安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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飲み込みの早い人
私が裏街道に堕ちたのは、必然だった。
昔から不良と呼ばれる存在で、「普通」とは少し違う道を歩いていた。
勉強が出来ないわけではなかった。
家庭に恵まれていないわけでもない、と、思う。
少なくとも両親共に健在だったし、家もあった。

たが、普通に学校に行って授業を受ける―――――そんな当たり前のことを、どうしても甘受できなかった。

盗み、恐喝、薬、詐欺に暴行。
それは犯罪であるとの分別を持って、自ら進んでそれをやった。
しかし、心が満たされることはなかった。
いつでも乾いて・・・飢えて、いた。
何かが足りない。
早い時期から、私はそれを悟っていた。
進んでスラムを根城にしていたジャンクキッズがマフィアに関わりを持ち、その末端を担うようになるのは自然な流れだった。
しかしそれでもやはり、私は渇えていた。
足りないのだ。
スリルも、弱者を蹂躙する満足感も、何もかも。

私は更に深みに墜ちた。

罪状は殺人に死体遺棄。
私は国外に逃亡し、そして国外でも当然のように裏の社会に身をおいた。

そしてそこで、「彼」に会ったのだ。

「・・・・・それで?」

私の隣に居た男が、そう聞かれる。
私には「彼」が何を問うているかすぐにわかったが、隣の男はわからなかったらしい。
「彼」が眉根を寄せた。
別に男を庇う気はカケラたりともなかったが、口を開く。
「彼」の望む答えを口にした私に、「彼」が初めて私という個人を認識したような目で私を見た。

否。
今ならわかる。
それは私という「個人」を認識したわけではなく、塵芥の中に「道具」が埋もれていたことに気付いたときの、視線だったと。
「彼」は笑った。

「ふうん。飲み込みが早いな?お前、名前は?」

「彼」はそう、私と言う道具の名称を聞いた。

その時から、私は「彼」の道具となった。
二番目に役立つ、一番使い易い道具に。

私は、私の求めていたものを知った。

「・・・・・イツキ。ボスからお電話です」
「繋げ。それから・・・」
「『時計』のことでしたら、既にロバートを迎えにやらせました」
「ならいい」

「彼」は、イツキは素晴らしかった。
私には思いつかない領域まで、貪欲に突き進んでいる。
私では、思いつかない方法で。

イツキの指示に従えば、私だけでは決して見えない風景が見れた。

私が求めていたものは、私に必要だったのは、私より優れた、私を超越した指導者、だった。

イツキは私に爪の先程の信頼も置いてはいない。
私とて、片腕などと慢るつもりはない。
私が使えなくなれば、イツキは何の躊躇もなく私を捨てるだろう。
それでいい。
それこそが、イツキ――――私の辿り着けない位置に立つ、存在。

「ディオ。急用が入った。花梨はお前が使え」
「はい」

私は自らの意志で、イツキの指示に従う。
イツキのため、などとは言わない。

全ては、自分自身のために。

私は私のしたいことをする。









//ディオ・カーレル
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