安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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本領発揮!
視界が急にブレて、見える光景が変わる。
はっ、として、上を見上げた。

建設中のビルから伸びる鉄の腕に、ぶらさがる無数の鉄骨。
遥かな高みにある、褐色の、それ。

「―――――・・・・っ!」

「逃げろ」という警告だけでは、間に合わない。
上空でぷつりと聞こえない音がして、鉄骨を釣り下げていたワイヤーが切れた。

最初はぼくの右を歩く学生。

「止まって!一歩下がって!」

進行方向に割り込んでそう叫べば、学生は気押されて素直に一歩下がる。
それを見てぼくはすぐに次の人の方へ走ったから、学生は「何だよいきなり」、と悪態をつき、気を取り直して歩き出そうとする。
その瞬間。

最初の轟音が響く。

空から降ったそれは予知通りに「さっきまで学生が居た場所」、つまりは現在の学生の目と鼻の先に突き刺さり、土煙を上げた。
そしてその頃には、ぼくは三人目の手を強引に引いていた。
四人目は、乱暴に力一杯突き飛ばす。

轟音は最初のものからほとんど間を置かずに次々と響いているけれど、振り返る余裕はない。

大丈夫。
これだけすぐの未来なら、ぼくの予知はほとんど絶対だ。

走り回るぼくの髪を掠めてまた一つ鉄骨が刺さる。
刺さり方が甘かったのかそのまま傾いて、建設中のビルの柵に当たって止まった。
これが来たと言うことは、あと、一本!

空を見上げて立ちすくむ小さな女の子に手を伸ばして、なんとか抱えて地面を転がった。

刹那、最後の轟音。

土煙は未だ止まない。

何が起こったかわからず吃驚している女の子を立たせて埃を払って、怪我がないことを確認してほっと息を吐く。
土煙が収まれば、歩道は酷い有様で。
けれど誰も大怪我はしてなくて、ぼくは安心して微笑んだ。

野次馬に囲まれて動けなくなる前に、踵を返す。

「――――、―――・・・良かった」

きっと、本当は。
ぼくの力、予知は、こんな風に、人を助けるための力なんだろう。
どこかで道を間違えなければ、誰も不幸にすることなく、この力を使えていた。

この力で人が助けられるなら、幾らでも。
脳が焼き切れるまで、予知を使っても構わないのに。

上手くいかない。

ああでも、今日は、今だけは。

この力を誇っても、許されるかもしれない。










//20歳

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弱音を吐くな!
「・・・母さん」
「元気でね、花梨」
「・・・・・・うん」

慈愛に満ちた表情で、ハハは言った。
何も、罪悪感のカケラもない顔で、ぼくの手を離す。
チチは、そんなハハの肩を抱いた。

黒服に腕を強く引かれて、つい、ぼくは、振り向いた。
一縷の期待があった。
もしかしたら、追って。
手を伸ばして、くれるのでは、ないか。
もしかしたら。

――――・・・ぼくは、振り返っては、いけなかった。

見えたのは、伸ばされた手でも追い縋る両親でもなく。
ぼくよりも大事そうにお金が入ったカバンを抱いて微笑みあう、二人。
ぼくにはもう、目も向けず。
それはとても、幸せそうな。

「―――――・・・っ・・・!」

知っていたはずだ。
ぼくはこの光景を、一年前に視てていた。
変わらなかった。
変わらなかった、それだけだっ!
手放したくないと思って欲しかった。我儘は言わなかった手伝いもした勉強も。
それでも。
やっぱり、変わらなかった。
ただ、それだけ。

泣くな。
嘆くな。
弱音を、吐くな!

