無限増殖 |
2007年9月1日 18時40分
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「ああ、また増えた――――・・・」
ひらりと、白い紙が舞った。
堪り兼ねて、だんっと両手を机に叩きつける。
衝撃で、また2・3枚紙が舞った。
「何で、やってもやってもやっても減らないの!?それどころか増えるの!?」
心の底からの、叫びだった。
隣で若干いつもの精彩を欠いた高埜さんが小さく息を吐く。
彼女の手の中にも、やはり白い紙の束があった。
苛立ちを感じているのは同じだろうに、ぼくのように叫ばずぽつりと零す。
「・・・・・・こんなことなら授業に出ればよかったわ」
ぼくたちが格闘している白い紙。
それはいっそ芸術的なまでにバラバラになっている、この古書喫茶の本の目録だった。
一枚一冊、著者発行年はもちろん、目次やあらすじまで完備。
もともと閉じ方が甘かったのか何なのか、本棚から取ろうとしたら散らばってしまったらしい。
「済みません、皆さん」
そう言って苦笑する青が、この惨状を作り出した張本人だ。
ぼくが来たときには店の床は紙で溢れ、足の踏み場もなかった。
今は紙は机の上にしかないから、片付いたと言えば片付いたんだろうけど。
見て並べて閉じるだけなのに、本当にやってもやっても終わらない。
此処ってこんなに本あったっけ?と、半ば自棄になりつつ思う。
何の偶然か、高埜さんと声が被った。
「「・・・・まさか勝手に増殖してるんじゃ」」
そこで台詞が同時だったことにお互い気付いて、思わず目を合わせて苦笑する。
「そんなわけないよね」と非現実的な台詞を誤魔化そうとした瞬間、青が言葉を挟んだ。
「いやだなぁ、不動さん。本や目録が勝手に増殖するわけないじゃないですかー」
その声音に、高埜さんとぼくの手が、止まった。
青はにこにこと笑っている。
ついさっきの不自然な声などなかったかのように、普段より2割増しくらいの笑顔だ。
自然すぎて、逆に不自然が浮き立つ。
「・・・・・・え・・・」
「・・・冗談、よね?」
「何がです?」
「無限増殖」。
何故か、そんな四文字の漢字が脳裏に翻った。
//21歳
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