だらしのない |
2007年12月2日 22時38分
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「ああ、もう、だらしのない」
そんな言葉が聞こえて、振り向いた。
振り向いた瞬間目に入ったのは、一人の母子。
子供はもう「子供」という年ではない、立派な大人。
けれど母親はどうも若干過保護らしく、一々男の動向に口を出していた。
男が母親の言葉に眉を寄せる。
その、瞬間。
見ている映像が、ぶれた。
未来が映る。
名前も知らないその男の、未来。
わかってしまう。
知ってしまう。
近い、将来。
それは明日か明後日か、それとも一週間後か、一ヵ月後か。
少なくとも、一年以内に。
あの男は、母親を包丁で刺し殺す。
それは発作的な犯行か、それとも計画的な犯行か。
わからないけれど、とにかく、その男は、母親を刺して、そして、母親は死ぬ。
ぼくはその場から動けない。
立ち止まったまま、ただ、その男を凝視する。
ぼくの視線に気付いた男が、ぼくを振り返って訝しげに眉を寄せる。
視線の意味は、「何だコイツ」、だろう。
見知らぬ人。
関わりもない人間。
そんなものが見ていたら誰だって眉を寄せるだろう。
でも。
それでもぼくは、その男から目が離せなかった。
何も出来ない。
未来に罪を犯すから、と言っても、警察は信じてくれない。
それに、未来は変わる。
ほんの些細な切欠で、未来は変わる。
だから、それを根拠に彼を拘束したりはできない。
ちゃんと予知をして、日付を知れれば、ぼくが彼を止めることもできるし、間に合わなくても刺された母親を病院に運ぶこともできる。
そうすれば、死なないかもしれない。
けど。
部屋に見えた。
家に見えた。
鍵が掛かっていたら?
彼らの家が、とても遠い場所にあったら?
ぼくに何かができる、なんて。
ぼくには信じられない。
「あの」
けれどそれでも。
それでも――――――・・・。
「・・・いい、お母さんですね」
放っておくことは、できない。
男の眉根が跳ね上がる。
不快そうな顔。
一緒に居た母親も、いきなりそんなことを言ったぼくに不審そうな顔を向ける。
ぼくはもう一度、言った。
「いいお母さんですね。羨ましいです」
こんなことしか言えない。
それでも、これで。
少し。
少しでも、いいから。
視えた画が、軽くぶれた、気がした。
//20歳(くらい)
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