安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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終わってないの!?
「ぁっ・・・!」

瞳の色彩(いろ)が変わっていた。

「・・・っ、あ、ゃ・・・・・・、・・・!」

息が切れる。
いつもは自由になる予知の使用/非使用が、自分の意志と決別していた。

「も、ぉ・・・ぃやぁ・・・っ!!」

悲鳴を上げても、瞳は未来を映す。
目を閉じても、暗やみのなかに画は視えて。

映す。
写す。
移す。
遷す。

―――――止まらない。

「ま、だ・・・・・・」

未来が潰える日が来ない。
さきがなくなる時がない。
壊れない。
終わらない。

能力の長時間行使で急激に体から体力が抜けていく。
未来の情報の多さに脳が悲鳴を上げる。

目が輝き。
瞳がくるりと回る。
相眸が、軋んだ。

膝から崩折れて。
けれど目は見開いたまま。

涙が一筋、頬を流れた。

「ま、だ・・・おわって、ない・・・の!?」

足りないと言うのか。
あれだけ泣いても。
あれだけ嘆いても。
あれだけ壊れても。


あれだけ、視続けても。


喉だけが、意志に従って怨嗟の言葉を絞りだす。

苦痛と。
悲哀と。
後悔と。
未練と。
それから絶望が、声を闇色に塗り潰す。

もう。
視たく、ない――――!

「だれか・・・・・・」

必死に。
懇願する相手を、呼ぶ。
見えない相手に、手を伸ばす。

「だれか・・・ぼくごと、で、いいから」

どうか、この悪夢を終わらせて。










//21歳?(多分
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世間とのズレ
「・・・・・・・・え」

目を、瞬いた。

「・・・・・・・・そうなの?」

それは本気で真剣な、心の底からの、言葉だった。

何気ない会話だった。
世間話程度の、特に意味もない。
けれどその最中に、不動花梨は自分の常識とは違ったことを、聞いた。

「・・・・・もう7年も前よ?」
「本好きには世間知らずと言われても仕方ないぞ」

7年前。
そんなに前のことだった。
かの人は、死んだらしい。

「そっか・・・・・・・」

そうなんだ。

遠く、視線を投げる。
哀しいが、涙を流すほどの出来事ではない。
知人ではないけれど知っていた人が、死んでいたという、ただそれだけ。
淋しいとは、思う。
もう。

「じゃあもう、新作は読めないんだね」

軽く息を吐く。
哀しい、淋しい。それ以上に、思ったことは。

―――――残念。

そんな、思考。

幼い子供なりに、好きだった作家だった。
童話作家。知らない人の方が多いかもしれない。
けれど知る人ぞ知る、というか、根強いファンが多いひとだった。

「私も好きだったけれどね」
「ふむ、まぁ、中々不思議な空気を作る話を書く人だったな」

馴染みの古書喫茶に集った、客同士の会話。
何故その作家の話になったかも、よく覚えていない。
著名人の死だったから、ニュースでも軽く話題になったらしい。
すぐに次の話題に流れてしまうほどの、小さなニュース。
けれど知る人にはちゃんと残る、報せ。

7年前。
知れるはずもない、事象。

不動花梨は、軽く、苦笑した。

「ズレてるなぁ・・・・」

知らないことは、あとどれくらい、あるのだろうか。

戻らない歳月を想って、彼女の苦笑は、数秒の憂いへと、変わった。









//21歳
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土の下
夢を見た。
ぼくは丸い月の下、冷たい土に座って必死に土を掘っていた。
爪は剥がれ、土に汚れた指からは血が滲んでいた。
それでもぼくは泣きながら、ずっと、幾つも幾つも穴を掘った。

目が覚めたら、頬に幾つも涙の後が残っていた。

あれはどこだろう。
目覚めの、朦朧とした意識で考える。
冷たい光景だった。
木も何も生えていない、荒涼とした、風景。
生々しい土の感覚が、手に残っているような気さえ、する。

ぼくは何かを言っていたような気もする。
けれどただただ泣いていただけのような気もする。

土の下。
埋まっている、可能性が、あるもの。

何もない風景にたった一つ立っていた大きな十字架が、脳裏に鮮やかに焼きついていた。

埋めようとしていたのか。
掘り出そうとしていたのか。

あれはただの夢だろうか。
それとも未来の光景だろうか。
それとも、ぼくの中にある、風景なのだろうか。

穴を掘る。
穴を、掘る。
幾つも幾つも、穴を。
何かに憑かれたように、ただただ、土を掘る。

それはきっと。

「・・・・起きろ。仕事だ」

ベッドの上でぼくが涙を流していても、彼は何も言わない。
言うわけがない。
生きていれば、否、予知ができれば、それ以外に興味はない。
ぼくは黙って起き上がって、ただこくりと頷いた。

頭の中に、あの風景は消えない。
掘った土の、冷たい感触も。

きっとあの、土の下には。

「行くぞ」
「・・・・はい」

ぼくが今まで犠牲にしてきた人たちの、屍が埋められているのだろう。









//15歳
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彼が「王」なら。
裏の世界に存在する彼の組織が「国」で。
そして此処が、「都」。

ぺたぺたと、裸足で薄暗い廊下を歩く。
ぼくが一日の大半を過ごす部屋のあるこのフロアは、あまり人の出入りがない。
此処は特別区。ぼくは機密。
十字架か錘でしかないその肩書きによって、ぼくはこの都で守られている。
此処は恐ろしい場所。
秩序と平穏をどこかへ置いてきた、混沌の都。
法も常識も此処では通用しない。
ただ浸透されているのは、彼の意思。
完全なる、絶対王政。

