安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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お疲れ様でした!
初めてだらけだった。

初めての履歴書、初めて会う人。
初めての制服。
「いらっしゃいませ」と言うのも、「有難う御座いました」と言うのも。
商品を並べるのもレジを打つのも、どれもこれも、「初めて」。

ぼくの知る「仕事」とは、全然違う、普通の「仕事」。

一日だけの派遣のアルバイト。
申し込んだのは、あの組織からのものではない、お金がほしかったから。
けれど申し込んでよかったと、思った。

知らない人と会話する。
それはマニュアル通りの会話だけど、けれどちゃんと会話で。
触れあいで。
同じアルバイトの人とも、他愛のない話を、して。

楽しかった。
仕事は多少疲れたしかなり緊張もしたけれど、それでも。
とても、楽しかった。

契約の時間は午後6時まで。
制服から着替えて、制服は畳んで所定の場所へ。
簡易の名札も制服に添えて、更衣室を出る。
その、直前に。

「お疲れ」

何度か同じ場所で作業した、ぼくと同じくらいの年格好の、女の人。
名札で知った、苗字は「畑中さん」。
何気ない言葉だったのだろう。特にぼくを気にした様子もなく、ただ口をついた。
言葉は伝染し、他のアルバイトも口々に同じ言葉をぼくに投げかける。
誠意があるとか。
真剣な、言葉じゃない。
ただ自然な、言葉。

それがとても、嬉しかった。

「――――――・・・お疲れ様でした!」

ぼくは今日のことを、忘れないと、思う。









//21歳
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やり残した事
生前、俺は所謂「超能力者」だった。
残念ながら紛い物ではない、本物の。
能力は念動力(サイコキネシス)、精神感応(テレパシー)、そして断片的且つ突発的な、予知能力(プロコグニション)。
望んで持っていたものではなかったが、死ぬまで捨てることも叶わなかった。
その「所為」で何か起こったことは多々あっても、「おかげ」となると数少ない。
生きているうちに、捨てられたなら。きっと俺の人生はまた違っていたのだろう。

そう。
俺は死者だ。自覚はある。

俺は死んだ。突然ではあったが予想外ではない、交通事故で。
望んで動いた結果だったから、それについては何も後悔はない。
しかし、死んだはずの俺は、何故かまだ「此処」に居た。
「能力」の所為か、もしくはおかげかもしれない。しかし実際の理由はわからない。
ただ、俺の死を自分の所為だと責める親友が放って置けなくて、俺は自然の摂理に逆らい続けることを選んだ。
選んだ理由はそれだったが、今は選んでよかったといえる理由が他にたくさんある。

俺は生前より死後の方が、幸せだったように思う。

幽霊である俺を知覚できる人間は少なかったが、その代わり、見える者は幸い皆優しかった。

最初の理由だった親友も、もう心配ない。
次にできた理由も、やはりもう解決した。
もうやり残した事は、ない。

これから、どうしようか。

流石にもう、長居しすぎたかもしれないと。
そんな風に、思っていた、その、矢先だった。


「妹」の。
存在を、知ったのは。


聞かされて、驚いた。
見て更に、驚いた。

血を分けた、兄妹。
肉親?
「何だソレは?」というのが、一番近い。
俺はそんなものは知らない。
俺が知っているのは、俺を研究所から救い上げてくれた、暖かい「母」だけ。
知っているのは、実の両親は俺を研究所へ売り払ったという、事実だけ。

そして衝撃的なことに、その「妹」も、また。



――――――――「超能力者」、だった。



愕然とした。
最初に哀れみが湧いた。
次に親しみが湧いた。
霊視の能力はないらしい彼女が己の墓の前で涙を流すのを見て、愛しさが、込み上げた。

20も年が離れている、娘のような妹。
俺が死んだ時には、まだ生まれても居なかった、彼女。

もう、やり残した事など、未練など、ないと、思ったのに。

俺に何が出来るだろう。
現世にほとんど干渉できない、この身で。
それでも俺は、彼女を放っておけないと、思ってしまった。
太陽の暖かさも感じない姿で、空を見上げる。

ああ。




まだ俺は、この先には、行けない。









//桐原藍螺
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薄氷の上を歩くように
ぼくの命はぼくの物ではない。
生かすも、殺すも。
全ては「彼」の、声一つ。

「花梨」

この人に名前を呼ばれるのが、嫌だ。
ぼくを呼ぶのは使うため。
出される命令は、どれも恐ろしい。
けれどぼくにはその声に振り向かないという選択肢は、ない。

「・・・・・はい」

顔を見上げる。
嘲笑を刻んだ唇を目にした辺りで、視線を逸らした。
目は。
見たくない。
冷えた暗い瞳は、絶望を呼起こすから。
でも、逃れられるはずがない。
顎を取られて、無理やり目を覗きこまれた。
怖い。
この人の目は、ぼくの世界を黒く塗り潰す。

試される。
ぼくの心を。
ぼくの力を。
ぼくという、存在を。
まだぼくを、生かしておく意味があるか、どうか。

「三日前、見せた男を覚えているか」
「・・・・覚えてる」
「そいつが今日、夕飯で何番目の席に座るか視ろ」

それは薄氷の上を歩くような、行為。

「・・・・・・、・・・・さん、番目」

顎から手が離される。
同時にもう用はないと、視線も外された。

もし。
この予知が、外れたら。

ぼくの足元の氷は砕け散る。

延々と。
ぼくは果てのない、薄い氷の道を往く。









//14歳
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冬といえば鍋
「冬と言えば?」

言われて、首を傾げた。
素直に浮かんだのは、白い雪とか。
特に深く考えず、そのまま答えた。

「・・・・雪?」
「ぶー」

擬音語が返ってくる。
どうやらハズレ、らしい。
しかしどの答えを求められていたかがさっぱりわからなくて、ぼくはやはり首を傾げた。
そもそも店に足を踏み入れて開口一番聞かれたものだから、唐突すぎだと思う。
古書喫茶の店主はにこりと笑って、いつも通りに口を開いた。


「冬といえば、鍋です」


・・・・・・・は?

ぼくは数秒、意味を掴み損ねて固まった。

鍋?

