった、よ」

ぼくが生まれた頃には、もうあなたはこの世にはいなかったなんて、そんなの。

ずるい。

手を伸ばしても、やはりそこには何もなかった。










//21歳
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面倒なんて言わないで
「本当にやるのか?」
「班長命令だし・・・」
「・・・・面倒だな」
「・・・面倒なんて言わないで、さっさとやっちゃおうよ。キョーヤ」

そんな会話が耳に入る。
此処はイタリアなのに、その会話は英語だった。

片方は背の高い日本人。もう片方は、金髪碧眼のアメリカ人。
両方とも男の人で、それぞれスーツを着ていた。
背の高い人はかなり着崩していて、実際それが似合ってる。逆に連れの金髪さんはきっちり着ていて、なんだか妙に可愛らしかった。
少し、首を傾げる。
観光客が英語で話すのは珍しくない。他にもビジネスマンとか、その辺りだったら疑問には思わない。
でも、その二人は、観光客にもビジネスマンにも見えなかった。
一体何をしている人たちなのだろう。
とりとめのない思考。特に、深い意味はない。
目立つ人たちだなぁと、そんな感想を抱いた。

その時は、それだけで。
さほど強く記憶に残っていたわけでもなく、ぼくはほとんどそんなことは忘れていた。
記憶の底に埋もれていた、小さな出来事。
しかしそれが、蘇った。

同じような会話が、耳に入った、から。

「俺はもうアイツの部下じゃないんだけどな」
「セルゲイ次官は使えるものは逃がさない。諦めろ」
「・・・・・面倒だな」
「面倒でもいい。・・・行くぞ、キョーヤ」

振り返ればそこにはいつかの背の高い日本人と、そしていつかとは違う、黒髪の人。
会話は日本語だったけど、それはいつかと似た会話だった。
そしてやはり、彼らは―――というより多分背の高い男の人が、とても目立っていた。

どうして日本に、とか。
むしろ、どうしてイタリアに、と。
そんなことを、漠然と思い。
次に耳元で言われた言葉に、目を見開いた。

「見えたか?あの目立つ二人の明日の行動が知りたい」

ぼくの今日の仕事は、日本にボスたちを追いかけてきたFBIの行動を視ることだったはずだ。
ということは、あの人たちが、FBI。

ただの通りすがりだった小さな記憶が、暗鬱な影を落とす。
知っているというほど、知らない他人。
でも。
ほんの少し、知っていた、人。

「――――――――、―――・・・・」

ぼくの告げた言葉は、あの人たちを、不幸にするだろう。

知らなければ言いというわけでは、ないけれど。
ほんの少しだけでも、知らなければよかったと、思った。









//21歳

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願掛け
マフィアの男と契約した日から、ぼくは髪を伸ばした。
願掛けだった。
それで何がどうなるわけでもない、小さな願掛け。

10年間伸ばし続けた髪は、それなりの長さになって。
見たことのない「兄さん」ととても似ているらしい髪の色は、黒というより若干紺色に思える。
人の目を惹くほどに、目立った。
実際伸ばしていても邪魔なだけだったりはしたが、それでも、ぼくは髪を切ろうとはしなかった。

「・・・・・本当にいいんですか?お客様」

後ろからの声に、ふと、物思いから浮上する。
大したことを考えていたわけではないから、すぐに微笑んだ。
鏡越しに、声の主と目を合わせる。


「はい。お願いします」


しゃきん、と。
軽い涼しげな音がして、長年付き合った重みが、あっという間になくなった。

それはまるで繋がれていた鎖が切れた様に似て。

契約は成った。
あの男は、「ボス」になった。
だから約束も果たされる。

ぼくは今日から、自由だった。

願掛けは、もう要らない。


「・・・・・・・・有難う御座います」


仕事からは逃れられないけれど。

それでもこれは、確かに、ぼくの手に入れた自由だった。










//20歳
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傾いた塔
ぐらりと。
ぼくの中で、高い塔が音を立てて傾いた。
心が、急速に沈んでいく。