「俺の命令に従えないモノは、要らない」

キッパリと、はっきりと。
彼は自分が「ボス」になったその瞬間に、言った。

「無能なモノも要らない。要るのは使えるモノだけだ」

そして同時に、告げる。

どんなに気持ち悪くても。
どんなに目障りに思っても。
どんなに、痛めつけたく思っても。

ぼくの能力を失うかもしれない可能性のあることは、するなと。

「コイツは今一番使える道具だ。復讐でも気晴らしでも、コイツに何かしたいなら―――――」

ぽんと、ぼくの頭に、手を置いて。

笑ってた。

「コイツ以上に使えるモノになれ」

ぼくはその言葉によりこの都で守られている。
「教育」により傷つけられることはあっても、身勝手な暴行は受けたりしない。
大事にする必要はないが。
壊しては意味が無い。

殺したいと正面から言われても。
死にたいのかと脅されても。

ぼくは、それができないことを、知っている。

だから無防備に裸足で歩いていられる。
ぼくの世界はこの廊下と、与えられた部屋だけ。
廊下からは、月が、見えるのだ。

小さく四角く切り取られた黒い空に浮かぶ、月。

部屋からは出てもいいと言われている。
けれど自分の部屋以外入るなとも、言われている。
階段やエレベーターを一人で使うことはできない。

ぺたぺたと歩いていた足を、止める。

窓を、見上げた。

この都は眠らない。
夜はこれから。
動きが増えるのも、これから。
闇が蠢く時間。

こんなにたくさんの、人が居るのに。

月を見上げるのは、ぼく一人。

御免ねと、そんなことを、思った。

折角、綺麗に光っているのにね。









//15歳
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旅行の計画
旅行の計画がこんなに楽しいものだとは、知らなかった。
ああ、違う。多分、知っていたけど、忘れていた。

「あの、これも持って行っていいかな?」

もしかしたら使うかも。
なんて言ったら、少し笑われた。
そんなに長い旅行じゃない。必要なものだけ持って行けばいいと、そんな風に言われる。
あれもこれもと詰め込んだら、重くなってしまう、と。

それはそうだと思い直して、また鞄の中身を考える。
夢中になって考えていたら傍にいたはずの姿がなくなっていて、我に帰って反省した。
あんまりはしゃいでいたから、呆れられてしまったかもしれない。
今度から気をつけようと苦笑して、座っていた場所から立ち上がる。

そのタイミングで、肩に軽いショールを掛けられた。

振り返れば、そこには探しに行こうと思っていた姿。

軽く瞬く。
ショールは軽いけど、あるととても暖かかった。

「――――・・・ありがとう」

嬉しくなって、微笑んで。

こんなに旅行が楽しみなのは、一緒に行く人がこの人だからというのが大きいのだろうと、そんな風に、思った。









//26歳?(21歳以降)
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鏡の中の偽り
ぼくには霊視の能力はない。
そもそも、霊感と言うものが皆無に近い。

だから無理だと言ったのに、ぼくが連れて行かれたそこには、一枚の姿見が置かれていた。

「・・・・・・これが?」

それは、未来を映すと言う噂の、鏡だった。

よくある話、だと思う。夜中の何時に見れば、死ぬ時の顔が映るとか、結婚相手が映るとか。
けれどこの鏡は噂に留まらず、未来かはわからないが、覗いた人の姿以外のものが、映ったらしい。
人々は鏡に幽霊が宿っていると口々に証言した。

本当に未来が映るのか。
その検証に、既に効果が実証されているぼくが呼ばれた。

未来だとしたら、何の、いつの未来か。
同じ力を持つぼくなら、何かを感じ取れるかもしれない――――・・・そんな風に、言われた。

けれど噂の「それ」を目にしても、ぼくは何も感じない。
目立った反応をしないぼくの代わりのように、ぼくを連れてきたボスが、口の端を持ち上げて薄く笑った。

行けと促されて、鏡の前に、立つ。
鏡の中には、左右逆のぼくがいた。
人の未来を視る要領で鏡の未来を覗こうと、束の間目を閉じて意識を切り替える。
相手が動かない鏡だから視えた光景が未来か今かわかり辛くて、鏡に、手を伸ばす。

とん、と。
背中を、押された。

「え・・・・・・・・・」

体勢が崩れて手が鏡に触れる、寸前に。





鏡の中で、立ったままの、ぼくが。

ニィと、笑った。





何か電気が走ったような感覚と派手な音がして、ぼくは膝から崩れ落ちた。

そして。

ボスが、面白そうに、嗤う。





―――――ぼくが覚えているのは、そこまで。









//21歳?
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星降る夜
降るような星空が、ぼく眼前に広がっていた。

暗い室内。
身体を預けるのは、座り心地のいいリクライニングシート。
ドーム上のホールの中央に、大きな機械。
柔らかな声と優しい調べが、耳に届く。

最近のプラネタリウムはただ東西南北の星を映すだけじゃなく、色々なものを映し出す。
それは物語だったり、綺麗な絵だったり。
ストーリーに沿ってアロマの香りが施される、なんていう上映もあった。

ぼくはそれを、飽きもせず、ずっと見ていた。

外に出れば、本物の星空が頭上に広がっていて。
冷たい空気に、吐いた息が白かった。
冬は星と月が綺麗で、見ていて楽しい。
折りしも今日は、満月だ。

またぼくは、プラネタリウムと同じように、その空をじっと見つめる。

ここに居れば会えることは、視て知っていた。

「不動さん」

声が聞こえて、振り返る。

今日は。

「・・・・・・・・こんばんは」




あなたにさよならを、言いに来た。











//21歳
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一生分の運
僕は多分あの時、一生分の運を使い果たした。
そう、思う。