「あれ、ご存じないですか?鍋」
「いや・・・えっと、多分、知ってるけど」
「冬といえば鍋だと思うんです。ということで、用意してみました」
「・・・・此処に?」
「ええ、此処に」

此処は何時の間に鍋料理を出すようになったのだろう。
現実逃避気味に、そんな風に考える。
しかしそんなぼくに構わず、奥からは本当に鍋をしているような声がしてきた。

「・・・・これ、何かしら」
「ふむ・・・・食べてみればわかるのではないか?」
「嫌よ」
「それは私に食べろと言う意味か、お主」
「さぁ?・・・・コレってもしかして闇鍋?」
「闇鍋とは暗くしてやるものではなかったか」

・・・・しかもちょっと行きたくない会話内容だ。
どんな鍋があるのだろう。
取り出して何かわからない具って一体。

目の前の会話相手はあくまでもにこにこと、人の良い笑みを浮かべている。

「さ、不動さんも、折角ですからどうぞ」

要らないとは、言えない「何か」が、あった。









//21歳
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雪だるまを並べ
こんな田舎の山奥の小さな村なんて、あの悪魔にはどうにでもできるものだった。
山の上だから雪が深くて、冬は隣町に行くことすらできない、陸の孤島。
あの悪魔にとっては、好都合な。
私たちは、村の人間は誰も何も知らなかったのに。
この村に何かが隠されてるとか、誰かが逃げてきていたとか。そんなことは、何も。
田舎だから村人は皆顔見知りで、親戚みたいなもので。
朗らかに明るく、日々を普通に過ごしていただけなのに。

あの悪魔は、そんなことは微塵も関係なく、この村を踏みにじった。
黒い髪、黒い目、黒い服。
青い黒髪のバケモノを連れた、悪魔が!

銃声。
悲鳴。
炎の色。
血の色。

ついさっきまで無縁だったものが、瞬く間に増えていき。
阿鼻叫喚を、この目で見た。

どうしてこんなことに・・・・・!!

その言葉だけが、空しく思考を埋め尽くす。

あの男は、悪魔だった。
この村は、悪魔に気に入られてしまったのだ。

何処へ行っても死体と銃弾が転がっている。
誰を訪ねても、もう息をしていない!
いつも降る雪も、まるで悪魔の味方のように思えた。
雪に足を取られて、何度も転ぶ。
此処も駄目。
此処も、だめ。
此処も。

ああどうか。
どうかどうかどうか、誰か・・・っ!!


一人でも、いいからっ!!


けれど願いは空しく、悪魔はそれほど優しくはなかった。

悪魔とバケモノの声が、聞こえる。

「生存者は?五分後、動いてる人間は居るか?」
「・・・・・・」
「花梨。さっさと答えろ。『仕事』だ」
「・・・・・・・・・いない・・・・」

バケモノは嘘をついたと思った。でもそれがどういうことかまでは、思考が働かない。
だって、私は生きてるのに。
それだけを、思う。
いないわけ、ないのに。

その所為で死ねなかったのだと悟ったのは、全てが終ってから。

優しさ?
情け?

―――――フザケルナ。そう思う。

悪魔の癖に。
バケモノの癖に!

思ったのは、さっきも言った通り、全てが終ったあとだったけど。

悪魔とバケモノが去って、その手先が教会を爆破して、何かを回収して。
私は感覚のなくなった手足を無理やり動かして、皆を。
・・・・・・動かなくなった、皆を、小さな村の、小さな広場に、引き摺って。
爪がはがれるのも無視して、穴を掘った。
一心不乱に。
何をしているのかも考えず、ただ、動いた。
気にしなかった。
考えなかった。
考えたら、もう、何もできなくなると、わかっていた。

穴を掘って、埋めて。
また穴を掘って、埋めた。
何度も何度も何度も、機械的にそれを繰り返した。
雪はいつもと変わらず、しんしんと降り続いて居た。
蹂躙された足跡が雪に覆われていく。
毒々しい赤が、白に隠されていく。
瓦礫も捨てられた銃も、化粧を施されたように、白を被って。
全部埋め終えてから、次に、雪だるまを作った。
板なんて探せなかったから。
石なんて、雪に埋もれてよくわからなかったから。

並べる。
並べる、並べる、並べる。
一つ作って、また一つ作って、もう一つ作って。
笑っていたことを思い出しながら。
話していた人を思い出しながら。
代わりのように。
空っぽの村に、誰かを住まわせるように。
でも雪だるまは、喋らないけど。

涙は流した端から凍っていった。









「・・・・私の村は悪魔に滅ぼされたの」
「悪魔・・・?」
「そう。黒髪で黒い目の、悪魔」

あの悪魔のことは、今でも忘れていない。
あのバケモノの、声も。

「ねぇあなた、知らない?」

私は並んだ雪だるまに、復讐を、誓った。









//15歳
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全ての恋人たちに贈る
町は赤と緑のクリスマスカラーが彩って、ネオンではない光が至る所に溢れる。
可愛らしい形のモニュメントが並んで、赤と白の服を着た人もちらほら見える。
そんな日。
今日は、クリスマスイヴ。

仲睦まじく寄り添って歩く恋人たち。
ケーキ屋さんの前で笑顔を零す母子。
片手に包みを持って、急ぐ人。

街が「幸せ」に溢れている。

街角で風景に埋没しながら、ゆっくりと目を閉じる。
人通りの多い通りは、ぼくには幾つもの風景が重なって見える。
その風景は、目を閉じても消えない。
見えるのは、通り過ぎる誰かの断片的な未来。
近いもの遠いもの、暖かいもの綺麗なもの。
判断できるほどちゃんとは見えない。
ただなんとなく、そんなイメージを感じる画たち。

暫く経ってから目を開けて、上を見上げた。

漠然と、雪が降ればいいと思う。
意識を凝らせばこの場所の未来は見える。
暗い空からちらほらと降る、白い、花。

ああ。

自然、微笑んだ。

それは全ての恋人たちに贈る、空からのプレゼント。

「・・・・メリー、クリスマス」

するりと口から言葉が零れる。
雪はぼくが降らせたわけではないけれど。

なんとなく、嬉しい気分になった。









//21歳
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雪の結晶
ぼくは普段、暇さえあれば外に居る。
特に目的もなく、ふらふらと。
朝でも昼でも夜でも、関係なく。
寒くても、暑くても。