覚悟はきっと、できていた。

「・・・・・さよなら」

ぼくを生んで、けれど愛してはくれなかった人たち。









//9歳(もうすぐ10歳
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夏に降る雪
空から舞い落ちる白いもの。
そう言われたら何を連想するだろう。
雪?
でも今は夏だ。
それは雪ではなく。

「・・・・・・花・・・」

太い樹から舞い散る白い花弁が、絶え間なく降り注ぐ。
それが、空から降ってくるように見える。
ぼくは陶然と眺めていた白い花弁たちから目を離して、振り返って笑う。

「・・・・素敵な場所だね」

微笑めば、微笑みが帰ってくる。

ああ、それはなんて。


幸せな、光景だろう。


「―――――連れて来てくれて、ありがとう。「 」」


目を開ければ、それは黒く塗り潰されて消える、夢。

一瞬の黒の直後に、ぼくに与えられた部屋が映る。
マフィアの本部内に位置する、小さな、部屋。
扉には鍵、窓には格子。
隣には研究室、逆の隣には見張り。
施設内はそれなりに自由に歩ける。ただし、見張りつき。

ぽつりと、呟いた。

「・・・・・あれは、未来?」

本当に?
いつの?
何年後?
それとも。

「・・・・・ただの、夢?」

もうすぐ、ぼくが契約したあの男は、このマフィアのボスになる。
「ボス」に就任して約2年。裏切り者や反逆者を潰して、名実共に、正真正銘のボスに。
それはイコール、ぼくがこの部屋を出れるということ。
だから、可能では、ある。
可能ではある、未来なら。

期待しても、いいだろうか。

これからも生き続ければ、あんな日が、来るのだろうか。

何故か、涙が、一筋流れた。

ぼくは。

幸せを願って、いいの?

流れた涙は、たった一筋だけで、涙の跡だけ残して消えた。










//19歳
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頭がぼおっとする。

「・・・りん。花梨。何をしてる?行くぞ」

男の声が酷く遠い。
今日の仕事はこれから警察に行って、ある刑事と密かに顔を合わせて、その人の未来を見ること。
ぼくは子供だし、一般人だから、警戒されずに会うのは簡単だ。
だから、これから出かける、のに。

体が上手く動かない。

「・・・・・・おい」

黒服が埒が明かないとぼくの腕を掴む。
強く引かれて、くらりと、視界が揺れ。

「ぁ・・・・・」

捕まれた腕はそのままに、膝を着いた。

はぁと、吐いた息が熱い。

辛うじて膝を着くに留めていた片腕が、支える力を失ってくたりと崩れた。
ぶらんと、捕まれた腕だけが無意味に上にある。

「・・・・・・りん、・・・した?」
「・・・・・す?・・・さん」
「・・・・ば、・・・・・・ずだ。お前、持て」
「はい」

すぐ上で交わされた会話が遠い。
聞き取れないままに力の入らない体が浮いて、砂袋か何かのように肩に担がれる。
逆らう気力も起きない。
視界が次々と流れて、やがて車に放り込まれた。

これは、熱だ。

覚えがある。
前のときは、母さんが、冷たい、桃を。
何も食べたくないと言ったら、缶詰を買ってきてくれて。
嬉しかったことを、覚えてる。

男の顔が、目に映る。
ぼくに顔を近付けて、耳元でゆっくり言葉を発音する。

「仕方がないから刑事の前には連れていってやる。未来は見れるんだろうな?」

ぼくは、薄く、笑う。

何を笑ったのかよくわからない。
帰らない過去を振り返った甘い自分か、こんな病人を運んでまで未来を知りたいと言う男か。
それとも、もしかしたら心のどこか片隅で、「休んでいい」と言ってくれるかもしれないと期待していた愚かな心かもしれない。

体は上手く動かない。
頭もぼおってしている。
会話も、遠い。
けれど。

「・・・・・・目、は、見えてる・・・」

だから、何も問題なんて、ない。


問題なんて、ない、のだ。









//12歳
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心頭滅却すれば
ぼくがたまに行く店。
古いビルの2階にある、ひっそりとした扉の小さな店。
否、それなりの広さはある。けれど、林立された本棚の所為で、とても狭く見える、店。

