安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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抱擁
「暗闇から、抜けたくはないですか?」

優しく問いかける声に、ぎゅっと手に力を入れた。
掌に爪が食い込むほど強く、手を握る。

ぼくには、無理なこと。
自由ではない、自由。
会うのも止めなければいけないと、思い続けていて。
迷惑をかけてはいけないけど、でも、ずるずると会いに行ってしまっていて。
もう、止めなければと。
思っていた。
思っていて、でも、ぼくは来てしまって。
そして彼は言ってくれたのだ。

「手を差し伸べたのは不動さんなのに、その手を引っ込めるんですか?」

だって思ってなかったのだ。
知らなかった。
そんな人が居るなんて、まさか。

こんな得体の知れないぼくを、見捨てない優しい人が、居るなんて。

優しすぎて泣きたくなる。
優しさがナイフのように心を抉る。

ぼくはきっと彼を不幸にする。
彼は優しくしてくれるのに、ぼくは何も返せない。
破滅を連れて来る、だけ。
やっぱりきっと来てはいけなかった。
会ってはいけなかった。
言っては、いけなかった。

後悔ばかりが押し寄せて来て、瞳から涙が零れた。

泣きながら、首を、振る。

すぐに手で顔を覆ったけれど、涙は止まってくれなかった。

いけない。
いけない。
いけない。

それは言ってはいけないこと。
それは思ってはいけないこと。
それは考えては、いけないこと。

泣くだけで何も言えないぼくに、彼は困ったように笑って。

ぼくの髪を撫で、そして子供にするように、抱き締めて背中を撫でてくれた。

暖かい人。
優しい人。
優しすぎる、人。

言ってはいけない。

言ったら。
だって言ったら、きっと。

彼はやろうとしてしまうから。

頭ではわかってる。
最良の選択。
最高の行動。
なのになのになのに、ぼくはいつも失敗を繰り返す。

「・・・・っ、ぅ、ひっ・・・く・・・・ぅ・・・・!」

嗚咽がどんどん止められなくなって、暖かさは涙を増加させて。

ぼろぼろと涙を流しながら、ぼくは。





「・・・・・・・たすけて・・・っ!」





言ってはいけない言葉を、言った。

ぼくはいつも。
最低の過ちを、繰り返す。









//21歳?(多分)
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