糸が切れた人形のように、その場に崩折れた。

思考が真っ白に染まる。

もう、いい。

そう、思った。

もう、いい。

ぼくは今まできっと、それなりに、頑張った。

どんなに苦しくても、哀しくても、申し訳なくても、泣きたくても。
たくさんの人を犠牲にして、幾つも罪を犯しても。

それでも、生きた。

それは誰のためでもない、ただ自分のためだった。
ぼくは、生きたかった。
生きたかった。
生きて、いたかった。
そしていつか、いつか。


そんな資格はないかもしれないけど、幸せに、なりたかった。


でも、もう、いい。

倒れないように必死に支えてきた塔は、もうボロボロだ。
もう保たない。
今度ばかりは、もう、駄目だ。
傾いた塔は、そのままぼくという人格を支える柱。
もう後は、倒れて崩れるのを待つばかり。

願いを持ったのがいけなかったのか。
自由を望んだのがいけなかったのか。
命を捨てられなかったのがいけなかったのか。
生まれてきたのがいけなかったのか。

多分ぼくは、存在してはいけなかった。

どうして生まれてきてしまったのだろう。
神様は、どうしてぼくのようなモノを作ったのだろう。
どうしてぼくは、もっと早く、諦められなかったのだろう。


頑張らなくて、よかったのに。


頑張らなければ、よかったのに。





涙が一筋頬を伝って、床に小さな染みを描いた。









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正論を振りかざす
「親は子供を育てる義務がある!」

ぼくの目の前で、会話は行われた。

それはぼくとはまったく関係ない、ただ別の人と別の人の会話。
子供を捨てようとしている人と、それを止めようとしている人の。

「俺が生んだわけじゃない!」
「生まれてきた子に罪はないだろう!」
「本当に俺の子かどうかも怪しいんだぞ!?」
「子供は親に、愛される権利があるんだ!」

言い合いは続く。

子供を捨てるなんて、最低の人間のすることだ。

―――――では、子供を売るのは?

考え直せ、この子は何も悪くない。

―――――では、悪い異能の子は、いいの。

一方は完全な言い逃れで、一方は世間一般的にとても正しい。
けれどぼくは、その正しい人の言葉にいちいち傷ついた。

「可哀想だと思わないのか、その子が!」

あなたはぼくを、可哀想だと思うの。
なら、あなたは。


ならあなたは、ぼくに何かをしてくれるの?


台詞の一つ一つを聞く度に、心が冷える。
ああ、ぼくは。

何故だかとても、哀しかった。










//12歳

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答えを出して
「ねぇ、なら、教えて頂戴」

その人は。
ぼくが異能を打ち明けると、妖艶に笑ってそう言った。


「私はあと、何年生きられるのかしら」


普段と変わらない口調で、普段と変わらない笑顔で。

何でもないことのように、「死」を、口にした。

「・・・・・・どうして・・・」
「知りたいから聞いただけよ。他に理由が要るのかしら」
「だって」

だって、普通、人はそんなことは考えない。
考えないようにして、生きてる。

「余命約1から5年、なんですって」

言われたことが、一瞬理解できなかった。

この、強く、美しい人が?

死ぬ?

「でも、1から5年なんて、はっきりしないと思わない?どうせならはっきり知りたいのよ、私」

「余命何年」と言う言葉が、なんて似合わない人だろう。
・・・・・・殺しても、死なないタイプの人なのだ。
なのに。

「本当に?」
「聞いてるのは私よ?さぁ、答えを出して」

あなたは答えを見れるのでしょう?

そう続けられて、困惑に瞳が揺れた。
確かに。
確かに、ぼくは、答えを出せる。
だけど、それは。
教えるべきではないのでは、ないか?
教えてしまったら、それは認識によって不変になる。
選択が、絞られる。

「・・・・嫌」
「あら、残念だわ。折角いい人生設計ができると思ったのに」
「ぼくは、あなたに死んで欲しくないから」
「でも、6年は生きられないそうよ?医者によれば、だけれど」
「わからないよ。医者だって間違える」
「そうね」

存在が美しい人。
生きている光を持っている人。
この人が死ぬなんて、ぼくには思えない。
きっと。

「病魔の方が逃げてくかもしれないしね」
「・・・・あなたの中の私ってどんな人間なのかしら・・・?」
「えっと・・・・最強?」
「お褒めの言葉有難う」
「どういたしまして」