「古書喫茶」。

喫茶と言ってもメニューもなくほとんどセルフで、出てきてもコーヒー、という、喫茶とは言えないくらいの喫茶店。
本棚に隙間なく並べられたジャンルの様々な本は、閲覧自由持ち出し可。
図書館と違うのは、あまり大勢の人が来ないところと、24時間何時でも開いているところ。それから、置いてあるのは古書が中心であるところか。
ひっそりとした佇まいのドアには店の名前もなく、「welcome」の札が下がっているだけ。
普通の人は、まず、開けない。
ぼくがその店を知った経緯はまぁ、此処では省く。

「いらっしゃい、花梨さん。まだまだ暑いですね」

そう零したのは人当たりのいい、店主の青(せい)。
彼がこの部屋から出たのをぼくは見た事がない。
この部屋は適度な冷房が効いているし、部屋の間取り的に日光があまり入らない構造なので暑くはない、のだけど。
気を使って話題にしてくれたのか、それとも外に出たのか。それが少し謎だ。
寡黙にコーヒーを青の居るカウンターに置くのは従業員の緑(ろく)さん。
どう贔屓目に見ても中学生の青と30台だという緑さん。
これで店主は青なのだから、それも謎といえば謎。
でも、それはぼくが口を出すことではないし、言ってみれば「どうでもいいこと」だ。
大事なのは、誰が店主か、誰が従業員か、そんなことではなくて。

「そうだね。こんにちは、青。緑さんも。今、誰か来てる?」
「ええ。高埜さんがいらしてます」
「ああ、彼女か」

此処はとても、居心地がいいと、いうこと。

入り口から本棚を縫って奥へ行けば、幾つかのテーブルと椅子。
この部屋唯一と言っていい窓の傍の席に、一人の女子高校生。
この店は、店主も従業員もいい人で。
それから、客も選んだようにいい人だ。

「こんにちは」
「御機嫌よう、花梨さん」
「相変わらずの指定席だね。たまには別のところに座ればいいのに」
「気に入ってるのよ、此処」

全寮制の女子高に通っているという高埜鏡子嬢。
お堅いイメージはあるのに、何故かよくここに居る。
昼夜問わず。夜には少し客が増えるからと、ウエイトレスのようなことすらしていた。
彼女もまた、謎といえば謎だ。

そして次によく会うのは、「謎」の塊。

「・・・・・・暑い」

何時の間に後ろに居たのか、声に振り返ればその謎の塊がひっそりと立っていた。
青よりも更に幼い容姿。
けれど自称、ぼくよりもずっと年上。

「東雲さん」
「御機嫌よう、静里香ちゃん」
「また会ったな。花梨、鏡子」

彼女は。
「魔法使い」なのだと、言う。
真偽を問うたり一笑に付すような無遠慮な人は、此処には来ない。
だからぼくも、本当のところはよく知らない。
それでいいと思う。
本当に魔法使いだったらそれはそれで素敵だと、思う。
というか、結構信じてるかもしれない。

「しかしそなたら、青もだが・・・妙に涼しげだな」
「そうかな?」
「そうかしら?ちゃんと暑さは感じているわよ?」
「佇まいがこう・・・なんというか、暑さも裸足で逃げそうだ」
「それ、高埜さんだけじゃ・・・」
「褒められているのか貶されているのか判断が難しいわね」
「とにかく、「あーつーいー!」という叫びが聞こえん。不思議だ」
「そうね・・・強いて言えば、あれかしら」
「「あれ?」」

此処で緑さんがコーヒーを二つ持ってきてくれて、やはり寡黙にテーブルに置く。
何も言わずに去るかと思いきや、ぼそりと、小さく一言呟いた。

「心頭滅却すれば、でしょうか」

三人で目を瞬く。
それから「あれ」と言った高埜さんが、くすりと妖艶に笑った。
彼女はたまに目の毒だと、思う。

「流石ね。心頭滅却すれば火もまた涼し―――要は気力の問題よ」

なるほどと、ぼくと東雲さんは妙な説得力に感心した。

此処は、場所も店主も従業員も客も、不思議な店だ。









//21歳

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制御し難い感情
これ以上、彼を好きになってはいけない。

そう思うのに、思うように、上手く行かない。
どうしてこんなに彼は優しくて、ぼくは甘えてしまうのだろう。
もう会ってはいけない。
彼のためを考えれば、間違いなくそれが正解。
ぼくと関わらせてはいけない。
さようならも告げずに、予知を駆使して、離れるのが、ぼくにできる唯一のこと。
なのに。