だからこんなに、不幸なんだろう。

「・・・・君に会ったことは奇跡のような幸運だったよ」

微笑んだ。
確かに運が良かった。
彼女に会わなかったら、きっと僕は死んでいたから。
でもだから、その後にいいことは何もなかった。
彼女の所為で。
彼女の、所為で。

たまたま、すれ違って。
いきなり「行かないほうがいい」と真剣な目で言われ、なんだこの人と胡乱な目を向けて。

でも数十分後、彼女の言葉の真意はわかった。

彼女に呼び止められなければ、ぼくは玉突き事故に巻き込まれて死んでいた。
轢かれて血を流して、痛いし苦しい最後だっただろう。
僕が相手にしなくても彼女が食い下がってくれたおかげで、僕は間一髪巻き込まれずに済んだ。

それが幸運でなくて、なんだと言うのか。

「――――――でもだからこそ、君が憎い」

それは一生分の幸運。


使い果たして枯渇した運は、僕に不幸ばかりを連れてくる。


例えばその日のすぐ後、空き巣に入られた。
その後は、父が入院して。
彼女には振られてしまい、バイトも首になって。
こんな汚い仕事に、手を出すはめになった。

君があの時、ぼくに会った、その幸運の、所為で!

微笑みは、酷薄な笑みへと、変わる。



「ねぇ。僕にどう、償ってくれるの?」



僕は、君を許さない。









//21歳以降
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それが親心
子供の幸せを願わない親は居ない。
そんな言葉を見るたびに、思うことがある。

――――――――本当に?

「それが親心というものです」
「そうですよね」

確か話していたのはテレビの中の、有名なコメンテーター。
相槌を打っていたのは、アナウンサーだっただろうか。
よく覚えていないが、とにかく、そんな会話を耳にして。

“親心”。
ぼくは「それ」がよくわからない。
ぼくは「それ」を、知らない。

あの人たちの中にも、そんな心はあったのだろうか。

いつも笑っていた母。
優しい父。
けれどぼくも兄さんも、簡単にお金に変えた人たち。

幻聴が、聞こえる。

歌うような声で。
優しい穏やかな声で。
覚えている、好きだった声で。





「お母さんはね、花梨が大好きよ」
「もちろん、父さんもそうだ」

「だって、あなたは高く売れるんだもの――――――・・・」




首を振る。
違う。あの人たちは、そんなに酷い人たちではなかった。
ただ、普通ではなかっただけで。
ただ、普通とは違っただけで。
ただ。
それが「酷い」と、理解できなかっただけで。

計算尽くではない。
本当に純粋に、ただ、ぼくを売ればお金が手に入ると気付いてしまっただけ。

「大好きよ、花梨」

それは偽りのない本心。

「さようなら、花梨」

これも偽りのない言葉。

「「元気でね」」

これすらも。
紛れもない、真剣なエール。

二人はぼくの幸せを願っていた。
でもぼくを幸せにしてくれる気はなかった。
二人はぼくを好きだった。
でもそれよりも、お金の方が好きだった。

ねぇ。

おやごころ、って、なんですか?









//14歳
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胸の痛みの理由
締め付けられるように、胸が痛い。
「悲しい」に、似てる痛み。
「苦しい」に、近い痛み。

けれどそのどちらでもない、無視できない痛み。

嘘を、つく。

さぁ、何でもないように、綺麗に笑って?



「大丈夫。なんとも、ないよ」



ごめんなさい。

また一つ、謝罪する。
ぼくの人生は懺悔が多すぎて、一つくらいの謝罪ではあまり意味がないかもしれないけれど。

ごめんなさい。

それでもやっぱり、ぼくは、心の中で謝るのだ。
謝るのは卑怯で、ぼくには謝る資格すらないと解っていても。
謝らずには、いられない。

ごめん、なさい。




けれどあなたは、こちらに近づいては、いけない。




嘘付きで御免なさい。
騙すような形になってしまって、御免なさい。
あなたのためだと言ったら、傲慢だと言われそうだけど。
それでもやっぱり、ぼくは。









「用があるから、行くね?・・・・・・さようなら」









もし、もしも、また、会えたなら。
そしてこんな嘘をついたぼくを、許してくれるなら。
その時は、この嘘を叱ってください。









//23歳
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素振り
優しい素振りをしたって、あたしは知ってるんだ。
アレは、『時計』は、悪魔だ。
心を痛めている素振りを見せたって、あたしは信じない。
悪魔はきっと、内心犠牲者を嘲っているに違いない。
簡単に自分の言葉を信じる、このファミリーを笑っているに違いない。

「――――御免なさい。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

泣いていたって、何とも思わない。
どうせ嘘泣きに決まってる。

「ごめんなさい・・・・・っ!」

こんな声に宿る悲痛な色なんて、装飾で。

「ぼくの、せいで・・・・、・・・・!!」

御免なさい、と。
何度も何度も泣きながら言う子供。
小さな身体に罪の意識と自己嫌悪を詰め込んで、壊れそうになっている、子供。

そんな姿、なんて。
偽りに、決まって。

「――――――いきたい、なんて」

死体の前で、儚く散った命の悔恨を引き受けようとするように、搾り出す、声だって。

嘘に。

「生きたいなんて、思って、ごめん、なさっ・・・!ごめんなさいっ・・・・!!」

―――――――――決まって、いるのに。

寸分違わず頭部を狙っていた銃を下ろす。
はらはらと涙を流し続けていた子供が、虚ろな目でこちらを見やった。
深淵を覗いたような、暗い昏い、悲哀を映した、瞳を。
あたしに向ける。

