安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

  新着アーカイブ  
ゾロ目[2
 (2010/11/11 12:51)
マスコット
 (2008/5/1 19:04)
多けりゃ良いってものじゃない
 (2008/4/30 18:51)
一生懸命
 (2008/4/25 18:53)
世界を見下ろす丘
 (2008/4/23 18:54)

  新着コメント  
新着コメントはありません

  ブログ内検索  

  カテゴリー  
最初に/設定(1)
21歳以降(70)
16〜20歳(35)
10〜15歳(29)
0〜9歳(6)
その他(18)


  月別アーカイブ  
2010年11月(1)
2008年05月(1)
2008年04月(12)
2008年02月(16)
2008年01月(5)
2007年12月(25)
2007年11月(25)
2007年10月(31)
2007年09月(30)
2007年08月(13)

だらしのない
「ああ、もう、だらしのない」

そんな言葉が聞こえて、振り向いた。
振り向いた瞬間目に入ったのは、一人の母子。
子供はもう「子供」という年ではない、立派な大人。
けれど母親はどうも若干過保護らしく、一々男の動向に口を出していた。
男が母親の言葉に眉を寄せる。

その、瞬間。

見ている映像が、ぶれた。

未来が映る。

名前も知らないその男の、未来。

わかってしまう。
知ってしまう。

近い、将来。
それは明日か明後日か、それとも一週間後か、一ヵ月後か。
少なくとも、一年以内に。



あの男は、母親を包丁で刺し殺す。



それは発作的な犯行か、それとも計画的な犯行か。
わからないけれど、とにかく、その男は、母親を刺して、そして、母親は死ぬ。
ぼくはその場から動けない。
立ち止まったまま、ただ、その男を凝視する。
ぼくの視線に気付いた男が、ぼくを振り返って訝しげに眉を寄せる。
視線の意味は、「何だコイツ」、だろう。
見知らぬ人。
関わりもない人間。
そんなものが見ていたら誰だって眉を寄せるだろう。
でも。
それでもぼくは、その男から目が離せなかった。

何も出来ない。
未来に罪を犯すから、と言っても、警察は信じてくれない。
それに、未来は変わる。
ほんの些細な切欠で、未来は変わる。
だから、それを根拠に彼を拘束したりはできない。

ちゃんと予知をして、日付を知れれば、ぼくが彼を止めることもできるし、間に合わなくても刺された母親を病院に運ぶこともできる。
そうすれば、死なないかもしれない。
けど。
部屋に見えた。
家に見えた。

鍵が掛かっていたら?
彼らの家が、とても遠い場所にあったら?

ぼくに何かができる、なんて。

ぼくには信じられない。

「あの」

けれどそれでも。
それでも――――――・・・。

「・・・いい、お母さんですね」

放っておくことは、できない。

男の眉根が跳ね上がる。
不快そうな顔。
一緒に居た母親も、いきなりそんなことを言ったぼくに不審そうな顔を向ける。
ぼくはもう一度、言った。

「いいお母さんですね。羨ましいです」

こんなことしか言えない。
それでも、これで。
少し。
少しでも、いいから。

視えた画が、軽くぶれた、気がした。









//20歳(くらい)
読みたい病が発病中でした。
コメント(0) / トラックバック(0)16〜20歳


コメントを書く
名前:
メール:
URL:
コメント:


コメント
トラックバック
トラックバックURL