この先まだ、無限の選択が待っているから。

未来は、きっと変わる。

だからぼくは、答えを出さない。










//21歳
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突き刺さる言葉
ぼくは断罪を受ける。





「お前がっ・・・!お前が“狂った時計”か!」

ぼくと同い年くらいだろうか。
少女はぼくを真っすぐに睨み付けて、悲痛に叫ぶ。

「お前があんな予知をするから、兄貴は―――――・・・・・!!」

この建物に銃器は持ち込めない。
持って入れるのは、ファミリーの幹部だけ。
この建物、だけは。
例外がない限り、銃を抜いてはいけない。

だから、だろうか。
少女が取り出したのは、鈍く光る銀色の。

「お前の所為で、兄貴は死んだんだっ!」

突き刺さる、言葉。

今までどれだけの未来を狂わせてきたのだろう。
今までどれだけ、誰かを不幸にしてきたのだろう。
今まで、どれだけ。

命を奪ってきたのだろう。

ぼくが視なければ。
ぼくが告げなければ。
ぼくが。



「兄貴が死んでお前が生きているなんて、オレは絶対認めないっ!」



ぼくが、いなければ。



少女はナイフを振り上げる。
振り下ろす先は正確に、ぼくの左胸。

―――――視えたのは、床に溢れる赤い、血。

けれど刄がぼくに届く、直前に。


ぱんっ、と、まるで出来の悪い玩具のような、軽い音が、した。


崩れ落ちる少女の瞳から、涙が零れ落ち。
ついさっき視た赤い床が、目の前に、出来た。

今まで少女が立っていた位置を緩慢に見れば、そこには、銃を構えた男の姿が見える。
ああ、彼は、幹部、だから。
・・・・・だから?
思考が上手く働かない。

立ち上る硝煙の匂いと広がる鉄錆の匂い。
動かなくなった少女と、近寄る靴音。
握られたままの、ナイフ。

酷く、唐突に。
今何が起きたのかを、脳が理解した。

「――――――――っ!!」

叫んだのは確かにぼくだった筈なのに、何故か、声は声にならなかった。
込み上げる吐き気。
気持ち悪い血の匂い。
動かない、動かない、人の形の、肉塊。
光の宿らない瞳は、未だぼくを真っすぐに睨み付けて。

「っ・・・、う・・・ぁ・・ぁ・・・・、あ・・・・・!っ、いやあぁあああ――――――っ!!」

もう、何を嘆けばいいのか、よくわからなかった。

『お前の所為で―――――』

脳裏に蘇るのは、そんな声。

ボクノセイデ、タクサンノヒトガシンダノニ。

どうしてぼくは、生きているのだろう。

どうしてぼくは。


それでも生きたいと、浅ましくも思ってしまうのだろう。










//17歳
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あとの祭り
気付いた時には、大抵が。


もう、遅い。







未来は選択によって変化する。
すぐ先の未来ほど変わり難く、時間が開く未来ほど変わり易い。
それはその未来が来るまでに、幾つの選択が可能かで変わるのだ。
選択は無限にある。
一歩踏み出すか、踏み出さないか。
目を開けているか、閉じるか。
たったそれだけの選択でも、未来は時に変わる。
もちろん変わらない時もある。
そう。変わって欲しい未来ほど、何をどうしても、変わらないのだけど。

「――――――――・・・・」

ああ。

どうして。

どうして、こんなことに。


「・・・・、・・・・・・・・、・・・・・・」

声が、出ない。

立っていられなくなって、その場にへたりこむ。

絶望に心が塗り潰されて、ただ涙だけが、頬を伝った。

ぼくは選択を間違えた。
知っているのに。
わかっているのに。
先がどうなるか、理解していたはずなのに。
どこで変わってしまったのだろう。
どこで、間違えて、しまったのだろう。

どこで。

こんな未来に、してしまったのだろう。

「・・・っ・・・・・・・・」

ああ。

ああ、もう、誰か。







誰かもう、ぼくを、殺して。











//22歳?(21歳以降)
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スキャンダル
「一週間、こいつの未来を見続けろ」

