安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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傾いた塔
ぐらりと。
ぼくの中で、高い塔が音を立てて傾いた。
心が、急速に沈んでいく。

糸が切れた人形のように、その場に崩折れた。

思考が真っ白に染まる。

もう、いい。

そう、思った。

もう、いい。

ぼくは今まできっと、それなりに、頑張った。

どんなに苦しくても、哀しくても、申し訳なくても、泣きたくても。
たくさんの人を犠牲にして、幾つも罪を犯しても。

それでも、生きた。

それは誰のためでもない、ただ自分のためだった。
ぼくは、生きたかった。
生きたかった。
生きて、いたかった。
そしていつか、いつか。


そんな資格はないかもしれないけど、幸せに、なりたかった。


でも、もう、いい。

倒れないように必死に支えてきた塔は、もうボロボロだ。
もう保たない。
今度ばかりは、もう、駄目だ。
傾いた塔は、そのままぼくという人格を支える柱。
もう後は、倒れて崩れるのを待つばかり。

願いを持ったのがいけなかったのか。
自由を望んだのがいけなかったのか。
命を捨てられなかったのがいけなかったのか。
生まれてきたのがいけなかったのか。

多分ぼくは、存在してはいけなかった。

どうして生まれてきてしまったのだろう。
神様は、どうしてぼくのようなモノを作ったのだろう。
どうしてぼくは、もっと早く、諦められなかったのだろう。


頑張らなくて、よかったのに。


頑張らなければ、よかったのに。





涙が一筋頬を伝って、床に小さな染みを描いた。









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