安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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カレンダー
カレンダーに一つ、丸を付ける。
約二週間先の、水曜日。
歪な赤い丸だが、少女は満足そうだった。
まだ幼い。4、5歳だろうか。紺色掛かった髪を可愛らしいおかっぱにした、少女。

「花梨?」

満足気にカレンダーを見上げる少女に気付いて、誰かがその後ろ姿に声を掛ける。
声のあとに姿を表したのは、少女と同じ髪色の、大人の男性。
男性を振り返った少女の様子から察するに、恐らく彼女の父親だろう。
少女はぱっと顔を輝かせ、振り向きざま男性の足にぽふりと抱きついた。

男性は微笑んで少女を撫でて、たった今少女が書いた赤丸を目にして首を傾げる。

何の丸だろうか。

その日は別に記念日でもなんでもないし、用事も行事も約束も覚えはない。
疑問に思いながら少女を見れば、少女はいかにも得意げに、「誉めて」というようなきらきらした瞳で彼を見上げていた。
子供のすることだ。特に意味はないのかもしれない――――――・・・そう思いつつも、彼は娘にそれを訊ねる。

「何の日かな?」

そして少女は、弾んだ声でこれに答えた。

「ままがよろこぶひっ!」

ぱちくりと、目を瞬く。
やはり子供の言うことかと、微笑ましくも苦笑した。さっぱりよくわからない。

「そうか、楽しみだね」
「うん、たのしみっ」

普通なら。
子供の悪戯。意味のない、当てずっぽうの。
それで終わってしまう話。

けれど。

二週間後の、水曜日。
応募した懸賞が偶然当たって歓声を挙げた男性の妻が、記念にカレンダーに丸をつけようと言いだして。

「あら?今日何かあったかしら?もう丸がついてるわ」

男性の顔から微笑みが、消えた。

ママが、喜ぶ、日。

偶然?
反射的に自分で答えた。
いいや、多分、違う。

気付けば今まで他にもあったと思い至る。
あれも。これも、それも!

彼は娘の眠る部屋を見やり、そして。
また、微笑みを顔に浮かべた。

「花梨が書いたんだよ」
「あら、そうなの」
「うん、どうやらあの子は匠と同じみたいだ」
「あら・・・そうなの」
「うん」

それが少女の未来が確定した日の、会話だった。












//4歳
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暖かいところに行きたい・・・
此処は寒くて、冷たくて。
暗い、場所。

それはまるで地の底のような。
それはまるで、太陽の光も届かない空の果てのような。
温度のない、ところ。

地から生えた鎖に繋がれたぼくは、逃げる術もなく。
そしてまた、逃げる場所もない。

開いているだけで何も見ていないぼくの視界に、この場所の「主」が、ぼんやりと映る。
彼は此処の支配者で。
ぼくは彼の道具。
やがて「主」が、何かを言った。
音が耳を滑る。
わからない。
今、なんて、言った?

もう一度、「主」は口を動かす。
声は聞こえているはずなのに、耳に脳に体に染み込んでいるはずなのに、何を言われているのかわからない。
聞き直そうにも喉は張りつき、唇は鉛のように重い。
ぼくの虚ろな反応に彼は笑う。
満足気に、見えた。
そしてぴくりとも動けないぼくの耳元に唇を寄せて、もう一度、何かを言った。

前の二回と同じ言葉。
それはわかるのに、何を言っているのかは全然わからなかった。
けれど識る。
体のなかの何かが、告げた。

それは決して消えない言葉。

「主」が、ぼくから離れる。
次の言葉は、ちゃんと認識できた。
認識できたからと言って、返事ができたわけではなかったけれど。

「――――――――・・・・・いい子だ、花梨」

麻痺していた色々なものが、溶けだしていく感覚。
真っ先に蘇るのは、恐怖と苦痛。

涙が一筋だけ、目から零れた。

「忘れるな。お前は何処へも逃げられない」

暖かいところに行きたい、と。
思った。

理性はいとも簡単に、自分の思考を嘲笑する。




そんなところ、お前には存在しないのに。










//13歳
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白く埋めつくす
そこは「カジュ」と言う名の、国境近くの小さな村だった。
一面の白に煉瓦の壁の家。
大きな建物と言えば教会一軒くらいの、こじんまりとした集落。