なのに。

ああ、どうして。

「・・・・こんばんは」

会えてこんなにも嬉しいと、心が叫ぶ。

既に巻き込んでしまった。
ぼくと関わっていたら、きっとぼくは彼をもっと巻き込んでしまう。
それなのに、ぼくは、また、彼に会いたくなる。
会って、話して、笑顔を見たいと、思う。
甘えてしまう。
彼は優しいから。
彼はとても、優しいから。

いけないのに。
今度だけ、これでおしまい――――何度、そう、思ったことか。

ぼくは、なんて、弱い。

制御し難い感情が、風に翻弄される木の葉のように揺れ動く。

ぼくは。


ぼくは彼に、何を返せるのだろう。









//21歳
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奇跡の目撃者
それは奇跡のような光景だった。

降り注ぐ鉄骨。
不思議な色の瞳をした少女が、その中を泳ぐように動く。
その目は何処も見ていないようで、しかし全てを見通すように煌いて。
必要最小限の動きで歩行者の位置を動かして固定し、時には強引に押し出して。
一人の腕を引き一人の背中を一歩押し、少し離れた次の一人に走る。
遥かな高さから落下したビルの骨組みである鉄骨は、少女が最後の一人を押し倒した瞬間に、爆音のような音を立ててコンクリートに突き刺さるように到着した。
土煙が舞って、視界が不明瞭になる。
一部始終をただ眺めていた野次馬が、一拍遅い悲鳴を上げた。
爆音と悲鳴に感化されて、野次馬は一層増える。
僕は思わずぎゅっと拳を握って、彼女と通行者たちの末路を確かめるべく目を凝らした。

そして土煙が収まった、歩道には。

通行人を避けるように林立した、無骨な鉄骨の、林。

皆何が起こったかわからないという顔で、呆然と立っている。
斜めに地面に刺さっている鉄骨もあれば、横倒しになっているものもある。丸太を組み合わせたように刺さっているものもある。
なのに。

誰一人として、怪我人は居なかった。

戦慄する。
僕だけなのだろうか。気付いたのは、見ていたのは、僕だけ?

彼女が、あの、わけがわからないといってもいいような動作で、次々と通行人を動かしていかなければ、鉄骨の下敷きになった人間は絶対にいた。
それはまさに、奇跡のような、光景。

彼女はほっとしたように微笑んで、そして自分は何もしなかったかのように、立ち上がる。
誰も止める者がいないことを幸いと、そのまま、何も言わずに踵を返した。

僕は奇跡なんて信じたことはなかった。
そんなものはないと、迷信だと、思っていた。
けれど、これは。
これは、正しく――――・・・。

「奇跡って、本当にあるんだ・・・・」

この日から、僕の人生観は少し変わった。







//20歳
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あたかも爆発したかのように
視界の中で、閃光が弾けた。
いきなり白で視界が埋め尽くされて、びくりと身体が揺れる。

「まだだ」

肩を掴まれて耳元でそう囁かれ、ぼくはぎゅっと目を瞑る。
目を閉じても意思を持って切らない限り、視界は映像を映す。
今ではない未来の、映像を。

「まだ視続けろ、花梨」

それはあたかも爆発したかのように、見えた。
否、違う。
「あたかも」でも、「ように」でも、なくて。

恐い。
恐い、恐い、こわい。
――――これ以上、視たく、ない。


閃光が収まったその場所には、黒く煤焦げた地面と、飛び散った赤い水の跡、それから。
鮮やかな、鮮やか過ぎるピンク色の肉と真っ白な骨をむき出しにして倒れる、下半身。
上半身はまるで破裂した水風船のゴムのように、バラバラになって周囲に――――・・・