「外」は。
ぼくにとって、「自由」の象徴だから。

自分で借りているアパートの一室も、嫌いではない。
あまり個性のない部屋だけど、少しずつ、ぼくの「色」が見える部屋には、なってきたから。
本当はもっとインテリアがあればいいのだけど、買っていないのだから仕方がない。
「自由」であるのにあまり物を買えないのは、ぼくが弱いから。
物を買えば、執着が出来て。
愛着が、沸く。
それが恐い。
大切なものが、増えることが、恐い。
だって、破壊は一瞬だ。
あの人が少し気分を損ねれば、あっというまに、消えてしまう。
物でも。
人でも。
どちらにしろ、関係ない。
あの人は・・・・ボスは、恐い、人だから。

それはぼくに刻み込まれた真実。
何度も何度も「教えられた」、コト。

だから部屋の中が淋しいのは仕方がない。
誰の所為でもない、ぼくの、所為。

それでもインテリアを見るのは好きで、服やアクセサリーだって、見ているのはとても楽しくて。
例え窓越しであっても、何処か心躍るものだ。
ぼくも、一応、女の子、なのだし。
可笑しくはないと、思う。
否。
思ってから、苦笑した。
もう。
「女の子」という、年ではない。
その年代は、何処かへ行ってしまった。

「あ・・・・・・・」

ショウウインドウの中央に、小さな銀のアクセサリ。
雪の結晶を象った、プラチナ。
小さな水色の宝石も一緒に鎖に通されている、ネックレス。
目が留まって、そしてその場に立ち止まる。
ついガラス窓に手を付いて、じっと覗き込んだ。

「・・・・・・可愛いな」

実はぼくはまだ、本物の雪を見た事がない。
10歳までに居た場所にはあまり雪が降らなかったし、それ以降、「仕事」で外に「持っていかれた」ときも、雪は降っていなかったから。
映像では見たことあるし、イメージは、わかるけど。
本当にこんな形をしているのだろうかと、つい思う。
これを見たことのある人は、あまり居ないのだろうけど。

どうしてもそれが気に入ってしまって、買おうかどうか、踏ん切りがつかないながらも店の扉に手を伸ばして。
取っ手を引こうとした瞬間に、コートのポケットから甲高い機械音が鳴り響いた。

―――――――――・・・・

店の取っ手から、手を、離す。

ショウウインドウを一瞥して、軽く目を伏せて。

それからくるりと、踵を返した。

電話に、出る。

「・・・・はい」

もう一度も、振り返りはしなかった。









//21歳
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どんな卑怯な手を使っても
「このっ・・・卑怯者が・・・!!」

それが、俺が撃った男の最後の言葉だった。
つまらない台詞だと思う。
卑怯の何が悪い?
正攻法で行かなければならない意味はどこだ。
察せなかった己を呪え。
色々言い返せる言葉はあったが、あえて何も言わない。
言う意味はない。
どうせもう、冷たくなっている。

死体をそのままにドアへ向かえば、入り口に立っていた男が跪く。
感慨もなく見下ろして、視線だけで発言を促した。
男は淡々と、頭を垂れる。
この男は、それなりに使える道具だった。

「もとより私の『持ち主』は貴方ですが、今日からは『ボス』になられたので、一応改めさせて頂こうかと」

どうでもいい。
そういえば、そうですかと返事を返し、男は立ち上がる。
これでこのファミリーは俺の物だ。
だが、今のままでは使えない道具が多すぎる。

「無駄なことをしている暇があるなら、動け」
「はい。まずは誰を」

此処で「何を」と問わないところが、コレの使える所なんだが。
他はほとんどが、そうはいかない。
無能で無意味な烏合の衆。
考えようによっては、鳥よりもたちが悪い。食えるわけでもない。
塵か埃。
ゴミを捨てていかなくては、鬱陶しくて仕方がない。

「まずはキースとグレイン。その部下数名」
「末端は私の判断で構いませんか?」
「末端はいい。どうせ邪魔にすらならない」
「わかりました」

「上」へ上ると俺は決めた。
俺の考える「上」は、こんなところではない。
まぁ頂点に上ったからと言って、何があるわけでもないが。
こうでもしていなければ、この世はあまりにも暇すぎる。

これから更に、俺は高みを踏む。

そう、それこそ。



どんな卑怯な手を、使っても。









//樹 閃月
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静寂
耳が痛いほどの静寂。
まるで世界にぼくだけが取り残されたような、無音。

自分の吐息や心臓の音すら、聞こえない。

静かに、静かに。

朽ちていく。

此処は何処だったろう。
ぼくは何だっただろう。
大切なものは、何かあった?

思考も静寂に溶けていく。

侵食するように、蹂躙するように、無という有が身体に染み込んでぼくを分解していく。

ぼくは。
何か望んでいた、気がする。
ぼくは。
・・・ぼくは?


わたし、は。


愚かしく浅ましくも、生きて、いたかった。
死にたくなかった。

今なら、笑える。
声も息も、音にならずに静寂に溶けたけれど。
そう。


生きている資格なんて、わたしにはなかった。


唇が、動く。
紡いだのは誰に言うわけでもなく、自分に言い聞かせるような、言葉。
声帯が壊れているのか、声は、やはり出なかった。




だいじょうぶ。



だいじなものは、みんなおいてきたから。









//27歳以降?とか。
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幻に惑わされ
追いかけていた。
半透明に見えるその背中。
どんどん遠ざかっていくその人を、ずっと追いかけていた。

「―――――・・・・さん・・・!」

呼ぶ。

走りながら声を絞り出しても、その人は振り返らない。
背中との距離は、一向に縮まらない。

「・・・・・い、さ―――――――」

ぼくと同じ色の髪が、軽く揺れる。
ぼくより高い背の、少年。



「にいさんっ!」



待って。
行かないで。
ぼくを、一緒に―――――・・・

何かに足を取られて躓いて、ぼくが身動きできなくなった、その瞬間。

追っていた人は振り返って、そして、「笑った」。

―――――あ。

それは死者への冒涜。
それは弔意の利用。
愛しさも繋がりも悲哀も望みも、全てを馬鹿にした、行為。

罠に掛かったことを、確信した。

涙が頬を伝う。
悔しかった。
哀しかった。
苦しかった。
だってやっと、それが幽霊でも、ずっと会いたいと!
暴力的なまでに、その心が踏みにじられたのを感じる。
心が血を流したように、悲鳴を上げた。

―――――兄、さん。

呼び声は、空虚に響いて。
そして消えた。

ぼくには霊視の力はない。
会えるはずが、ないのだ。






すべてはまぼろし。









//22歳(頃?)
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均一セール
機動隊とクーデターの武力衝突。
東南アジアで起きた、暴動。
外国の、遠い出来事。
けれどぼくは、知っている。

この暴動の脚本を書き裏で糸を引いたのは、この人だ。

その国の人たちは真剣に、国を憂いていたのに。
生半可な気持ちで、操っていいものではないのに。
この人は、「金になる」というただ一事で、あの人たちを利用した。

銃弾と銃器をばら撒き。
甘い言葉と罠を含んだ策を吹き込み。
死地へと躍らせた。

この人は、恐い、人。

知っていたつもりだったけど、認識が甘かったと悟る。

この人は。


ほんとうに、人間だろうか?


