安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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舞い散る羽
ふと、顔が綻んだ。
チチチ、と、可愛らしい声が、する。

ぼくに用意された部屋には、窓はない。
あるのは廊下。
その廊下の高い位置にある窓から、小さな鳥が顔を出していた。
種類はしらない。
尾の長い、白黒の、鳥。

「こんにちは」

そう言って手を伸ばせば、その指に止まる。
いつからか窓で歌っているのに気付いてから少しずつぼくに慣れてくれた小鳥は、とても可愛かった。
ぼくは小鳥に癒された。

少し羨ましかったのかもしれない。
飛んでいける鳥。
ぼくは窓には絶対に手が届かなかったし、翼もない。
それに、飛んでいける場所も、ない。

「・・・・鳥さんは、いいね」

つい、漏らした。
それが間違い。

「ふうん?」

監視されていることは知っていた。
この建物で、ぼくの行動がわからない場所などないことは、理解していた。
最初は視線を感じるようで苦しかったが、もう4年――――人間、どんな環境にも慣れることができるのだと、実感した。
知っていたのに。
甘かったとしか、言いようがない。

声を聞いた瞬間、ぼくは乱暴に手を挙げる。
驚いた小鳥が、ぱたぱたと羽ばたいた。
叫ぶ。

「――――行ってっ!」

折角ぼくに慣れてくれた小鳥が、裏切られたように窓へ向かって。
けれどそれは、遅かった。

発砲された弾丸とは、比べようもないほどに。

チキィ、と。
普段より甲高い声で、小鳥が鳴いて。

羽が、散った。

ぼとりと。
小さな影が、垂直に落下する。

「そういう思考を持つなと、何度も言ったはずだが?」

羽だけが、ひらひらと、空気に舞い散る。
白い羽と黒い羽、幾つもの、羽。
舞い散る羽は窓からの光に透けて、綺麗にも、見えた。

ぼくは声の主には反応を返さずに、落下した小さな影に走り寄る。
そっと掬い上げたそれは、とても軽くて。
ああ、と、意味をなさない嘆きが、漏れた。
御免ねと、小さく呟く。
ぼくが甘かった。
甘すぎるほど、浅はかだった。

逃げられないことを知れ。
逃げようと思うな。
逃げたいと、期待することさえ無駄だ。
それは何度も何度も、それこそ身体に刻まれるほど、言われた言葉だったのに。

望んではいけなかった。
羨んでは、いけなかった。
少なくともそれを、口に出すべきではなかった。

羽の最後の一枚が、床に落ちる。
同時にぼくの頬から、涙が滑り落ちた。

「来い。わかるまで何度でも、教えてやる」

――――ぼくは、小鳥のお墓すら、作ってあげることはできなかった。









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