幻に惑わされ |
2007年12月20日 03時16分
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追いかけていた。
半透明に見えるその背中。
どんどん遠ざかっていくその人を、ずっと追いかけていた。
「―――――・・・・さん・・・!」
呼ぶ。
走りながら声を絞り出しても、その人は振り返らない。
背中との距離は、一向に縮まらない。
「・・・・・い、さ―――――――」
ぼくと同じ色の髪が、軽く揺れる。
ぼくより高い背の、少年。
「にいさんっ!」
待って。
行かないで。
ぼくを、一緒に―――――・・・
何かに足を取られて躓いて、ぼくが身動きできなくなった、その瞬間。
追っていた人は振り返って、そして、「笑った」。
―――――あ。
それは死者への冒涜。
それは弔意の利用。
愛しさも繋がりも悲哀も望みも、全てを馬鹿にした、行為。
罠に掛かったことを、確信した。
涙が頬を伝う。
悔しかった。
哀しかった。
苦しかった。
だってやっと、それが幽霊でも、ずっと会いたいと!
暴力的なまでに、その心が踏みにじられたのを感じる。
心が血を流したように、悲鳴を上げた。
―――――兄、さん。
呼び声は、空虚に響いて。
そして消えた。
ぼくには霊視の力はない。
会えるはずが、ないのだ。
すべてはまぼろし。
//22歳(頃?)
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