能力的にはぼくの方がよほど化け物じみているのは認める。
けれどこの人の、この思考。
人は此処まで完全に、無慈悲になれる生き物なのだろうか。

戦慄、した。

この人は、「無事」戦端が開かれたという報せを聞き、楽しそうに、笑っって。
言ったのだ。

「どこかの均一セール並に銃弾も銃器もばら撒いたんだ。始まって、精々派手に死んでくれないと困る」

命を。
何とも思っていない、言葉。

脳髄まで、刻み込まれる。
それは恐怖。



ああやはり。
この人はとても、恐い人だ。









//17歳
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誰もいない、私だけの世界
暗闇に、あの子だけが見える。
その視界は、私だけの世界。

「ひーちゃんってばー」

そんな声が聞こえて、視界を変える。
あの子が消えて、周囲の風景がガラスを一枚隔てて見るように広がった。
目隠しをしていても、不自由はない。

「ひーちゃんー」
「・・・・・何だ?」

答えれば、隣に来ていた一人の神が何やら驚いた顔をする。
神々の中で喜怒哀楽を作るのに一番長けているのは、この男だろうと漠然と思った。

「あ、聞こえてた?」

聞こえてないつもりなら、何故呼ぶのか。
この男は、謎だ。

「何か用か」
「んー、何してるのかなって?」
「あの子を見てた」
「また?」
「また」

私が何をしているか、そんなことを聞きに来たのだろうか、この男は。

「・・それで、用は」
「ない」

暇なことだ、と、思う。
思ってから、己も同じかと内心で嘲笑した。
神など皆、暇なものだ。
何もできることなどないのだから。

用がないならもういいかと、あっさり思考から隣の存在を掻き消す。
視界もまた「普通」に戻せば、暗闇にぼんやりとあの子が見えた。

あの子は幸せとは言いがたい人生を送っていた。
哀れなことだと、思う。
視界に移るあの子は、大抵泣いている。
望まないことをさせられて、苦しんで。
自分を卑下し、存在を憎むことすらして。
けれど、あの子は人を嫌わない。
賞賛に値する。

あの子は自分を責める。自分を笑う。自分を、嫌う。
だが人を嫌わない。世界を、嫌わない。
あの子にとって世界はいつも美しい。
人は皆、愛しい。
驚嘆に値する。

だがそれが、あの子を苦しめているのだけど。

「ねー、ひーちゃんー?」

あの子が泣いている。
私はただ、私だけの世界で、それを見ている。
見ている、だけ。
私以外誰も居ない、暗闇の世界で。

「楽しい?」

よく、わからない。

反射的に、心中で答えた。









//カミサマ
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抱擁
「暗闇から、抜けたくはないですか?」

優しく問いかける声に、ぎゅっと手に力を入れた。
掌に爪が食い込むほど強く、手を握る。

ぼくには、無理なこと。
自由ではない、自由。
会うのも止めなければいけないと、思い続けていて。
迷惑をかけてはいけないけど、でも、ずるずると会いに行ってしまっていて。
もう、止めなければと。
思っていた。
思っていて、でも、ぼくは来てしまって。
そして彼は言ってくれたのだ。

「手を差し伸べたのは不動さんなのに、その手を引っ込めるんですか?」

だって思ってなかったのだ。
知らなかった。
そんな人が居るなんて、まさか。

こんな得体の知れないぼくを、見捨てない優しい人が、居るなんて。

優しすぎて泣きたくなる。
優しさがナイフのように心を抉る。

ぼくはきっと彼を不幸にする。
彼は優しくしてくれるのに、ぼくは何も返せない。
破滅を連れて来る、だけ。
やっぱりきっと来てはいけなかった。
会ってはいけなかった。
言っては、いけなかった。

後悔ばかりが押し寄せて来て、瞳から涙が零れた。

泣きながら、首を、振る。

すぐに手で顔を覆ったけれど、涙は止まってくれなかった。

いけない。
いけない。
いけない。

それは言ってはいけないこと。
それは思ってはいけないこと。
それは考えては、いけないこと。

泣くだけで何も言えないぼくに、彼は困ったように笑って。

ぼくの髪を撫で、そして子供にするように、抱き締めて背中を撫でてくれた。

暖かい人。
優しい人。
優しすぎる、人。

言ってはいけない。

言ったら。
だって言ったら、きっと。

彼はやろうとしてしまうから。

頭ではわかってる。
最良の選択。
最高の行動。
なのになのになのに、ぼくはいつも失敗を繰り返す。

「・・・・っ、ぅ、ひっ・・・く・・・・ぅ・・・・!」

嗚咽がどんどん止められなくなって、暖かさは涙を増加させて。

ぼろぼろと涙を流しながら、ぼくは。





「・・・・・・・たすけて・・・っ!」





言ってはいけない言葉を、言った。

ぼくはいつも。
最低の過ちを、繰り返す。









//21歳?(多分)
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一組の手袋
男物の手袋を、一組、買った。

最初に買ったのは毛糸だった。
手芸道具を売っている店に行けば色々な毛糸があって、少し迷った。
毛糸とイメージするものはそんなになかったので、意外に思う。
色は青み掛かった灰色。決めた理由は、綺麗な色だと思ったから。
そして一緒に編み棒や本なんかも買って、数日毛糸と格闘した。
仕事で呼び出される以外は部屋に篭って、ずっと頑張って。
出来上がったときは、とても嬉しかった。
けど。
出来上がったものを見て、苦笑した。