また涙が一筋、その瞳から零れ落ちた。

「・・・、・・・どうして、うたない、の」

もう。
こんなの、いやなのに。

小さく微かな声は、正真正銘、絶望に彩られた、空虚なもので。
解ってしまう。
否、本当は最初から、解っていた。
許しを請う声も、死者を惜しむ涙も、胸を焦がす後悔も。
この子供は本当に、感じているのだろうと。
素振りでも、偽りでも、なく。

本当に、絶望しているの、だと。

「・・・・・・・・・・・っ・・・・!!!」

銃口を向けていた相手の小さな手を取って、反射的にドアへ向かおうとする。
理屈じゃない。
憎い『時計』。
悪魔。
でも、でも、でも。



泣いている、子供だ。



呆然としていた子供が、驚愕に目を見開いて。





「だめっ・・・・・!」





ぱんっ、と、笑えるような音が、最期。
泣き声は止まず、更なる悲痛な絶叫が空気を裂いた。









//12歳

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弾むように歌う声
Jingle bells, jingle bells, jingle all the way
O what fun it is to ride In a one-horse open sleigh―――・・・

ショーウインドウのディスプレイに触発されて、小さく歌を口ずさむ。
ハロウィンが過ぎればすぐにクリスマス。
それが過ぎれば今度はお正月。
商戦は常に一歩先へ進んでいる。
まるでそれは、ぼくの視界のように。

Jingle bells, jingle bells, jingle all the way
O what fun it is to ride In a one-horse open sleigh

自然と浮かぶのは微笑み。
楽しい歌は、人を楽しい気分にさせる。
クリスマスもお正月も、ぼくにはあまり関係ないけれど。
それでも、心が軽く浮き立っていく。

A day or two ago,I thought I'd take a ride,And soon Miss Fanny Bright
Was seated by my side;
The horse was lean and lank;
Misfortune seemed his lot;
He got into a drifted bank, And we, we got upsot.O

口ずさんでいただけの歌声は徐々に音量が上がり、ぼくは人目も気にせず歌いながらメインストリートを歩く。
人の波を縫えば、何人かがぼくを振り返った。

Jingle bells, jingle bells, jingle all the way!
O what fun it is to ride In a one-horse open sleigh
Jingle bells, jingle bells, jingle all the way!
O what fun it is to ride In a one-horse open sleigh――――・・・

気分が乗れば足取りも軽く、ショーウインドウの立ち並ぶ通りを軽快に歩いていたぼくの足が、そこで止まる。

コートのポケットの中で、初期設定のままの電子音が鳴り響いた。

「・・・、・・・・残念」

視えてしまった。
この携帯が、鳴る光景が。

「――――・・・Jingle bells, jingle bells, jingle all the way・・・」

無視はできない、電子音。
それでも数回のコールは無視して、ようやくポケットから取り出した。

周囲の喧騒と明るいディスプレイ、「日常」が、急速に色を失い冷えていく。

目を閉じて、細く長く息を吐いた。
吐く息が、白い。

「・・・・・・・・はい」

仕事だ、とは、聞かなくても視なくても、わかる言葉だった。









//21歳
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冷たい
ぼくはその日、生きているということはとても温かいということなのだと、実感した。

血の通った手も、腕も、頬も。
触れればほっと息が漏れるくらい、温かい。
それが当然だと思っていた。
それ以外の温度なんて、知らなかったから。

そっと、もう一度、白い滑らかな頬に触れる。

目を、伏せた。

悲しく、なる。
けれど、涙は出ない。
現実が、酷く遠かった。


「――――――――・・・・つめたい・・・・」


どうしてだろう?
答えは簡単だ。

彼は、死んでしまったから。

もう生きて、いないから。

死ぬって何だろう。
生きているって、何。
動くこと?
話すこと?
笑うこと?

どれも当たりで、どれもハズレ。

死ぬって、冷たくなること。
生きているって、温かいこと。

ひやりとした感覚が指先から身体の芯まで伝わって、ぱっと手を頬から離した。

ああ。
ああ、ああ、ああ。

そうか。

この人は、死んでしまったのだ。


―――――――――ぼくの所為で。


逃げようと。
ぼくに言った、人。



「―――――――――・・・っ!!」



突然現実が戻ってきて、ぼくは悲鳴のような慟哭をあげる。
そして思考は暗転した。

ああ。

ああ、ああ、ああ、ああ。









優しさを与えてくれたのに、ぼくは悲劇しか返せない。









//12歳
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この気持ち、文にしたためて
大好きなあなたへ。

手紙なんて書いたのは久しぶりで、少し緊張してます。
字が下手で読めないなんてことがないといいけど。
書き出しから悩んでしまって、書き終わるまでにどれだけ時間がかかるかが疑問です。

今更こんな手紙を書いたのは、伝えたいことがあったから。
口で言えば早いけど、たまにはいいかなって。
流石に投函はしないので、すぐに読んでもらえるといいなと思ってます。
別に返事は要りません。ぼくが言いたいだけだから。
・・・返事、読めるなら、嬉しいけど。

あなたと会ったのは何年前だっただろう。
ずっと昔だったなら嬉しいのに、まだそう経ってないよね。
あなたと出会えたことは幸運でした。
本当に、ぼくには勿体無いくらいの幸せ。
あなたは多分知ってるかな。
ぼくが、とてもあなたを好きだったこと。
あなたが笑ったら嬉しくて。
あなたに呼ばれたらくすぐったくて。
あなたの行動に、一喜一憂していた。
とても。とても、幸せなこと。

ぼくはあなたが好きです。

だから、言わせて欲しい。
ありがとう。
そして――――――――――――・・・・・









ごめんなさい。









//26歳?(26歳以降)
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ゾロ目
彼はよくぼくをカジノに連れていった。
それは合法的な場所から、違法な場所まで幾つもの。