いきなりそう言われ、テレビの画面を見せられた。
そこにはぼくでも知っている、有名映画スターが映っている。

「・・・・この人?」
「ああ。こいつの未来を見て、スキャンダルになりそうな場面を言え」
「スキャンダル・・・・?」
「ああ」

何それ。

一番最初に思ったのはそれだった。
今までで一番変な仕事だ。
同じ人物の未来を見続けるのは好きではないが、それほど見るのが恐い仕事ではなさそう、というのが正直なところ。

「・・・・映像だと、少しキツイよ」
「明日実物を見せてやる」
「・・・そう。わかった」

スキャンダル。
要は、愛人とか、借金とか、そういうものだろう。
一体何に使うのかと思わなくもないけど、聞かないほうがいいことはわかってる。
知らないほうが、いい。
知ってしまえば、視るのが嫌になる。
きっと、よくないことだ。
しかしそんなぼくの思考を見透かしたように、男は言葉を続ける。

「脅しの材料にするんだよ。「必ずわかる」なら、誘拐よりも手っ取り早いからな」
「・・・・聞いてない」

この男は。
ぼくの嫌がることをするのが得意だ。

なんでそんなに、と思うくらい、的確に。
こういうことを、する。

「・・・・・明日までは何もないってことだよね。出てってくれる?」
「これは失礼?じゃあな」
「・・・・・・・・・・・・・・」

ああ。

やはり、聞かなければ、よかった。











//16歳

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カーテンの向こう側
あのカーテンの向こう側に、「何か」、居る。

それはぼくを害する「何か」。
ぼくの望まない、「何か」。

何だろう。
何だろう。

恐くなって母さんの服を掴むと、母さんは訝しげにぼくを見下ろした。

「どうしたの?花梨」
「カーテンの・・・・」
「カーテン?ああ、気付いたの。大丈夫よ、花梨」
「何が居るの?」

見上げれば、母さんは笑う。
安心できるはずの笑みは、何故か恐怖を煽った。

ああまさか。
ああ、まさか。

「アレ」は今日なのか。

「母さん」
「どうしたの?花梨。今日はやけに落ち着かないのね」
「何が、居るの」
「父さんよ」
「父さんと、何」

母さんはさらりとぼくの髪を撫でる。
部屋の奥を仕切るカーテンが、窓からの風に煽られて微かに翻った。

母さんは、なんでもないことのように、言う。





「あなたの所有者になる人」





カーテンの向こう側に行ってしまえば。

もう、戻れない。









//9歳
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逃げられない、逃がさない
ぼくは弱い。
だから、逃げられない。


アレは役に立つ。
だから、逃がさない。





「イツキ。「時計」をそのまま外に出す気か?」

あの賢しいガキと契約してから5ヵ月。
最初の1月は検査に費やした。両親の申告と予知の瞬間がばっちり映ったビデオでしか能力を確認していなかったから、実験と検査を繰り返し、能力値を測定した。
結果は予知確定率96%。
本物のバケモノだった。どうやら俺は運がいい。

この世は裏も表も、情報を制した者が勝つ。
未来の情報なんて、ほとんど金のなる木だ。

事実、この5ヵ月で、俺の地位は1つ上がった。

「いけないか?」

軽く笑って返す。
人を小馬鹿にした笑い顔は、もちろんわざとだ。
今日はこれから、買って初めてアレを外に出す。

「逃げたらどうする」

また、笑う。
今度は、はっきりとした嘲笑。

「逃がすと思ってんのか?」

この、俺が。
あんな役に立つ道具を、ミスして失くすと?

こいつに比べれば、あのガキの方が遥かに頭がいい。

アレは解ってる。
自分が此処から逃げられないこと。
賢いことが仇になる。
自分が弱く力のないことを知っている。
何が出来て、何が出来ないのか。
夢や希望や幻想の、御伽噺のようなバケモノの癖に、夢も希望も幻想もなく、現実的に何が出来て何が出来ないかを知っている。