最初から手袋に挑戦したのが間違いだったのかもしれない。
マフラーとか、そういうのなら、まだ、きっと。

ぼくは編み上がった一組の手袋を、引き出しにしまった。

不格好で、網目はずれているし、あまり暖かくなさそうで。
それなら、きっと既製品の方がいい。
すぐに逃げるのは悪い癖だと思ったけど、簡単に変えられることではなかった。

彼なら、どんなに不恰好でも、何も言わずに受け取ってくれるとは、思うけど。
ぼくが、申し訳ない気分になってしまうと思うから。

贈り物を作るのも、選ぶのも。
何年ぶりだろうと思う。
心が揺れて、そして弾んだ。

もうすぐ、クリスマス。

あまりやらないと、言っていたけど。
受け取ってくれるだろうかと、買った手袋をラッピングして微笑んだ。









//21歳
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新たな発見
小さなお地蔵さんを見つけた。

今まで何度かその道は通っていたけど、お地蔵さんがあったとは知らなくて。
つい、立ち止まる。
石で出来た丸い頭。
陽に焼けて色褪せた、赤い前掛け。
大福が二つ供えてあって、ちゃんと見ている人かいるんだと、少し微笑ましい気分になる。
しゃがんで手を合わせて、暫らくそのお地蔵さんを眺めてしまった。

なんだか嬉しくなる。

昨日は知らなかったこと。
新しい発見。


世界は未知に溢れている。
世界はこんなにも、愛しい。

昨日とは違う今日。
今日とは違う明日。
変わり続けること。
変わらずあり続けること。

全てを内包して、世界は在る。

ぼくは、この世界が好きだ。

・・・・・・たとえ、もし。

世界はぼくを、好きでなくても。









//21歳
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飲み込みの早い人
私が裏街道に堕ちたのは、必然だった。
昔から不良と呼ばれる存在で、「普通」とは少し違う道を歩いていた。
勉強が出来ないわけではなかった。
家庭に恵まれていないわけでもない、と、思う。
少なくとも両親共に健在だったし、家もあった。

たが、普通に学校に行って授業を受ける―――――そんな当たり前のことを、どうしても甘受できなかった。

盗み、恐喝、薬、詐欺に暴行。
それは犯罪であるとの分別を持って、自ら進んでそれをやった。
しかし、心が満たされることはなかった。
いつでも乾いて・・・飢えて、いた。
何かが足りない。
早い時期から、私はそれを悟っていた。
進んでスラムを根城にしていたジャンクキッズがマフィアに関わりを持ち、その末端を担うようになるのは自然な流れだった。
しかしそれでもやはり、私は渇えていた。
足りないのだ。
スリルも、弱者を蹂躙する満足感も、何もかも。

私は更に深みに墜ちた。

罪状は殺人に死体遺棄。
私は国外に逃亡し、そして国外でも当然のように裏の社会に身をおいた。

そしてそこで、「彼」に会ったのだ。

「・・・・・それで?」

私の隣に居た男が、そう聞かれる。
私には「彼」が何を問うているかすぐにわかったが、隣の男はわからなかったらしい。
「彼」が眉根を寄せた。
別に男を庇う気はカケラたりともなかったが、口を開く。
「彼」の望む答えを口にした私に、「彼」が初めて私という個人を認識したような目で私を見た。

否。
今ならわかる。
それは私という「個人」を認識したわけではなく、塵芥の中に「道具」が埋もれていたことに気付いたときの、視線だったと。
「彼」は笑った。

「ふうん。飲み込みが早いな?お前、名前は?」

「彼」はそう、私と言う道具の名称を聞いた。

その時から、私は「彼」の道具となった。
二番目に役立つ、一番使い易い道具に。

私は、私の求めていたものを知った。

「・・・・・イツキ。ボスからお電話です」
「繋げ。それから・・・」
「『時計』のことでしたら、既にロバートを迎えにやらせました」
「ならいい」

「彼」は、イツキは素晴らしかった。
私には思いつかない領域まで、貪欲に突き進んでいる。
私では、思いつかない方法で。

イツキの指示に従えば、私だけでは決して見えない風景が見れた。

私が求めていたものは、私に必要だったのは、私より優れた、私を超越した指導者、だった。

イツキは私に爪の先程の信頼も置いてはいない。
私とて、片腕などと慢るつもりはない。
私が使えなくなれば、イツキは何の躊躇もなく私を捨てるだろう。
それでいい。
それこそが、イツキ――――私の辿り着けない位置に立つ、存在。

「ディオ。急用が入った。花梨はお前が使え」
「はい」

私は自らの意志で、イツキの指示に従う。
イツキのため、などとは言わない。

全ては、自分自身のために。

私は私のしたいことをする。









//ディオ・カーレル
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自然の脅威
思わず、身体を竦める。
小さく悲鳴が漏れたけど、どうにかそれだけで恐怖をやり過ごした。
未来を視て恐怖を感じたのは、初めてではなかった。
けれどこれを同種の恐怖を感じたのは、まだたったの2度目だ。

前回は、土砂崩れだった。
家も車もまるで玩具のように、土に呑まれて崩れていく。
道も森も人も動物も区別なく、ただただ強引に、苛烈に猛威を振るう。
人の起こす恐怖とはまた違う、震撼するような、恐怖。
それは天災と呼ばれるもの。
神の怒りと、恐れられるもの。

「・・・・・・・20日後・・・」

自然の、脅威。

ぼくが視た2度目の天災は、噴火という形をしていた。

灼熱が地を舐め、人を焼く。
木々も皆炭と化し、静かになった街には灰が降り注ぐ。
世界が灰色に染められていく。

「20日後、山が、噴火する・・・!」

戦慄が浸透して、次に街の人を避難させなくてはと思考が転じる。
何も考えず踵を返したぼくの手を、誰かが掴んだ。
邪魔をしないでと、反射的に言いかけて。

「何処へ行く?」

刺すような冷たい目線と行動を縛る声に、全ての動きを止めた。

まさか、と、思う。
この場所の予知をさせたのはこの人で。
こんなの予測できるはずもないけど。
でも噴火はもう、20日後で。
まさか。
だって、そんな。

「噴火は20日後か。運がいいな」

耳が聞いた台詞を否定する。

運が。
・・・・いい?