さくりと雪を踏んで丘からその村を見下ろして、思わず目を逸らした。
それは数日前、視た景色。

ああ。
着いて、しまった。

隣で神父の格好をしたぼくの「持ち主」が、唇を持ち上げる。

「間違いないな?」

ぼくは逸らした目をもう一度村に向け、教会をじっと見て。
首を振りたい衝動に駆られる。
頷きたく、なかった。
此処は未来の分岐点。

「花梨」

答えを促す声。
鋭い眼差し。
びくりと、肩が震えた。

そしてぼくは。
血が出るほど強く手を握って、ゆっくりと、頷いた。
・・・・・・頷いて、しまった。

数日前に命じられて未来を視た男は、これから此処に来る。
ぼくらと同じく不法入国をして、勝手に作った秘密の地下通路から教会へ。
・・・・・撃たれた足を、引き摺りながら。
この村は彼の避難所だった。

そして彼はまず、何も知らずに教会に住んでいる、神父さんを―――――・・・


・・・・・・けれどぼくが未来を告げたから、未来は変わった。
彼は。
これから入れ替わるぼくの隣の「神父」に、・・・・・・殺される。
彼にしてみれば、返り討ちに会う形だろうか。
そして本物の神父さんは。


最初の犠牲者に、なる。


「お前は此処に居ろ。・・・ディオ」
「はい。持ち物の管理は私にお任せを」
「任せる」

つい、反射的に行かせたくないと体が動く。
雪の影響もなく滑らかに動く「神父」の服の裾を掴もうとした腕は、背後に控えた男――――「ディオ」に取られて背中に回され拘束される。

「っ――――――!」

関節が悲鳴をあげた。

片手であっさりとぼくの動きを封じた「ディオ」は余った片手で銃を抜く。
冷たい感触が首の裏に当たって、ぼくは声を飲み込んだ。

「イツキの邪魔をするな」

低く冷たい、小さな声。
けれどそれで、十分すぎるほど十分だった。

でも。
だって、どうして。
どうして止めないでいられる?

白い雪に被さって視える色彩。
静かな今では想像も出来ない、音。
ぼくにはそれがわかるのに!
ぼくが。
ぼくの言葉が、それを引き起こしたのに!

何かできないのかと焦燥を浮かべたぼくに、ふと、小さな笑い声が聞こえる。
銃口はそのままに、腕だけが離された。
ぼくは知っている。これは。

蔑む、視線。

「今更」

心臓に太い杭を打ち込まれたように、衝撃が駆け抜けた。
今更。
今更、何を言うのか。
「ディオ」は、そう言ったのだ。

言葉がぼくを深く抉る。

それは聞きたくなかった事実で、だからたった一言で感情はずたずたに引き裂かれた。

いまさら。
もう、遅い――――――・・・・・

お前のそれは偽善だと。
此処であがくことが何になる、と。
彼は嘲笑った。
そしてそれは、その通りなのだ。

たーんっ、と。
長く響いた猟銃の音が雪に溶ける。
それが惨劇の始まり。
つい数分前に視た画が、聴いた音が、現実になる。

神父服のぼくの「持ち主」が戻ってきて、「ディオ」は銃を下げる。
それから彼に一礼して、白い斜面を下りていった。
ぼくは。
何もできない。
「止めたい」と思うことすら、烏滸がましい。
自ら、引き起こしておいて、今更。
何ができると言うのだろう。

「生存者は?五分後、動いてる人間は居るか?」

視界に映ったのは、雪の降る中をよろけながら必死に進み穴を掘る、一人の少女。
ぼくは目を閉じて、そして。

「いない」と、答えた。

惨劇が終わり。
再び静かになった村に雪が降り積もる。
雪は、まるで何事もなかったかのように、村を白く埋めつくした。



そして消えない罪がまたひとつ。









//15歳

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初夢
夢を見た。
哀しいのか苦しいのかそれとも嬉しいのか、わからない、夢。
或いはそれは未来だったのかもしれない。
ぼくの能力が予知夢となって現れることは、そんなに珍しいことではなかったから。