「―――――赤の5」

ぼくは賭けたりはしない。
ただ、彼が座った場所の、未来を見て告げるだけ。

ルーレット、ブラックジャック、ポーカー。
一番視易いのはルーレットだったけど、一番未来が変わりやすいのもルーレットだった。
それは解りやすく言えばイカサマで、ぼかして言えばディーラーの腕。
いつも当然のように、彼はスロットなど目もくれず、テーブルに向かう。
当たりすぎてイカサマと呼ばれても、彼はびくともしない。
そして当然、イカサマの証拠はどこにもない。
彼はそれもまた、自分の利益として役立てる。

日本にもカジノはあった。
それは全て裏の、非合法なカジノ。
日本では賭博が認められていないから、お金を賭けていればどこでやっても非合法だ。
欧米と同じように、ルーレット、ブラックジャック、ポーカー。
そして。

「丁、半。どちらかに御賭け下さい」

サイコロ。
これも古き良き、というのだろうか。
江戸から続く、裏の賭け事。

黙っていれば、彼はぼくを見て。

ぼくは口を開く。

「・・・・・、・・・・6と6の、ゾロ目」

今日はどれだけ、勝つのだろうと。
そんなことを、思考の端で思った。









//21歳
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人は悩んで大きくなるの
遠い昔、言われたことがある。
確かあれは、小学校の先生だった。

「悩み事?」

友達の少ないぼくを、何かと気遣ってくれた若い先生。
義務だったのか同情だったのか、それはよくわからないけど。
ぼくはその先生が好きだった。
・・・・あの頃ぼくに、嫌いな人なんていなかったけど。

それはぼくが売られる未来を視た頃。
授業の時間も休み時間も、そのこと以外考えられなかった頃。

頷くぼくに、先生は「そっか」と頷いて、隣に座って。
微笑んで、言ったのだ。

「悩むのは悪いことじゃないわ。人は悩んで大きくなるの」

答えが出ない悩みでも。
それは有意義なのだろうか。
悩めば悩むだけ、神経は磨り減り心は傷つくことでも。
悩んでも、悩んでも。
誰かを傷つける答えしか、見つからない悩みでも。

それは、いいこと?

取捨択一。
ぼくは選んだ。

「――――その、人が」

近い未来入ってはいけない場所に入る、二人の人。
一人の未来(さき)には待っている人が居て。
一人の未来(さき)には、家族はもう誰も居なかった。

誰もいないとは。
ぼくには、告げられない。

だから。

悩んで悩んで悩んで、そして。

ぼく、は。


決める。




「あの部屋に入ろうとする、人」




なんて、傲慢なんだろう。
ぼくにどんな権利があるというのか。
死ぬのが恐い、自由になりたいと、それだけで。
誰かを犠牲にするのを選ぶとは。

――――――御免なさい。

御免なさい、ごめんなさい。

ごめんなさい。



ねぇ、先生。

これでもあなたは、悩むのはいいことだと、言えますか。









//14歳
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いわゆる川の字ってヤツ
仕上げに火を放つ。
日本は基本的に木造住宅だから、少し灯油を撒けばマッチの火はあっという間に広がった。
もう止めようがないほど急速に燃え上がった炎を確認してから、その火に背を向ける。
そのまま歩き出そうとしたら、一緒に来た同僚(ばか)の一人が間抜けなことを聞いてきた。

「終わったのか?」

唇に、薄い笑みを刻む。
馬鹿な問い。
考えてからものを言うことを、覚えればいいのに。


仕事も終わらせずに、目的を果たさずに、帰ってどうする?


思ったことは口に出さずに、軽く肩を竦めて。
「ああ」と一言で、頷いた。

始末する標的は一人。
家族はジジイを入れて5人。
女と、ガキ二匹と。
これはファミリーのけじめ。
全ては同罪に。一家の主の罪は、家の罪。
見せしめの意味もある、日本(ここ)で言う一族郎党皆殺し。
欧米(むこう)で言うなら、多分。
家名を経つ、と、言うこと。
どこに逃げたって、無駄だってことだ。

同行の馬鹿は正真正銘に馬鹿らしく馬鹿っぽい口笛を軽薄に奏でて、皮肉のつもりかちょっと笑う。

「日本人は温厚で決断しないなんて聞いてたが、ありゃ嘘か」

くくっ、と。
今度は薄い笑みではなく、はっきりとわかる嘲笑を、相手に贈った。
やはりというか漸く気付いて、馬鹿が気色ばむ。
軽く流して、携帯を開いて耳に当てた。
馬鹿に付き合っているほど、俺は暇じゃない。
ツーコールですぐに、今の上司は電話に出た。
報告は簡潔に、躊躇なく。

「終わりました」
『そうか。ちゃんと全員殺したんだろうな?』

――――ああ。
コイツもまた、馬鹿か。

あんまり連続すると、笑う気さえ失せる。
馬鹿なんてのは、たまに居るからピエロになれるのに。
陳腐すぎて、道化にすらなれはしない。




この世は使えないモノが多すぎる。




「――――ええ。いわゆる川の字ってヤツで仲良く炎の中に寝てますよ」




俺が上まで上り詰めたら、使えないモノなんて一掃するのに。









//樹 閃月
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切断面
自分の身体から離れた自分の腕の、切断面を、見て。