何を言っているのか、わからなかった。

「マグマが、街まで、届く。街の人たちに、避難を・・・!」

赤い液状の火は土を這い、森を焼き、人を焼く。
街は死に、動くものはなく。
惨劇もなく、ただ命が散る。

それの何処が、運がいいのか。

「何も言う必要はない」
「でもっ」
「でも?」
「っ・・・!」

ぼくの腕を掴んだ手は、ちっとも揺るがない。
それどころかますます強くなって、ぼくの行動の自由を奪った。
わからない。
わからないわからないわからない。
わかりたく、ない。

「逆らう気か?花梨」

違う。
そうじゃない、逆らいたいわけじゃなくて。
言おうとするけど、視線を合わせた途端、全ての言葉は萎縮した。
喉の奥に張り付いて、外に出ない。
ああ駄目だと、思う。
悟る。

この人は、人が死ぬことなんて、どうにも思ってない。

「一儲けする。勝手に情報を漏らすな」

くらりと、目の前が暗くなった。

どうして。

どうしてこんなにも、この人との距離は、遠い。

同じ言葉を話しているはずなのに、どうして。

通じない。

「帰るぞ。・・・・そんなに気になるなら、何人死んだか結果だけは後で教えてやる」

浮かぶのは、嘲笑。
どこまでも、ぼくを愚かと蔑む、視線。

絶望が、心を塗り潰す。

どう、して。

知っているのに、ぼくにはまた、何も出来ない。





後日ぼくに齎されたのは、取り返しの付かないほどの、膨大な数の死者数。
有志に残る大規模な災害だったと、言う報せ。









//16歳
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終わりのないものなんてない
今なら、ちゃんと言える。
以前なら決して信じられなかったけれど、今なら心から信じて、言えると。
そう、思った。

「・・・・終わりのないものなんてないよ」

微笑んで、告げる。
泣いている女の子の頭を撫でた。

永遠に思える暗闇も、いつかは晴れる。
冷たく寒い冬は、いつか暖かい春になって。
山のように積まれた仕事だって、いつかは終わる。

辛いときはある。
けれど、終わりも、ちゃんとある。

ぼくの暗闇は深く、濃かったけれど。
それでも光はそこに届いた。

だから、きっと。

「大丈夫。負けないで。いつか必ず」

何かの助けになるように、優しい言葉を贈ろう。
独りだと思わなくていいように、暖かい言葉を贈ろう。
辛さを乗り越えられるように、強い言葉を贈ろう。

大丈夫。

ぼくはきみを、信じてる。

どんなに深い暗闇も、どんなに凍える冬も。
いつか絶対、終わりがある。

ぼくが此処に居る。
それがその、証明になる。

「・・・いつか必ず、終わりはくるから」

それまでぼくが支えになるから、もう少し。

もう少しだけ、頑張ろう?









//27歳?(とりあえず21歳以降)
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朝だからと言い訳して
くらりと、一瞬意識が何かに呑まれる。
昨日の「実験」の後遺症だろうか。何か薬を打たれたのは覚えているから、身体に支障が出ても不思議はない。
重度の貧血に近い感覚。思わず立ち止まったら、そこに声が掛かった。

「大丈夫ですか?」

顔を上げて、視線を声の方に向ける。
石段と鳥居が目に入って、何時の間にか神社の前まで歩いて来ていたことに気付いて苦笑した。
甘えている。
縋ってしまっている。
迷惑をかけることしか、できないのに。

しっかりしろと心の中で呟いて、「おはよう」と笑みを向けた。

「大丈夫。朝はちょっと低血圧で」

何でもないと、取り繕う。
そう思いたい、というの思いも、確かにあった。

心配をかけてはいけない。
心配してもらえる、資格なんてない。

いけないと。
そんな考えだけが、頭を占める。

ああ、ぼくはなんてずるい。

隠すのなら、来てはいけなかったのに。

「・・・朝から偉いね。掃除?」

一体ぼくは何をしているのだろう、と、思う。
心配してくれた人に、嘘を返す。
それはとても酷い行為で、自分に吐き気がする。
それでも何とか隠し通して、その場を離れて。
角を何度か曲がって神社が見えなくなった辺りで、近くの壁に寄りかかった。
ずるずると、力が抜ける。

ああ。

本当に。
ぼくは一体、何をしているのだろう。









//21歳
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命の重さ
「此処」では、命は軽い。
哀しいことに、とてもとても、軽い。

昨日立っていた人が次の日にはいなくなっている。
そんなことは珍しくもなくて。
目の前で人が死ぬことも。
やっぱり珍しくなくて。
殺せと指示が下され、それが実行されることも。
珍しいわけが、ない。

麻痺していく。
嘆きが潰えていく。
何も思わなくなっていく。

死は事象ではなくなり、ただの数字と成り果てる。

ぼくのところまで届く死は、あまりないのだろうけど。
それでも尋常な感覚は、消え失せていく。

重いのは情報で。
重いのは金銭で。
重いのは権力。

命は皆、使い捨て。

それはだって、「彼」が、はっきりそう、言うから。

「使えるモノだけ使ってやる。使えないモノは死ね」

あとは右に倣えだ。

昔は違ったのだ。
ぼくを最初に買った先代の「ボス」は、いい人では決してなかったけど、「彼」ほど極端ではなかった。
少なくとも、ファミリーは守っていた。
ゴッドファーザー。
その名前を体言していたような、ボス。
それでもやはり、ファミリー意外の人間の命はとても軽かったけど。

「彼」の。
今の「ボス」の前では、命は塵芥に等しい。

利用する、利用する、利用する。
生も死も、利用できるモノは全て。

命の重さが、狂っていく。

重さを測る天秤の片側には、一体、何が乗るのだろうか。









//18歳
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クイズ!
「どっちでしょーか!」

唐突にそう聞かれて、ぼくは首を傾げた。
何が?
そう答える。
聞き返された彼は、確か、つまらなそうに口を尖らせたのだ。

「こういうときは適当にでも答えろよな。つまんねーの」

御免、と、ぼくは謝って。
小学校のクラスのムードメーカーだった彼は、すぐに表情を変えた。
くるくると、表情の変わる男の子だった。
明るくて、ちょっと不真面目で、勉強よりも体育が好きな、普通の。
どこにでもいるような、男の子、だった。

「ま、いいや。クイズクイズ。椅子は「ある」、机は「ない」。糸は「ある」、紐は「ない」。では本は「ある」か「ない」か!どっちでしょう?」

テレビでやっていたのだったか。
その時は、そんなクイズが結構流行っていて。
最初の言葉がようやく繋がって、ちょっと考えてぼくは「ない」と答えた。
彼は、悪戯が成功したときのように、嬉しそうに、笑った。

