雪だるまを並べ |
2007年12月25日 02時08分
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こんな田舎の山奥の小さな村なんて、あの悪魔にはどうにでもできるものだった。
山の上だから雪が深くて、冬は隣町に行くことすらできない、陸の孤島。
あの悪魔にとっては、好都合な。
私たちは、村の人間は誰も何も知らなかったのに。
この村に何かが隠されてるとか、誰かが逃げてきていたとか。そんなことは、何も。
田舎だから村人は皆顔見知りで、親戚みたいなもので。
朗らかに明るく、日々を普通に過ごしていただけなのに。
あの悪魔は、そんなことは微塵も関係なく、この村を踏みにじった。
黒い髪、黒い目、黒い服。
青い黒髪のバケモノを連れた、悪魔が!
銃声。
悲鳴。
炎の色。
血の色。
ついさっきまで無縁だったものが、瞬く間に増えていき。
阿鼻叫喚を、この目で見た。
どうしてこんなことに・・・・・!!
その言葉だけが、空しく思考を埋め尽くす。
あの男は、悪魔だった。
この村は、悪魔に気に入られてしまったのだ。
何処へ行っても死体と銃弾が転がっている。
誰を訪ねても、もう息をしていない!
いつも降る雪も、まるで悪魔の味方のように思えた。
雪に足を取られて、何度も転ぶ。
此処も駄目。
此処も、だめ。
此処も。
ああどうか。
どうかどうかどうか、誰か・・・っ!!
一人でも、いいからっ!!
けれど願いは空しく、悪魔はそれほど優しくはなかった。
悪魔とバケモノの声が、聞こえる。
「生存者は?五分後、動いてる人間は居るか?」
「・・・・・・」
「花梨。さっさと答えろ。『仕事』だ」
「・・・・・・・・・いない・・・・」
バケモノは嘘をついたと思った。でもそれがどういうことかまでは、思考が働かない。
だって、私は生きてるのに。
それだけを、思う。
いないわけ、ないのに。
その所為で死ねなかったのだと悟ったのは、全てが終ってから。
優しさ?
情け?
―――――フザケルナ。そう思う。
悪魔の癖に。
バケモノの癖に!
思ったのは、さっきも言った通り、全てが終ったあとだったけど。
悪魔とバケモノが去って、その手先が教会を爆破して、何かを回収して。
私は感覚のなくなった手足を無理やり動かして、皆を。
・・・・・・動かなくなった、皆を、小さな村の、小さな広場に、引き摺って。
爪がはがれるのも無視して、穴を掘った。
一心不乱に。
何をしているのかも考えず、ただ、動いた。
気にしなかった。
考えなかった。
考えたら、もう、何もできなくなると、わかっていた。
穴を掘って、埋めて。
また穴を掘って、埋めた。
何度も何度も何度も、機械的にそれを繰り返した。
雪はいつもと変わらず、しんしんと降り続いて居た。
蹂躙された足跡が雪に覆われていく。
毒々しい赤が、白に隠されていく。
瓦礫も捨てられた銃も、化粧を施されたように、白を被って。
全部埋め終えてから、次に、雪だるまを作った。
板なんて探せなかったから。
石なんて、雪に埋もれてよくわからなかったから。
並べる。
並べる、並べる、並べる。
一つ作って、また一つ作って、もう一つ作って。
笑っていたことを思い出しながら。
話していた人を思い出しながら。
代わりのように。
空っぽの村に、誰かを住まわせるように。
でも雪だるまは、喋らないけど。
涙は流した端から凍っていった。
「・・・・私の村は悪魔に滅ぼされたの」
「悪魔・・・?」
「そう。黒髪で黒い目の、悪魔」
あの悪魔のことは、今でも忘れていない。
あのバケモノの、声も。
「ねぇあなた、知らない?」
私は並んだ雪だるまに、復讐を、誓った。
//15歳
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