だから、出来ないことは、やらない。

愚かで、やり易いことだ。
それとも未来がわかると、自然とそうなるのだろうか。
足掻かない。
挑まない。

そんなことをしたらどうなるか―――――わかるから。

本当に、愚かで、やり易い。

「・・・・花梨」
「なに」
「わかってるだろうが、一応言っとく」
「・・・・だから、なに」

腕を掴んで引き上げれば、軽い身体は簡単に持ち上がった。

「逃げようと思っても、無駄だ」

腕一本で体重を支える羽目になったガキは辛そうに顔を歪め、それでもじっとこちらを見返す。

「・・・・・・・知ってる」

ああ、これだから。

コレは愚かで賢しいガキだが、中々、愉しい。

「だろうな。それでいい。――――行くぞ」

俺はコレを使って、裏の世界をのし上がる。











//10歳
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帰る家
「もーいーかい」
「まーだだよー」

夕日が街を赤く染める時間、小さな公園。
住宅街の真ん中に位置するその公園には、子供たちの遊び声が響いていた。
しかし楽しい遊び時間はそろそろ終る時間で、一人、また一人と子供の数は減っている。

「花梨」

遊んでいた中の一人、少女が声に顔を上げる。
6歳程度の少女は、振り返って屈託なく笑った。
少女の名前を呼んだ女性は、走り寄った少女に手を伸ばす。
その手を繋いで、少女ははにかむ様にまた頬を緩めた。

「さ、帰りましょう。花梨」

女性は柔らかく笑い、そして――――・・・






「・・・・何時まで寝てる気だ、花梨」






目を開ける。
間近に映った男の顔に、眉を寄せた。

「別に、寝てないよ」
「何だ・・・長いこと目閉じて呆けてるから立ったまま寝てるのかと思ったぜ」
「ぼくはそんなに器用じゃないよ」
「ふん。何を呆けてたんだ?」
「・・・・・別に?」
「ふーん」

何処の国でも、子供の遊ぶ時間はそう変わらない。
夕暮れ時、サッカーをしていた少年たちが次々と仲間に手を振って離れていく。
「此処で待て」と言われてぼうっと立っていたら、そんな光景が見えて。
何となく、遠い昔のことを思い出した。
ただ、それだけ。

「もういい?」
「ああ。行くぞ」
「・・・・・はい」

もう帰れない。
あの頃は、幻想や夢の中にしかない。
帰る家、も。
帰れる家も。
何処にも、ない。

基本的に、この男と仕事に関係ない会話はしない。
ぼくにも彼にも、する気がない。
もう仕事は終ってぼくは部屋に「仕舞われる」だけだから、移動中に会話をする必要はなかった。
石畳を走る、子供の足音と高い笑い声が耳に入る。
「何時まで遊んでるの」と、そんな声まで聞こえて、少し微笑んだ。
微笑んだのを自覚して、ああ、と、思う。

ああ、ぼくは。

いつか、あれを、もう一度。

望んでいる。

今度は伸ばす側でいいから。
今度は伸ばす側が、いいけど。

いつか、また。
ぼくが仕事を続けて契約が成って、自由になってから。
そんな、いつかの未来に。

「帰ろう」と、手を繋いで。

「家」に、帰れれば、いいのに。













//18歳
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あなたの誇りはなんですか
「貴様らに話すことなどない」

手錠と鎖で戒められ、拷問を受けて尚、そう言う人を見た。
FBIの、マフィア捜査官。
潜入捜査をしていたこの人を、「視た」のは、ぼくだった。
一般構成員は立入禁止の部屋に連れていかれて、未来を視た。
誰かが来たのが視えてしまった時には、戦慄した。
告げれば。
・・・・・・こうなることは、わかっていた。

よほど手酷く痛め付けられたのか、手当てもされず血を流す姿に、顔を歪める。
勝手に体が震えて、思わず強く両腕を掴んだ。

ごめんなさい――――。

そう言いたくなったけど、言う権利はきっとぼくにはない。

場違いなぼくに、その人は若干顔色を変える。

「・・・なんだ、この子は。まさかこんな子供に危害を加えるつもりじゃないだろうな!?」

びくり、と。
申し訳なさに、体が震えた。
ぼくは。
ぼくは、あなたに、心配してもらう資格なんて、ないのに。
時期ボスと目されている男が、ぼくの後ろでせせら笑う。
ぼくの肩に手を置いて、にやりと、楽しげに笑った。
それをどう勘違いしたのか、FBIの男の人は更に叫ぶ。
ああ、叫ぶのも、体力を削るだろうに。
ぼくのために、その人は叫ぶ。

