帰る家 |
2007年9月3日 23時14分
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「もーいーかい」
「まーだだよー」
夕日が街を赤く染める時間、小さな公園。
住宅街の真ん中に位置するその公園には、子供たちの遊び声が響いていた。
しかし楽しい遊び時間はそろそろ終る時間で、一人、また一人と子供の数は減っている。
「花梨」
遊んでいた中の一人、少女が声に顔を上げる。
6歳程度の少女は、振り返って屈託なく笑った。
少女の名前を呼んだ女性は、走り寄った少女に手を伸ばす。
その手を繋いで、少女ははにかむ様にまた頬を緩めた。
「さ、帰りましょう。花梨」
女性は柔らかく笑い、そして――――・・・
「・・・・何時まで寝てる気だ、花梨」
目を開ける。
間近に映った男の顔に、眉を寄せた。
「別に、寝てないよ」
「何だ・・・長いこと目閉じて呆けてるから立ったまま寝てるのかと思ったぜ」
「ぼくはそんなに器用じゃないよ」
「ふん。何を呆けてたんだ?」
「・・・・・別に?」
「ふーん」
何処の国でも、子供の遊ぶ時間はそう変わらない。
夕暮れ時、サッカーをしていた少年たちが次々と仲間に手を振って離れていく。
「此処で待て」と言われてぼうっと立っていたら、そんな光景が見えて。
何となく、遠い昔のことを思い出した。
ただ、それだけ。
「もういい?」
「ああ。行くぞ」
「・・・・・はい」
もう帰れない。
あの頃は、幻想や夢の中にしかない。
帰る家、も。
帰れる家も。
何処にも、ない。
基本的に、この男と仕事に関係ない会話はしない。
ぼくにも彼にも、する気がない。
もう仕事は終ってぼくは部屋に「仕舞われる」だけだから、移動中に会話をする必要はなかった。
石畳を走る、子供の足音と高い笑い声が耳に入る。
「何時まで遊んでるの」と、そんな声まで聞こえて、少し微笑んだ。
微笑んだのを自覚して、ああ、と、思う。
ああ、ぼくは。
いつか、あれを、もう一度。
望んでいる。
今度は伸ばす側でいいから。
今度は伸ばす側が、いいけど。
いつか、また。
ぼくが仕事を続けて契約が成って、自由になってから。
そんな、いつかの未来に。
「帰ろう」と、手を繋いで。
「家」に、帰れれば、いいのに。
//18歳
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