安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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恥じ入る心
「何時如何なる時も、己を恥じ入る心を忘れてはならない」
「はい、先生」

正座をした幼いぼくが、正面の人を見上げて答える。
その時ぼくは心の底から本当に、その人を尊敬していた。
否。今だって、ぼくはあの人を尊敬している。
けど。

「アイツが何処へ逃げるか視とけ」
「・・・・三つ目の路地を、右。小さな木の扉を開ける」

ぼくの言葉を受けて部下に指示を出す男。
これで逃げた「制裁者」を確保できれば、また彼の功績となる。
力があれば、上へは上がれる。
真実弱肉強食の、裏の世界。

心の奥で「逃げて」と思うぼくが居る。
けれどぼくは先ほど彼の行き先を告げ、捕まえる手助けをしている。
なんという矛盾。
恥も外聞もない、ただ、自分の安全と自由のための、告げ口。
唾棄すべき、行為。
これをぼくは、ずっと続けてきた。

代償と呼ぶには多すぎる、大きすぎる罪は幾つも重なり、きっともう清算も償いも間に合わない。

「己を恥じ入る心を、忘れてはならない。そうすれば、最低限、自分だけは裏切ることなく生きていける」

書道の先生だった。
両親はぼくに甘く、大抵はぼくのお願いを聞いてくれて。
習いたいと行ったら、お稽古に通わせてくれた。

厳粛な、人だった。
幼いぼくの頭では全てを理解できなかったけど、その潔さは感じられた。
ぼくは、真っ直ぐな、高潔な先生の生き方が好きだった。

けど。

きっと今のぼくを見たら、先生は目を背けるだろう。
それとも。
今の、ぼくを見て。

恥を知れと言って、怒ってくれるだろうか。

見せることはできない。
先生に失望されたくないし、ぼくはぼくの罪を打ち明けられるほど強くない。
それにまだ、見せる自由もない。

携帯で部下からの報告を受け取った男が、またぼくを見る。

「隠れているみたいだな。どこに居る?」

一秒先の、未来を視る。
一秒ではそれほど動くはずがないから、隠れている場所も、視える。
ぼくは、それが彼に何をもたらすか知りながら、告げる。

「―――――カウンターの裏に」

自分を、恥じ入る、ことを。

覚えているのなら、きっと、こんなことはできない。

これはとても、恥ずべき行為。









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