「ハズレー!」

遠い思い出。
在りし日の、他愛もない、ワンシーン。
なのに。
どうしてこんなにも、哀しいのか。
どうして。
何度目かに、そう、思った。
ぼくを見て、彼は目を瞠る。
そして何か納得したように、薄く笑った。
苦笑の、ようだった。
彼もまた、過去を懐かしんだのかもしれないと、少し、思った。
彼が口を開く。

「・・・・・「再び見る」と「神の御加護を」と「平和を求める仕草」。共通する意味は?」

ぼくの隣で、黒服の男が眉を寄せる。
とうとう壊れたか?と、嘲笑した。

泣きたくなった。
人違いであって欲しかった。
ぼくの勘違いであって、欲しかった。

でも。
その願いは裏切られた。

ぼくはクイズに答えられない。
彼は、あの時とは違って淡く、口元だけで、笑った。

「・・・つまらない奴だな。適当でも、答えろよ」

こんなところで。
会いたくなかった。
会うことはないと、思っていた。

どうしようもない答えがわかってしまって、顔を歪める。
御免、と、あの時と同じ言葉を、言った。

「ハズレだ。正解は―――――・・・」

黒服の男に腕を引かれる。
ぼくの仕事は終った。
彼ではない、もう一人の男の未来を見て、それで。
だからもう、この部屋には居られない。
庇えない。
助けられない。
そして彼は、それを、知っている。
恐らく捕まったときに、もう。
悟っていて。

「正解は、「さようなら」だ」

その声と同時に、部屋の扉が、音を立てて閉められた。

どうしてと、それだけを、思った。









//19歳
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たまには寄り道も
たまには寄り道もいいよな、って。
悪戯するときみたいに二人で笑って、いつもは通らない道を通る。

学校帰りの寄り道はあまりしない。
話の流れで皆で、と言うときは乗るけど、二人で帰るときは大体まっすぐ帰る。
だってあんまり遅いと母さんが心配するし、俺たちは家が好きだ。

双子の俺たちはもう近所では有名で慣れたもので、並んで歩いていても驚く人はあまりいない。
たまにこの辺りの人じゃない人が、振り返ったりするくらいだ。

振り返った人は、女の人で。
普通なら振り返って暫く見ていたとしてもそれで終わりなのに、何故かその人はそれで終らなかった。
声を、掛けられる。

「あの、君たち」

俺たちは立ち止まって、顔を見合わせて首を傾げる。
知り合いか?とお互い聞きあって、両方が首を振った。
誰だろう、と、思う。
知らない女の人は少し戸惑った表情をした後、考えながら口を開く。

「・・・・・・寄り道?」

俺たちはまた、顔を見合わせた。

この辺の人じゃない。
・・・・のに、なんで、知ってるんだろう?
隣の片割れの顔に少し警戒心が混ざる。
恐らく俺の顔も、同じだろう。
女の人はちょっと「しまった」というような困った顔をして、それからまた言葉を紡いだ。

「寄り道は、止めないんだけど・・・・この道は、左に曲がらない方がいいよ」

俺たちは、三度顔を見合わせて。
片割れが、口を開いた。

「どうして?」

女の人はやはり困ったような顔で、「危ないから」という。
よくわからない。
でも。
別に悪い人ではないように、思えた。

「・・・・どうする?陽」
「まぁ、別に左に曲がる必要はないよな?」
「寄り道だしな」
「・・・・・右に曲がる?」
「そうするか」

この会話に、女の人はほっと息を吐く。
それから「いきなり御免ね」と言って、踵を返した。
その後姿を見送って、ちょっと眉を寄せる。
ふと見れば隣も同じように考え込んでいて。
やはり俺の表情に気付いて、視線を宙に投げた。
元の通りに、歩き出す。

「・・・・なぁ、陽」
「んー・・・ねぇ、いち」

問いかけは、同時。

「「さっきの人、誰かに似てた気がしない?」」

誰だっけ。
その問いは、家に帰って父さんの部屋の写真を見て、ようやく答えになる。
父さんの親友だったという人に、女の人は酷く似ていた。









//21歳
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舞い散る羽
ふと、顔が綻んだ。
チチチ、と、可愛らしい声が、する。

ぼくに用意された部屋には、窓はない。
あるのは廊下。
その廊下の高い位置にある窓から、小さな鳥が顔を出していた。
種類はしらない。
尾の長い、白黒の、鳥。

「こんにちは」

そう言って手を伸ばせば、その指に止まる。
いつからか窓で歌っているのに気付いてから少しずつぼくに慣れてくれた小鳥は、とても可愛かった。
ぼくは小鳥に癒された。

少し羨ましかったのかもしれない。
飛んでいける鳥。
ぼくは窓には絶対に手が届かなかったし、翼もない。
それに、飛んでいける場所も、ない。

「・・・・鳥さんは、いいね」

つい、漏らした。
それが間違い。

「ふうん?」

監視されていることは知っていた。
この建物で、ぼくの行動がわからない場所などないことは、理解していた。
最初は視線を感じるようで苦しかったが、もう4年――――人間、どんな環境にも慣れることができるのだと、実感した。
知っていたのに。
甘かったとしか、言いようがない。

声を聞いた瞬間、ぼくは乱暴に手を挙げる。
驚いた小鳥が、ぱたぱたと羽ばたいた。
叫ぶ。

「――――行ってっ!」

折角ぼくに慣れてくれた小鳥が、裏切られたように窓へ向かって。
けれどそれは、遅かった。

発砲された弾丸とは、比べようもないほどに。

チキィ、と。
普段より甲高い声で、小鳥が鳴いて。

羽が、散った。

ぼとりと。
小さな影が、垂直に落下する。

「そういう思考を持つなと、何度も言ったはずだが?」

羽だけが、ひらひらと、空気に舞い散る。
白い羽と黒い羽、幾つもの、羽。
舞い散る羽は窓からの光に透けて、綺麗にも、見えた。

ぼくは声の主には反応を返さずに、落下した小さな影に走り寄る。
そっと掬い上げたそれは、とても軽くて。
ああ、と、意味をなさない嘆きが、漏れた。
御免ねと、小さく呟く。
ぼくが甘かった。
甘すぎるほど、浅はかだった。