不覚にも。


―――――綺麗だと、思った。



一瞬後、それは恐怖に変わり。
さらに一瞬後、焼けるような痛みと苦痛に変わる。

「っあ゛・・・!ぁ、ああっ!!」

言葉にならない悲鳴が口から漏れる。
痛い、熱い、痛い。
左手の先についさっきまであったはずの重さが、ない。
血が溢れて、ぼたぼたと冗談のように地面に血溜まりを作った。
赤い。
くらりと脳が揺れる。
怖い、恐い、コワイ。

「・・・っ、うっ、あ、ぁあ、あああっ・・・・!!」

身体の至るところから嫌な汗が出て、生理的に涙が滲み、意味のない音声だけが響き渡る。

ぼくの左腕を持った男は、それはそれは嬉しそうに笑って、べろりとぼくの腕の切断面を「舐めた」。
軽く肉を齧り、引き千切る。
めち、ぐちゃ、と、背筋に悪寒が走るような音がした。

男は口周りにぼくの血を付けながら、ちょっと首を傾げた。

「んー・・・ウマイ、気がする?」

切断された箇所の直ぐ上を手で押さえて止血を試みるけど、ぼくの握力では血を止めるのに全然足りない。
何か細い布か紐か、とにかく何かが必要だった。
ぼた、ぼた、と、血は止め処なく流れ落ちる。

男は傾げていた首を元に戻して、ぼくの左手をぺいと投げた。

また、嬉しそうに、楽しそうに、笑う。

「やっと殺せる。やっとコロせる、やっと!ああ、この気持ち、いい気分!」

逃げなくては。
逃げられるのか。
逃げないと!
逃げるって?









何処へ?









白刃が煌く。
次は左手を押さえていた右手から、血が噴出した。

また切断面が目の前に見えて、その鮮烈なピンク色に、一瞬。

目を奪われて。



間。




「―――――あはははははっ!!!ハハハッ!イイ気分だ!!」



次の切断面は、ぼくの?



「一緒に楽しもうぜ、なぁ、フドウカリン!」



有り難くないことに見知ってしまっていた死神は、にたりと、今度はナイフを舐めて、笑った。









//27歳?(26歳以上)

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めぐりあい
人の時は巡る廻る。
だから出会いもまた、巡り廻る。

私たちのすることは世界を維持すること。
それぞれが存在し続けることで、世界は存続していく。
居ることが、意義。
こう言えば聞こえはいいが、ただ人身御供と何が違うのかと昔思った。
今は思わない。
そんなことを思うのも、馬鹿らしい。無意味だ。
幾ら考えても、私はもう人ではないのだから。
私たちはただ世界を眺めている。
人間が何をするのかを見ている。
世界が壊れていく様を見ている。
哀れなと思いながら、すぐ傍でただ、見ている。

他にすることもないし、出来ることもない。

出来ることといえば、そう。
私が見える人間に、何かをしてやるくらい。
例えば、少し前に神社にやってきた赤子に、私の目を譲ったように。

出雲に神が集まる季節だった。
紅葉を眺めていた私を、じっと見る視線。
穢れのない、澄んだ、幼い瞳。
まだ自我もはっきりしていない赤子に穢れや汚れがあったらその方が逆に驚くが。
神主の一族であるわけでもないのに神が見える目は久しぶりで、不意に気紛れが擡げて。
じっと、私を見る赤子に、笑みを向けた。
まだ自分は笑えたのかと、軽く驚いた。

私はその子が好きになった。

「―――――いい子だね。お前に贈り物をあげよう」

言葉などわかるはずもない赤子は。
私が近づいていっても、やはりじっと、私を見ていた。

その、目に。

そっと手を、翳す。

その瞬間、自分の視界から世界が消えた。

「次に会ったら、返してくれ」

気紛れ以外のなんでもない。
もしあの子が死ぬまで私に会わなかったとしても、大した時間ではない。
それまで盲目というのも、変化があっていい。
私はそれで満足して、踵を返す。

そして。

あの日とは違う神社、喚ばれた神に興味をもって立ち寄ったそこで。
私は再びあの子と会った。

時は巡り廻り。
あの子は赤子ではなく、けれどあの子だった。
見えない目でも、あの子が私を見ているのがわかる。
あの日と同じように、私の隣には紅葉があった。

「ずっと見てたけど、会うのは久しぶりだ」

私は。
ふと、微笑んだ。

ああやはり、私はこの子が好きらしい。

少女を通り越して女性に成長した赤子が、私をただじっと見る。
目隠しをした、私を。

「約束通り、返してもらうことにしよう」

時は巡り廻り。
人は時とともに変わり。
出会いは、巡った。

私は何も変わらない。

私を見つめるその目に手を翳せば、暫く見ていなかった視界が私に戻ってきた。

「あ・・・・・・・」

そこで、初めて。
彼女が、言葉を漏らす。
私の目ではなくなった瞳から、涙を零した。

「あっ・・・・・ぁ・・・・・!」

嬉しいのか、悲しいのか、それとも、苦しいのか。
わからない感情が視える。

このめぐりあいがあの子にどんな変化を齎すのか、それは私が決めることではない。

だから私は言う。

「さよなら、不動花梨」

たぶんもう、会うことはないだろう。









//26歳(予定)
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邪険にされても
「樹っ!」

最初の呼びかけには、振り返りもしない。
走って前を歩く姿に追いついて、もう一度呼んで。
ようやく、何の感情も篭っていない冷ややかな目線がちらりとこちらに向けられる。
しかし、それだけだ。
応えはない。
視線も長くは持たない。ほんの、一瞬。

