安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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やり残した事
生前、俺は所謂「超能力者」だった。
残念ながら紛い物ではない、本物の。
能力は念動力(サイコキネシス)、精神感応(テレパシー)、そして断片的且つ突発的な、予知能力(プロコグニション)。
望んで持っていたものではなかったが、死ぬまで捨てることも叶わなかった。
その「所為」で何か起こったことは多々あっても、「おかげ」となると数少ない。
生きているうちに、捨てられたなら。きっと俺の人生はまた違っていたのだろう。

そう。
俺は死者だ。自覚はある。

俺は死んだ。突然ではあったが予想外ではない、交通事故で。
望んで動いた結果だったから、それについては何も後悔はない。
しかし、死んだはずの俺は、何故かまだ「此処」に居た。
「能力」の所為か、もしくはおかげかもしれない。しかし実際の理由はわからない。
ただ、俺の死を自分の所為だと責める親友が放って置けなくて、俺は自然の摂理に逆らい続けることを選んだ。
選んだ理由はそれだったが、今は選んでよかったといえる理由が他にたくさんある。

俺は生前より死後の方が、幸せだったように思う。

幽霊である俺を知覚できる人間は少なかったが、その代わり、見える者は幸い皆優しかった。

最初の理由だった親友も、もう心配ない。
次にできた理由も、やはりもう解決した。
もうやり残した事は、ない。

これから、どうしようか。

流石にもう、長居しすぎたかもしれないと。
そんな風に、思っていた、その、矢先だった。


「妹」の。
存在を、知ったのは。


聞かされて、驚いた。
見て更に、驚いた。

血を分けた、兄妹。
肉親?
「何だソレは?」というのが、一番近い。
俺はそんなものは知らない。
俺が知っているのは、俺を研究所から救い上げてくれた、暖かい「母」だけ。
知っているのは、実の両親は俺を研究所へ売り払ったという、事実だけ。

そして衝撃的なことに、その「妹」も、また。



――――――――「超能力者」、だった。



愕然とした。
最初に哀れみが湧いた。
次に親しみが湧いた。
霊視の能力はないらしい彼女が己の墓の前で涙を流すのを見て、愛しさが、込み上げた。

20も年が離れている、娘のような妹。
俺が死んだ時には、まだ生まれても居なかった、彼女。

もう、やり残した事など、未練など、ないと、思ったのに。

俺に何が出来るだろう。
現世にほとんど干渉できない、この身で。
それでも俺は、彼女を放っておけないと、思ってしまった。
太陽の暖かさも感じない姿で、空を見上げる。

ああ。




まだ俺は、この先には、行けない。









//桐原藍螺
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