「貴様らに誇りはないのか!?」

この人は、とても、誇り高き、人。

「・・・・・勘違いすんなよ、馬鹿が。これに危害なんて加えたらどんだけの損害だと思ってる?」

嘲笑したまま、男は言う。
そして、ぼくの名を、呼んだ。

「花梨。コイツに未来を教えてやれ」

訝しげにぼくを見る、誇り高い優しい人。
ぼくは目の前に居乍ら彼と目を合わせられずに、俯いて目を閉じた。

そして視て、絶句、する。

言葉を失ったぼくを見て、後ろの男が楽しげに、笑った。

「どうした?花梨。早くしろ」

よろりと一歩後ろに下がって、茫然と、首を振る。
駄目だ。
言ったら、告げたら、この人は。
脚を引いた体はすぐに後ろの男にぶつかって、男は平然と、また厳然と、ぼくに言葉を投げる。

「仕事だ。言え」

ぼくは。
口を、開く。

「・・・・・・・・・あなた、は・・・・・・」

この人は、こんなに、いい人、なのに。
ぼくは。
ぼくは―――――・・・・・。


「・・・ぼくを殺そうとして、この、人に、撃たれる」


この人から誇りさえも奪って、死なせてしまう。
どんなに辛いだろう。
この優しい人が、守るべき子供(ぼく)を殺そうと決意するのは。
どんなに、辛いだろう。
この誇り高き人が、自ら誇りを汚すのは。

「・・・何、を」
「おっと、馬鹿にしない方がいいぜ?コイツがウチの「最高機密」だ。予知能力は便利でな」
「・・・・!まさか、この、子供が貴様らの・・・?」
「ああ。しかし、意外と平凡だな。言い淀むからもっと面白い末路を期待したのに」

ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。

ごめんなさい。

許して、なんて。
言えるわけが、ない。

ぼくの、誇りは。
ずっと前に、粉々に壊して捨ててしまった。
今、ばくが誇ることができる信念なんて、ひとカケラすらも、存在しない。

ごめんなさい。

それでも。

それでもぼくは、生きたいのです。









//15歳
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無限増殖
「ああ、また増えた――――・・・」

ひらりと、白い紙が舞った。

堪り兼ねて、だんっと両手を机に叩きつける。
衝撃で、また2・3枚紙が舞った。

「何で、やってもやってもやっても減らないの!?それどころか増えるの!?」

心の底からの、叫びだった。

隣で若干いつもの精彩を欠いた高埜さんが小さく息を吐く。
彼女の手の中にも、やはり白い紙の束があった。
苛立ちを感じているのは同じだろうに、ぼくのように叫ばずぽつりと零す。

「・・・・・・こんなことなら授業に出ればよかったわ」

ぼくたちが格闘している白い紙。
それはいっそ芸術的なまでにバラバラになっている、この古書喫茶の本の目録だった。
一枚一冊、著者発行年はもちろん、目次やあらすじまで完備。
もともと閉じ方が甘かったのか何なのか、本棚から取ろうとしたら散らばってしまったらしい。

「済みません、皆さん」

そう言って苦笑する青が、この惨状を作り出した張本人だ。
ぼくが来たときには店の床は紙で溢れ、足の踏み場もなかった。
今は紙は机の上にしかないから、片付いたと言えば片付いたんだろうけど。
見て並べて閉じるだけなのに、本当にやってもやっても終わらない。

此処ってこんなに本あったっけ?と、半ば自棄になりつつ思う。
何の偶然か、高埜さんと声が被った。

「「・・・・まさか勝手に増殖してるんじゃ」」

そこで台詞が同時だったことにお互い気付いて、思わず目を合わせて苦笑する。
「そんなわけないよね」と非現実的な台詞を誤魔化そうとした瞬間、青が言葉を挟んだ。


「いやだなぁ、不動さん。本や目録が勝手に増殖するわけないじゃないですかー」


その声音に、高埜さんとぼくの手が、止まった。

青はにこにこと笑っている。
ついさっきの不自然な声などなかったかのように、普段より2割増しくらいの笑顔だ。
自然すぎて、逆に不自然が浮き立つ。

「・・・・・・え・・・」
「・・・冗談、よね?」
「何がです?」

「無限増殖」。
何故か、そんな四文字の漢字が脳裏に翻った。









//21歳
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