あなたの誇りはなんですか |
2007年9月2日 18時13分
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「貴様らに話すことなどない」
手錠と鎖で戒められ、拷問を受けて尚、そう言う人を見た。
FBIの、マフィア捜査官。
潜入捜査をしていたこの人を、「視た」のは、ぼくだった。
一般構成員は立入禁止の部屋に連れていかれて、未来を視た。
誰かが来たのが視えてしまった時には、戦慄した。
告げれば。
・・・・・・こうなることは、わかっていた。
よほど手酷く痛め付けられたのか、手当てもされず血を流す姿に、顔を歪める。
勝手に体が震えて、思わず強く両腕を掴んだ。
ごめんなさい――――。
そう言いたくなったけど、言う権利はきっとぼくにはない。
場違いなぼくに、その人は若干顔色を変える。
「・・・なんだ、この子は。まさかこんな子供に危害を加えるつもりじゃないだろうな!?」
びくり、と。
申し訳なさに、体が震えた。
ぼくは。
ぼくは、あなたに、心配してもらう資格なんて、ないのに。
時期ボスと目されている男が、ぼくの後ろでせせら笑う。
ぼくの肩に手を置いて、にやりと、楽しげに笑った。
それをどう勘違いしたのか、FBIの男の人は更に叫ぶ。
ああ、叫ぶのも、体力を削るだろうに。
ぼくのために、その人は叫ぶ。
「貴様らに誇りはないのか!?」
この人は、とても、誇り高き、人。
「・・・・・勘違いすんなよ、馬鹿が。これに危害なんて加えたらどんだけの損害だと思ってる?」
嘲笑したまま、男は言う。
そして、ぼくの名を、呼んだ。
「花梨。コイツに未来を教えてやれ」
訝しげにぼくを見る、誇り高い優しい人。
ぼくは目の前に居乍ら彼と目を合わせられずに、俯いて目を閉じた。
そして視て、絶句、する。
言葉を失ったぼくを見て、後ろの男が楽しげに、笑った。
「どうした?花梨。早くしろ」
よろりと一歩後ろに下がって、茫然と、首を振る。
駄目だ。
言ったら、告げたら、この人は。
脚を引いた体はすぐに後ろの男にぶつかって、男は平然と、また厳然と、ぼくに言葉を投げる。
「仕事だ。言え」
ぼくは。
口を、開く。
「・・・・・・・・・あなた、は・・・・・・」
この人は、こんなに、いい人、なのに。
ぼくは。
ぼくは―――――・・・・・。
「・・・ぼくを殺そうとして、この、人に、撃たれる」
この人から誇りさえも奪って、死なせてしまう。
どんなに辛いだろう。
この優しい人が、守るべき子供(ぼく)を殺そうと決意するのは。
どんなに、辛いだろう。
この誇り高き人が、自ら誇りを汚すのは。
「・・・何、を」
「おっと、馬鹿にしない方がいいぜ?コイツがウチの「最高機密」だ。予知能力は便利でな」
「・・・・!まさか、この、子供が貴様らの・・・?」
「ああ。しかし、意外と平凡だな。言い淀むからもっと面白い末路を期待したのに」
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
許して、なんて。
言えるわけが、ない。
ぼくの、誇りは。
ずっと前に、粉々に壊して捨ててしまった。
今、ばくが誇ることができる信念なんて、ひとカケラすらも、存在しない。
ごめんなさい。
それでも。
それでもぼくは、生きたいのです。
//15歳
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