安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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幻に惑わされ
追いかけていた。
半透明に見えるその背中。
どんどん遠ざかっていくその人を、ずっと追いかけていた。

「―――――・・・・さん・・・!」

呼ぶ。

走りながら声を絞り出しても、その人は振り返らない。
背中との距離は、一向に縮まらない。

「・・・・・い、さ―――――――」

ぼくと同じ色の髪が、軽く揺れる。
ぼくより高い背の、少年。



「にいさんっ!」



待って。
行かないで。
ぼくを、一緒に―――――・・・

何かに足を取られて躓いて、ぼくが身動きできなくなった、その瞬間。

追っていた人は振り返って、そして、「笑った」。

―――――あ。

それは死者への冒涜。
それは弔意の利用。
愛しさも繋がりも悲哀も望みも、全てを馬鹿にした、行為。

罠に掛かったことを、確信した。

涙が頬を伝う。
悔しかった。
哀しかった。
苦しかった。
だってやっと、それが幽霊でも、ずっと会いたいと!
暴力的なまでに、その心が踏みにじられたのを感じる。
心が血を流したように、悲鳴を上げた。

―――――兄、さん。

呼び声は、空虚に響いて。
そして消えた。

ぼくには霊視の力はない。
会えるはずが、ないのだ。






すべてはまぼろし。









//22歳(頃?)
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