それはぼくが死ぬ夢だった。

起きたら泣いていた。

ぼくはナイフか何かで刺されていて、一瞬では死ななかった。
立つことのできないぼくを、誰かが抱いてくれていた。
ぼくは死にたくなかった。
だけど一人で死なないことが、嬉しかった。

誰かは血の止まらないぼくを抱えて、泣いていた。

ぼくは、それが。

嬉しかった。

けれど、泣かせてしまったことが、哀しかった。
苦しかった。

せめて、一言。
言いたいと思う。
夢なのに、思考は夢だと知らないから、それは真剣な「想い」だった。

奇跡を願う。

声よ。
喉よ。

一言。たった一言で、いいから。

「――――――・・・、・・・・・・」

ありがとう?
ごめんなさい?
さようなら?

ううん、違う。
ぼくが、言いたいの、は―――――




そしてそこで、ぼくは目を開けたのだ。

誰だろう、と、思う。
ぼくが死んで泣く人なんて、誰もいないのに。
刺されて倒れて、支えてくれる人なんて、誰も。

心理学的に、夢は願望の形なのだと聞いた。
願望と経験が交ざる、幻。

「自身の死」。
意味は逃避か、離脱。

奇しくもそれは、今年の初夢だった。

願望か幻か、それとも未来か。

ただ真実とわかるのは、夢に感じた感情だけ。









//19歳
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今年の抱負、いってみましょう!
小学校の、2年生のとき。
初めて「書初め」の、宿題が出た。

それは一年の抱負を、書に認めること。

ぼくは墨汁で服も手も、顔まで汚しながら、せっせと筆を繰った。
教室で墨を使うことはあまりなかったから、楽しかった。
室内も当然のように汚してしまったので、それだけは失敗した思い出として残っている。

3年生のとき。
二度目の「書初め」は昨年よりも上手く書けて、拙い字ではあったけど、展覧会で賞を取った。
とは言っても金から始まる賞ではなく、佳作、だったけど。
嬉しくて、ぼくは書道が好きになった。

4年生の、とき。
ぼくはぼくが普通とは「違う」ことを理解していて、だから予知はあまり使わないようにしていて。
何か視えても、言わないように、心がけていた時期。
自分を。
殺した時期。
「書初め」は勢いをなくして、少し歪に見えた。

5年生。
最後の、お正月。
ぼくはもう、「売られる」未来を見ていた。
必死で「いい子」になろうとしていた。
ぼくを捨てないで欲しかった。
ぼくはそこに居たかった。
ぼくが必要だと言って欲しかったから、言われたことはなんでも頑張った。
両親に予知を請われれば。
ちゃんと視て、告げた。
――――・・・その後それを録画した数本のビデオが、ぼくを売る際にぼくの能力の「証明」として使われたのだと、知るのだけど。
その時はとにかく、必死で。
自分で自分の首を絞めていたことには、気付いていなかった。
書いたのは。

「継続」

そのまま。
このまま、時が続けば、いいと。
そんな、願い。
抱負でも何でもないと、今は思う。

そしてそれ以来、ぼくは「書初め」とは無縁になった。

「今年の抱負?」

きょとん、と。
聞き返す。
聞かれた言葉の意味は知っていても、理解が追いつかなかった。

「ええ。折角だもの、考えてみたら?」

差し出される筆。
大きな長い半紙には、もう既に幾つか言葉が書かれていた。
まるで寄せ書きのようだ。

「抱負・・・・」

ぼくが。
達成したいと、望むこと。

筆を受け取って、半ば反射的に、手が動いた。

書いたのは最後の書初めと同じく、たった二文字。

「離脱」

そして意図的には正反対の、言葉だった。









//21歳
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