安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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誰もいない、私だけの世界
暗闇に、あの子だけが見える。
その視界は、私だけの世界。

「ひーちゃんってばー」

そんな声が聞こえて、視界を変える。
あの子が消えて、周囲の風景がガラスを一枚隔てて見るように広がった。
目隠しをしていても、不自由はない。

「ひーちゃんー」
「・・・・・何だ?」

答えれば、隣に来ていた一人の神が何やら驚いた顔をする。
神々の中で喜怒哀楽を作るのに一番長けているのは、この男だろうと漠然と思った。

「あ、聞こえてた?」

聞こえてないつもりなら、何故呼ぶのか。
この男は、謎だ。

「何か用か」
「んー、何してるのかなって?」
「あの子を見てた」
「また?」
「また」

私が何をしているか、そんなことを聞きに来たのだろうか、この男は。

「・・それで、用は」
「ない」

暇なことだ、と、思う。
思ってから、己も同じかと内心で嘲笑した。
神など皆、暇なものだ。
何もできることなどないのだから。

用がないならもういいかと、あっさり思考から隣の存在を掻き消す。
視界もまた「普通」に戻せば、暗闇にぼんやりとあの子が見えた。

あの子は幸せとは言いがたい人生を送っていた。
哀れなことだと、思う。
視界に移るあの子は、大抵泣いている。
望まないことをさせられて、苦しんで。
自分を卑下し、存在を憎むことすらして。
けれど、あの子は人を嫌わない。
賞賛に値する。

あの子は自分を責める。自分を笑う。自分を、嫌う。
だが人を嫌わない。世界を、嫌わない。
あの子にとって世界はいつも美しい。
人は皆、愛しい。
驚嘆に値する。

だがそれが、あの子を苦しめているのだけど。

「ねー、ひーちゃんー?」

あの子が泣いている。
私はただ、私だけの世界で、それを見ている。
見ている、だけ。
私以外誰も居ない、暗闇の世界で。

「楽しい?」

よく、わからない。

反射的に、心中で答えた。









//カミサマ
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