安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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金の卵を産む鶏。
金のなる木。
何でもいいが、それに等しいモノ。
それが「狂った時計」―――――不動花梨だった。





未来の情報は金になる。
使いようは幾らでもある。
それが的中率90%以上のものであれば、尚更。

信じられないと鼻で笑うものは相手にしない。
追いすがって証拠を見せてやるほど親切じゃない。
見る目のある人間。
鼻の利く人間。
そういう、俺が利用価値を見出せる人間だけが、俺に取引を持ちかけてくる。
俺はその取引に時に応じ、時に応じずそいつらを利用する。

「貸し出し?」
「ああ。金なら幾らでも出す!だから頼む。我々に、『時計』を!」
「幾らでも、ねぇ。具体的に幾らだ」
「・・・、・・・・・1億ドル」
「はっ・・・!寝ぼけてるのか、お前」
「っ、5億までなら出せる!」
「桁が違うつってんだよ。10億ドルでも安い」
「なっ・・・貸し出しだぞ!?」

嘲笑する。
こいつはそれなりに使えるモノかと思ってたが、そうでもなかったらしい。
こんな取引で、俺から金のなる木を掠め取れると思っているとは。
「時計」なら、貸し出す数日で、10億ドルを稼ぐのは難しくない。
もちろん使い方による。持ち主が無能なら、道具が上手く機能しないのは当たり前だ。
嘲笑を顔に刻んだまま、立ち上がった。

「一昨日来やがれ」

取引の決裂を悟って、両隣に立っていた部下が取引相手を拘束する。
俺はその姿を見もせずに、背を向けた。
ぱんっと、軽い音が、する。
その音を聞いて、ああ、と、足を止めた。

「しまった、間違えた。死んだらもう来れないな」

振り返りはしない。肩を竦めるだけで、また足を動かす。
進みながら、ついてきた部下に指示を出した。
あの組織ももう不要だなと、それだけ言う。
それだけで何を言っているかわからないモノは、俺の部下にはいない。
「はい」と頷いて、部下が一人消えた。
そして俺は、エレベーターから足を踏み出す。
そのフロアには、部下は誰も付いて来なかった。
幹部以外、立ち入り禁止。
そういうフロアだ。
重要機密のある、フロア。
ついさっき死んだ男が借りたいと言った「時計」は、そこに居た。

扉を開ければ、俺を振り返る。

「・・・・・仕事?」

未来が見える、気色悪い、バケモノ。

髪を長く伸ばした少女。
着ているのは部下が用意した、適当で簡素なワンピース。
ワンピースである理由は、その方が検査が楽だから、だ。
研究者どもは涎を垂らさんばかりの熱心さで、コレの研究をしてるという。
滑稽なことだと思う。メカニズムを追求して、どうするのか。
バケモノはバケモノ。できるということがわかれば、他はどうでもいい。
研究も使いようによっては役には立つから、やらせてはいるが。

金を生む鶏がこんな姿をしてるとは、他の組織は知らない。

無用な問いをした「時計」に、頷く。
口を開けば、何かを諦めるように軽く目を伏せた。

「他にお前を呼ぶ理由があるか?」
「・・・そうだね」

使いようによっては数日で10億ドルでも50億ドルでも稼ぐ「時計」。
1億ドルで借りたいと言ったが、実は中々いい値ではあった。
1億ドル。
それは。

「行くぞ」

このバケモノを買った値段、だった。

俺はそんなはした金で、この便利な道具を手放す気はない。









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