逃げられないことを知れ。
逃げようと思うな。
逃げたいと、期待することさえ無駄だ。
それは何度も何度も、それこそ身体に刻まれるほど、言われた言葉だったのに。

望んではいけなかった。
羨んでは、いけなかった。
少なくともそれを、口に出すべきではなかった。

羽の最後の一枚が、床に落ちる。
同時にぼくの頬から、涙が滑り落ちた。

「来い。わかるまで何度でも、教えてやる」

――――ぼくは、小鳥のお墓すら、作ってあげることはできなかった。









//14歳
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金の卵を産む鶏。
金のなる木。
何でもいいが、それに等しいモノ。
それが「狂った時計」―――――不動花梨だった。





未来の情報は金になる。
使いようは幾らでもある。
それが的中率90%以上のものであれば、尚更。

信じられないと鼻で笑うものは相手にしない。
追いすがって証拠を見せてやるほど親切じゃない。
見る目のある人間。
鼻の利く人間。
そういう、俺が利用価値を見出せる人間だけが、俺に取引を持ちかけてくる。
俺はその取引に時に応じ、時に応じずそいつらを利用する。

「貸し出し?」
「ああ。金なら幾らでも出す!だから頼む。我々に、『時計』を!」
「幾らでも、ねぇ。具体的に幾らだ」
「・・・、・・・・・1億ドル」
「はっ・・・!寝ぼけてるのか、お前」
「っ、5億までなら出せる!」
「桁が違うつってんだよ。10億ドルでも安い」
「なっ・・・貸し出しだぞ!?」

嘲笑する。
こいつはそれなりに使えるモノかと思ってたが、そうでもなかったらしい。
こんな取引で、俺から金のなる木を掠め取れると思っているとは。
「時計」なら、貸し出す数日で、10億ドルを稼ぐのは難しくない。
もちろん使い方による。持ち主が無能なら、道具が上手く機能しないのは当たり前だ。
嘲笑を顔に刻んだまま、立ち上がった。

「一昨日来やがれ」

取引の決裂を悟って、両隣に立っていた部下が取引相手を拘束する。
俺はその姿を見もせずに、背を向けた。
ぱんっと、軽い音が、する。
その音を聞いて、ああ、と、足を止めた。

「しまった、間違えた。死んだらもう来れないな」

振り返りはしない。肩を竦めるだけで、また足を動かす。
進みながら、ついてきた部下に指示を出した。
あの組織ももう不要だなと、それだけ言う。
それだけで何を言っているかわからないモノは、俺の部下にはいない。
「はい」と頷いて、部下が一人消えた。
そして俺は、エレベーターから足を踏み出す。
そのフロアには、部下は誰も付いて来なかった。
幹部以外、立ち入り禁止。
そういうフロアだ。
重要機密のある、フロア。
ついさっき死んだ男が借りたいと言った「時計」は、そこに居た。

扉を開ければ、俺を振り返る。

「・・・・・仕事?」

未来が見える、気色悪い、バケモノ。

髪を長く伸ばした少女。
着ているのは部下が用意した、適当で簡素なワンピース。
ワンピースである理由は、その方が検査が楽だから、だ。
研究者どもは涎を垂らさんばかりの熱心さで、コレの研究をしてるという。
滑稽なことだと思う。メカニズムを追求して、どうするのか。
バケモノはバケモノ。できるということがわかれば、他はどうでもいい。
研究も使いようによっては役には立つから、やらせてはいるが。

金を生む鶏がこんな姿をしてるとは、他の組織は知らない。

無用な問いをした「時計」に、頷く。
口を開けば、何かを諦めるように軽く目を伏せた。

「他にお前を呼ぶ理由があるか?」
「・・・そうだね」

使いようによっては数日で10億ドルでも50億ドルでも稼ぐ「時計」。
1億ドルで借りたいと言ったが、実は中々いい値ではあった。
1億ドル。
それは。

「行くぞ」

このバケモノを買った値段、だった。

俺はそんなはした金で、この便利な道具を手放す気はない。









//18歳
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だらしのない
「ああ、もう、だらしのない」

そんな言葉が聞こえて、振り向いた。
振り向いた瞬間目に入ったのは、一人の母子。
子供はもう「子供」という年ではない、立派な大人。
けれど母親はどうも若干過保護らしく、一々男の動向に口を出していた。
男が母親の言葉に眉を寄せる。

その、瞬間。

見ている映像が、ぶれた。

未来が映る。

名前も知らないその男の、未来。

わかってしまう。
知ってしまう。

近い、将来。
それは明日か明後日か、それとも一週間後か、一ヵ月後か。
少なくとも、一年以内に。



あの男は、母親を包丁で刺し殺す。



それは発作的な犯行か、それとも計画的な犯行か。
わからないけれど、とにかく、その男は、母親を刺して、そして、母親は死ぬ。
ぼくはその場から動けない。
立ち止まったまま、ただ、その男を凝視する。
ぼくの視線に気付いた男が、ぼくを振り返って訝しげに眉を寄せる。
視線の意味は、「何だコイツ」、だろう。
見知らぬ人。
関わりもない人間。
そんなものが見ていたら誰だって眉を寄せるだろう。
でも。
それでもぼくは、その男から目が離せなかった。

何も出来ない。
未来に罪を犯すから、と言っても、警察は信じてくれない。
それに、未来は変わる。
ほんの些細な切欠で、未来は変わる。
だから、それを根拠に彼を拘束したりはできない。

ちゃんと予知をして、日付を知れれば、ぼくが彼を止めることもできるし、間に合わなくても刺された母親を病院に運ぶこともできる。
そうすれば、死なないかもしれない。
けど。
部屋に見えた。
家に見えた。

鍵が掛かっていたら?
彼らの家が、とても遠い場所にあったら?

ぼくに何かができる、なんて。

ぼくには信じられない。

「あの」

けれどそれでも。
それでも――――――・・・。

「・・・いい、お母さんですね」

放っておくことは、できない。

男の眉根が跳ね上がる。
不快そうな顔。
一緒に居た母親も、いきなりそんなことを言ったぼくに不審そうな顔を向ける。
ぼくはもう一度、言った。

「いいお母さんですね。羨ましいです」

こんなことしか言えない。
それでも、これで。
少し。
少しでも、いいから。

視えた画が、軽くぶれた、気がした。









//20歳(くらい)

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