安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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雪の結晶
ぼくは普段、暇さえあれば外に居る。
特に目的もなく、ふらふらと。
朝でも昼でも夜でも、関係なく。
寒くても、暑くても。

「外」は。
ぼくにとって、「自由」の象徴だから。

自分で借りているアパートの一室も、嫌いではない。
あまり個性のない部屋だけど、少しずつ、ぼくの「色」が見える部屋には、なってきたから。
本当はもっとインテリアがあればいいのだけど、買っていないのだから仕方がない。
「自由」であるのにあまり物を買えないのは、ぼくが弱いから。
物を買えば、執着が出来て。
愛着が、沸く。
それが恐い。
大切なものが、増えることが、恐い。
だって、破壊は一瞬だ。
あの人が少し気分を損ねれば、あっというまに、消えてしまう。
物でも。
人でも。
どちらにしろ、関係ない。
あの人は・・・・ボスは、恐い、人だから。

それはぼくに刻み込まれた真実。
何度も何度も「教えられた」、コト。

だから部屋の中が淋しいのは仕方がない。
誰の所為でもない、ぼくの、所為。

それでもインテリアを見るのは好きで、服やアクセサリーだって、見ているのはとても楽しくて。
例え窓越しであっても、何処か心躍るものだ。
ぼくも、一応、女の子、なのだし。
可笑しくはないと、思う。
否。
思ってから、苦笑した。
もう。
「女の子」という、年ではない。
その年代は、何処かへ行ってしまった。

「あ・・・・・・・」

ショウウインドウの中央に、小さな銀のアクセサリ。
雪の結晶を象った、プラチナ。
小さな水色の宝石も一緒に鎖に通されている、ネックレス。
目が留まって、そしてその場に立ち止まる。
ついガラス窓に手を付いて、じっと覗き込んだ。

「・・・・・・可愛いな」

実はぼくはまだ、本物の雪を見た事がない。
10歳までに居た場所にはあまり雪が降らなかったし、それ以降、「仕事」で外に「持っていかれた」ときも、雪は降っていなかったから。
映像では見たことあるし、イメージは、わかるけど。
本当にこんな形をしているのだろうかと、つい思う。
これを見たことのある人は、あまり居ないのだろうけど。

どうしてもそれが気に入ってしまって、買おうかどうか、踏ん切りがつかないながらも店の扉に手を伸ばして。
取っ手を引こうとした瞬間に、コートのポケットから甲高い機械音が鳴り響いた。

―――――――――・・・・

店の取っ手から、手を、離す。

ショウウインドウを一瞥して、軽く目を伏せて。

それからくるりと、踵を返した。

電話に、出る。

「・・・・はい」

もう一度も、振り返りはしなかった。









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