「樹、今日の取引には行くの?俺・・・アタシも、親父に出ろって言われてて」

会話という会話も成り立たないまま、歩く樹の後を追う。
自分だけが一人話を続け、ただただ関心を引けるようにと工夫を凝らす。

「あ、そうだ、あの、銃!トカレフを一丁新調したんだけど、まだ試し撃ちしてなくてさ、樹は何使ってたっけ?銃は使わないんだっけ?」

一度として、それが功を奏したことはない。

いつも俺が追って、追って、追って。
樹は逃げるわけでもなく、毛の先ほどの興味も俺に抱かない。
無視されてるわけではない。
視界に、思考に、入らないだけ。
流石にそれは、わかってきた。

この男の視界に含まれるのは、この男の役に立つ人間だけなのだ。

そして俺は、この男に、「役に立たない」と認識されている。

樹にとって、「役に立たない人間」など、人間ではない。
そもそも「役に立つ人間」だって道具であって、「人間」とは認識されないのだから、「役に立たない人間」なんて居ないと同義で当然だ。

それでも、それでも。

幾ら邪険にされても、俺はこの男を追う。

「樹っ!」

俺は。アタシは、あんたが―――――・・・・









ぱちぱちと、炎で木材が爆ぜる。
赤く染まった日本家屋に、呆然と目をやった。

何故か、証拠もないのに確信する。
ああ、これは。
樹が―――――閃月が、やったことだ。

屋敷に居た人間で、生き残りはゼロ。
闘争だとも仲間割れだとも言われて、結局放火で片が付いて。
警察は一人行方不明になった閃月を探したが、見つかるわけもなく。

アタシは、独り立ち尽くす。

届かないことは知っていた。
どれだけ呼びかけても、振り返らないことは知っていた。
でも、でも、それでも。
それでも、きっと。
アタシのためでは決してないけれど、此処に。

此処に、居ると、根拠もなく、思っていた。



「――――――――いつきっ・・・!!」



ああ。

世界が、音を立てて壊れていく。









//?

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疑似家族
「お若いお父さんですね?」
「若造りなだけで、実際はそうでも」
「あら、そうなんですか。済みません失礼なことを」
「いえ、よく言われます」

おめかしした小学生の娘(ぼく)を連れ、パーティー会場の奥さま方と如才なくにこやかに会話を交わす男。
目的のためには手段を選ばない、冷たい目の。
ぼくの、今日の持ち主。
親子を演じて来いと、言われた、人。

「ほら、花梨。ご挨拶は?」

何も言う必要はない。
お前はただ、少し後ろに立っていればいい――――・・・。

それがこの会場に入る前の、男の言葉。

向かい合った瞳が告げる。
言った通りにしろと。
言葉よりも明確に、ぼくに命じる。
言われた通りに少し後ろに立ち位置を変えれば、ぽんと腕が降ってきた。
頭を、撫でられる。
背筋が凍って、恐怖と緊張で汗が背中を伝う。
この手は。

怖い、手。

振り払わなかったのはただ、そんな余裕もなかっただけ。

「済みません、ちょっと人見知りで。こら、花梨。駄目だろ?」

こわい。
こわいこわいこわいこわい。

この手は、昨日、ぼくに。
「教育」を施した、手。
演技で優しく撫でられて、作り物の笑顔を向けられて。
それでも、身体を支配するのは圧倒的な恐怖。

やめてはなしていやだ。

この手をっ・・・・!

「ゃ・・・・・・」

つい我慢できずに声を漏らしたぼくに、男は向き直る。
ぼくだけに見える瞳を冷ややかに、やはり声には出さず命令した。

――――――黙れ。

ぴたりと、声は喉の奥に張り付いた。

「親子で仲がいいんですね」と。
表面上は優しい「パパ」を演じる男に、笑顔を向ける人たち。
手近に「子供」が居なかったから、ただそれだけで連れて来られたぼくにも彼女たちは笑みを向ける。

「やっぱり家族は仲がいいのが一番ですわね」

ああ、誰も。

本当のことなど、欠片ほども見てはいない。









//10歳
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歓喜
歓喜に沸く。
煩いほどに溢れた歓声が、酷く耳障りだった。

「我らは「時計」を手に入れた!」

歓喜を煽る、隣の声。
これもやはり、耳障りで。
架せられた首と手足の鎖が、異様に冷たかった。
密度の濃い歓声と熱狂で温度の高い、部屋。
暑く感じても可笑しくないはずなのに、汗一つかかない。
感覚が麻痺しているのか、暑いは愚か暖かいとすら思わなかった。

シークレット・コードNo,00『狂った時計』。
それがぼくに付けられた道具としての呼び名。
あのファミリーでは、大抵『時計(クロック)』とだけ呼ぶ人が多かった。
そもそも呼ばない人、「アレ」で片付けられることが一番多かったけれど、次に多かったのはこれだった。
もしくは、SC00。第一級の組織機密。
ぼくの存在は、他の組織に知られてはならない。
「未来がわかる」という情報はいい。
それがぼくだと、知られてはいけない。
それはファミリーの不利益。
ぼくが狙われることは、好ましくない。

だからぼくが「時計」だということは、ファミリー外には流出禁止。
なのに今、ぼくが他のファミリーに捕まっているという、それは。

ウラギリモノが、居る。

そういう、こと。

ああきっと、戻ったらまた何か視させられて。
そして「粛清」が、行われる。
ぼくが、引き起こす、制裁。

いまだ覚めやらない熱烈な歓喜の中で、目を、閉じる。

視えるのは歓声を上げる人たちでは、なく。





浴びる様に降る銃弾の雨と、溜まる血の赤と、ゴミのような黒い塊。





あと、30分後。
歓喜は惨劇に変わる。
ぼくに付けられた発信機を辿って、「ボス」が、来る。









//20歳

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それは秘密
告げることは助けを求めること。
教えることは、巻き込むこと。