「・・・・・・っ・・・・ひ、ぃ、やぁあっ!」


そこでぼくは目を開けた。
集中力が切れた所為で映像がぼやける。
恐怖と嫌悪で流れた涙も、更に映像を揺らした。

首を振る。

「や、いや・・・・ぃやっ・・・!」
「・・・・花梨」

ぼくの通訳兼お目付け役を命じられた男、ぼくと契約した男、野心家の日本人は、ぼくの目を覗き込む。
底の見えない黒い目から逃れたくて顔を背けようとしたら、顎を取られて固定された。
それでも、小さく首を振る。

「ぃゃ・・・・・」
「これはビジネスだ、花梨」

びくん、と。
身体が揺れた。

これは。
ぼくの、生きる道。
たった一つの、ぼくの、生き方。

「こいつが三日後にちゃんと死ぬかどうか。知りたいのはそれだ。さっさとお前の仕事をしろ、花梨」

震える身体を押し殺して、目を、閉じる。
どうしてと、何度も何度も何度も、心の中で叫んだ。
どうして。
どうして、どうして、どうして、こんなっ・・・!

掠れた声で、未来を、告げる。



――――ああ。

知っているのに何もできないと言うのは、何て。
何て、最低の、ことだろう。




ぼくは、罪のかたまり。









//11歳
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歓喜の渦中
宴も酣。

宴会なんてどこの世界も変わらない。
酔っ払いの喧騒も、祝杯の酔い易さも。

今宵宴に参加しているのは、下克上が成る前から、「ボス側」だった人たち。
ぼくという「コマ」やボスの性格、能力を鑑みて、ボスに・・・・つい最近名実共に「ボス」になった彼に追従することを決めた、部下たち。
これは歓喜の声が木霊する、勝利の宴。

その騒ぎの渦中で、ぼくは一人寡黙に座っている。

ぼくに構う人は誰も居ない。
ぼくは道具で、今は宴で。
現時点で必要のない道具は、ただあるだけなら背景と化す。

ぼくが此処に買われたのは10歳の時。
もう、10年。
モノ扱いにも、背景になることにも、もう、慣れた。
彼らの喜びはぼくには関係ない。
同時に、ぼくの感情も、彼らには関係ない。

何故ぼくは此処に居るのだろう。
何度も考えたことがある。
でもそれももう、終わりだ。

あの日。
ボスとぼくが交わした契約は、果たされた。
ぼくはボスが―――彼が「ボス」になるまで彼の言を最優先に予知を行う。
その予知に対して、組織とは別に彼がぼくに報酬を払う。
その報酬は、ぼくを買う際に両親に支払われた金額―――ぼくの「借金」の、返済に充てる。
これは、ビジネスだ。
ぼくの「借金」は、彼が「ボス」になった日のあの予知で、消化し終えた。
だから、ぼくは。
明日から、此処を出ることができる。
「仕事」から逃れることはできないが、それでも。
ぼくは。
自由を手に入れた。

大勢の歓喜の渦中で、その喜びとは無関係に、ぼくは静かな歓喜に身を染めていた。






//20歳
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垣根を取り払って
ぼくはマフィアが嫌いだ。
そしてマフィアの構成員たちも、ぼくを嫌っている。
否。少し違う。彼らはぼくを嫌っているのではなくて。

「フドウ、カリン」
「・・・・・あれが」
「ふん」

ぼくを、見下している。

ぼくは道具だ。
ぼくは便利だ。
ぼくは金づるだ。
ぼくは、彼らにとって、彼らと同じ人間では、ない。
だから実は、嫌うことすら、ない。

それを知りながら、目の前の男は無意味に爽やかに笑う。
当然のように、白々しい言葉を、吐く。

「こいつは買われた身、こっちは買った側―――その辺りの垣根は取っ払って、今日は無礼講で行こう」

親しげにぼくの肩を抱き、決して笑っていない目で、楽しげに、嗤った。

「『邪魔者』が排除できたのはこいつのおかげだ。さぁ飲め、兄弟たち」

あの日。
契約を交わしたぼくとこの人は、一種の共犯者なんだろう。
それでもぼくはこの人を始めとするマフィアが嫌いだし、この人はぼくをぼくとして扱いはしない。
契約は成った。
ぼくはぼくの代金として支払われた額の仕事をし終え、この人は。

