安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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自然の脅威
思わず、身体を竦める。
小さく悲鳴が漏れたけど、どうにかそれだけで恐怖をやり過ごした。
未来を視て恐怖を感じたのは、初めてではなかった。
けれどこれを同種の恐怖を感じたのは、まだたったの2度目だ。

前回は、土砂崩れだった。
家も車もまるで玩具のように、土に呑まれて崩れていく。
道も森も人も動物も区別なく、ただただ強引に、苛烈に猛威を振るう。
人の起こす恐怖とはまた違う、震撼するような、恐怖。
それは天災と呼ばれるもの。
神の怒りと、恐れられるもの。

「・・・・・・・20日後・・・」

自然の、脅威。

ぼくが視た2度目の天災は、噴火という形をしていた。

灼熱が地を舐め、人を焼く。
木々も皆炭と化し、静かになった街には灰が降り注ぐ。
世界が灰色に染められていく。

「20日後、山が、噴火する・・・!」

戦慄が浸透して、次に街の人を避難させなくてはと思考が転じる。
何も考えず踵を返したぼくの手を、誰かが掴んだ。
邪魔をしないでと、反射的に言いかけて。

「何処へ行く?」

刺すような冷たい目線と行動を縛る声に、全ての動きを止めた。

まさか、と、思う。
この場所の予知をさせたのはこの人で。
こんなの予測できるはずもないけど。
でも噴火はもう、20日後で。
まさか。
だって、そんな。

「噴火は20日後か。運がいいな」

耳が聞いた台詞を否定する。

運が。
・・・・いい?

何を言っているのか、わからなかった。

「マグマが、街まで、届く。街の人たちに、避難を・・・!」

赤い液状の火は土を這い、森を焼き、人を焼く。
街は死に、動くものはなく。
惨劇もなく、ただ命が散る。

それの何処が、運がいいのか。

「何も言う必要はない」
「でもっ」
「でも?」
「っ・・・!」

ぼくの腕を掴んだ手は、ちっとも揺るがない。
それどころかますます強くなって、ぼくの行動の自由を奪った。
わからない。
わからないわからないわからない。
わかりたく、ない。

「逆らう気か?花梨」

違う。
そうじゃない、逆らいたいわけじゃなくて。
言おうとするけど、視線を合わせた途端、全ての言葉は萎縮した。
喉の奥に張り付いて、外に出ない。
ああ駄目だと、思う。
悟る。

この人は、人が死ぬことなんて、どうにも思ってない。

「一儲けする。勝手に情報を漏らすな」

くらりと、目の前が暗くなった。

どうして。

どうしてこんなにも、この人との距離は、遠い。

同じ言葉を話しているはずなのに、どうして。

通じない。

「帰るぞ。・・・・そんなに気になるなら、何人死んだか結果だけは後で教えてやる」

浮かぶのは、嘲笑。
どこまでも、ぼくを愚かと蔑む、視線。

絶望が、心を塗り潰す。

どう、して。

知っているのに、ぼくにはまた、何も出来ない。





後日ぼくに齎されたのは、取り返しの付かないほどの、膨大な数の死者数。
有志に残る大規模な災害だったと、言う報せ。









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