安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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電池の寿命
「あ・・・」

ぷつんと切れた光に、小さく声を零す。
電池が切れたのだと、すぐにわかった。

電池は消耗品だ。
だから、いつかは切れる。それはわかっているし、慣れている。
でも、何故か。
いつも、とても淋しい気分になる。

電池の寿命。
役に立つうちは遠慮容赦なく使われて、使えなくなると捨てられて。
そして、また新しい電池が使われる。
それはまるで。

「もう視たくない?」

鼻で笑う男の言葉を思い出す。
もうこれ以上、人を不幸にする予知をしたくないと、告げた時のことだった。
ぼくと契約を交わした男は、ぼくの首を片手で掴み、持ち上げる。
気管が圧迫されて、ひゅうと喉が鳴った。

「なぁ花梨。お前は何か勘違いしてないか?」

ぐっと、手の力は強く込められ。
反射的にその手を退けようと手が動くけど、ぼくの力如きじゃその手はびくともしない。
男は、ぼくの苦しみ方を見て、嘲笑を浮かべた。

「お前は道具だ。使えなくなるまで、黙って使われろ。意思も命もお前のもんじゃない、俺のものだ」

そこで唐突に手は離されて、ぼくはコンクリートの地面に落下する。
塞き止められていた空気が急に入り込み、咽て咳き込んだ。
生理的に涙が零れ、肩で息をする。
そのぼくを覗き込んで、彼は言った。

「使い捨てなんだよ。次そんなこと言ってみろ・・・脅しじゃなく、殺して捨てる」

そしてその夜、ぼくは自分の未来を覗き視る。
不意に過ぎった未来は、ぼくの寿命が来る日の光景。
ぼくの、力が消える、その日の。

寿命を遂げた電池を、指の腹で小さく撫でる。
有難う、と、心の中で呟いた。
その電池を。
危険物として、袋に、入れる。
ゴミ箱に。
捨てる。

いつも、淋しい、気分になる。

それはまるで、いつかのぼくの姿。










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