だから、それは秘密。




薄暗い路地から大通りに出れば、人の波に行き当たる。
細い、奥まった「裏」の世界で何が起こっているかなんて考えもせずに、普通に過ごす「表」の人たち。
「仕事」が終ったことが実感できてほっと息を吐く。
そんなタイミングで声を掛けられて、どきりと心臓が跳ねた。

「・・・・不動さん?」

つい、さっき出てきた路地を伺う。
大丈夫、もう、誰もいない。
危害が加わる可能性はないはずだ。

跳ねる鼓動に言い聞かせる。
大丈夫。
大丈夫の、はずだ。

それは秘密。
これは秘密。
知られてはいけない、悟られてはいけない。

ぼくが何をしているか、なんて。



―――――・・・言えない。



ぼくは弱い。
ぼくは、醜い。
ぼくは、汚い。

巻き込みたくない、危険から遠ざけたい―――・・・・
誰かのためと、言いながら。

実際は、ただ、自分のためだ。





笑顔を浮かべようとして、少し失敗した。









//21歳
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隠し事はしないで
拷問は面倒だから嫌いだ。
こんな要らないモノとっとと殺したいと、いつも思う。

暴力にも、未来を読まれる気持ち悪さにも屈しなかった男が、俺の前に座っている。
聞きたいことがある。
こいつが、隠していること。
花梨に少し先まで未来を視させても、わからないと首を振った。
これを聞き出せれば、また俺の地位は上がる。
逆に聞き出せなければ、折角築いた地位にも傷が付く。

面倒だが、聞き出さずに殺すことは論外だった。

「ある事」を調べさせていた部下が戻ってきて、成果を俺に耳打ちする。
満足できる成果に口の端を吊り上げて、花梨を持ってって確実に「それ」を連れて来いと更に指示する。
男はそれを見て、軽く訝しげな表情をした。
・・・とは言っても、散々痛みつけたため、青痣等で表情は見辛かったが。

「・・・もう一度聞くが」

口を開き、ついでに腹部に蹴りを入れる。
これ以上顔を傷つけて、口が利けなくなるのはお断りだった。

「話す気はないか?」

男はごほごほと咳き込んで、それからやはり無言を通す。
ああ面倒なと、舌打ちを零した。

花梨を連れて出ていったはずの部下が、指示を成功させ戻ってくる。
扉を潜ったのは、部下だけではなく。
目隠しと猿轡をされた、女と餓鬼。

その二人に男が目を見張り、身動きして両隣の部下に押さえつけられた。

さて、少しは効果があるらしい。
「それ」は、この男の妻と息子だった。

俺が片手を挙げれば、すぐに部下二人の銃口が女と餓鬼の頭に固定される。

押さえつけられた男が、「止めろ」と叫んだ。

俺も銃を取り出して、男の額に付ける。



「隠し事はしないで、素直に吐け。そうすれば――――」



かちりと、シリンダーが回った音がした。









「とりあえず、楽に死なせてやる」









お前も、女も餓鬼もな。









//樹閃月
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可愛い我侭
可愛い我侭を叶えるために。
ぼくは魔法使いになろうと思った。

まず欲しいのは、可愛いくまのぬいぐるみ。
お店を選んで立ち寄って、一つ手に入れる。
次に求められるのは、綺麗な花。
花束か鉢植えか迷って、鈴蘭に似た小さな鉢植えを購入した。
それから要るのは、きらきらのアクセサリー。
これは小さな宝石が光る、ネックレスにしてみた。
そして、最後は。
食べきれないくらいの、御馳走。

視ていた光景を切って、少し悩んだ。

これは難しい。
少しずつ慣れては来たけど、ぼくは料理があまり上手くなくて。
沢山の御馳走なんて、用意するのは難しい。
そもそも、前もって用意できるものじゃない。
湯気が立っているから、出来立てだから、料理は美味しい。

「我侭」を聞ける時間は、明日の17時20分過ぎ。
それまでに料理を作ってくれるように、お願いしておくしかない。

間に合わなかったら魔法使いにはなれず仕舞いだけど、そこは賭けだ。
とりあえず用意できるものだけ用意して、家に帰った。
何処に置いておこうかと、少し迷う。
結局彼女では手の届かない、上の方に一つずつ隠した。

そして視た通り翌日の5時過ぎに、ぼくは聞く。

「何が欲しい?」

彼女はぼくが視たときと、同じ答えを返した。

「あのね、あのね。くまさんがほしいの!」

笑って頷いて、くまのぬいぐるみを取ってきて手渡す。

「あとね、おはな!」

少しずつ歩いていたから、花の隠してある場所はすぐだった。
やっぱり手渡すと、彼女はぱちくりと目を瞬く。

「あとは?何かある?」
「えっとね、えっと・・・きらきらもほしい!」

これは小さいからポケットに入ったので、取り出して首に掛けた。

にこりと、笑う。
彼女はぱあっと嬉しそうに笑って、宝石よりもきらきらした目をぼくに向けた。

「すごい!どうして?」

ないしょ、と、悪戯っぽく笑う。

他にはある?と、また聞いて。
そして答えと同時に、襖を開けた。

「ごちそう、たくさん!」

そこには頼んだ料理がちゃんと並んでいて、内心ほっとする。
あとでちゃんとお礼を言わなくてはと、思った。

そして御馳走の並んだ部屋を見て、彼女はまた嬉しそうに歓声を上げて。

「すごいすごい!ありがとう、おかあさん!」

そう、言った。
どうやらぼくは、無事魔法使いになれたらしい。

きみが幸せなら、ぼくは幸せなんだよと、抱き締めて言った。

生まれてきてくれて、ありがとう。









//27歳?(無事結婚できて子供出来たら)
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