「今日から俺が「父親」だ。―――――文句があるやつは今日のうちに、な」

野望を、叶えた。

「垣根を取り払った」、「無礼講」。さっきこの人はそう言ったけれど、実際は。
ファミリー全体に下克上を知らしめる、垣根を高く厚くするための、儀式。

そして目の前の男――――「ボス」は、ぼくに囁くのだ。




「片っ端から未来を覗け。問いはシンプルだ。“裏切るのは、誰だ?”」




ぼくは。
マフィアが嫌いで暴力が嫌いで黒服も嫌いだけれど、誰よりも何よりも。


この人が、嫌いだ。









//18歳
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主導権を握る
「お前が不動花梨か」

両腕を掴まれてモノのように運ばれて、最初に聞いた言葉。
ここまでぼくを連れてきた表情のない黒服たちと違って、シニカルに笑う日本人。
飛行機に乗ったのは知っていた。
ぼくが「買われた」のはマフィアだ。
その拠点が日本ではないことも、少し考えれば分かる。
イタリアか、アメリカか。それとも?
よくわからないかったけど、それはあまり重要ではなかった。

「・・・・・ガキの相手をすんのか。面倒だな」

日本人。
明らかに毛色の違うこの人は、幹部なのか、それとも違うのか。
重要なのは、それ。

「・・・・あなたは、誰」
「・・・・・・・・・。口の利き方に気をつけろ、ガキ。俺より偉いとでも思ってんのか?」

その台詞で、とりあえず、確信する。
この人は、それなりに、偉い。

この先。
ぼくがぼくの人生を歩むためには、ここで。
この男と対峙して、主導権を握らなければならない。
一時でもいい。
一瞬でも、構わない。
ぼくの要求を、ぼくの処遇を、認めてもらわなければ、ぼくに未来(さき)はない。

「お兄さん」
「お前の役目は俺の言った未来を見て俺に伝えること。他はない。言うことも以上だ。連れてけ」
「・・・・・お兄さん、ぼくを信用できるの?」
「・・・・あ?」

賭けに似た、綱渡りの、攻勢。
さぁ――――背筋を伸ばせ。目を、逸らすな。

「予知なんて、信用できなければ使えない。使えない予知は、お兄さんたちには要らない。ねぇ、どうやって、ぼくを使う?」

主導権を。

その手に、握れ。





//10歳
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風鈴の音を耳にして
ちりん―――・・・。

涼しげな音に、足を止める。
売り物の風鈴が、風に煽られて幾つも幾つも音を立てた。
音は重なり、響きあい、風に流れて鬩ぎあう。
幻想的な気分になって、暫くじっとその場に足を止めていた。

「・・・お嬢さん、買って行くかね?」

お店の主人らしき初老の男性がそう声を発して、ふと我に帰る。
いきなり足を止めて風鈴を見上げていたぼくは、さぞ奇怪に映ったことだろう。
首を、振る。

「・・・・・いいえ。済みません」

風に揺れる、透明なガラス。

脆いゆえに、美しい音色を奏でる、丸い。

「―――――いえ。済みません、やっぱり下さい」

何を考えたのか、気がついたら、そう応えていた。
言ってしまってから自分を不思議に思う。が、もう否定はしなかった。


それ以来。
薄く脆いガラス製の風鈴は窓の傍に吊るされることになり、あまり帰らないぼくの部屋で、ちりんと、たまに小さく鳴いている。






//20歳
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最初に
無謀な挑戦です。

『絶対運命』様 http://www.geocities.jp/miayano/odai.html

の、『1年365日のお題』。
レベル4に挑戦してみます。
さて何日続くやら。


同一主人公で、以下主人公設定。
視点は恐らくコロコロ変わる。


名前:不動花梨(ふどう・かりん)
性別:女
一人称:ぼく
備考:予知能力者


以上。
その他は書いてくうちに色々出てくると思います。
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