自然の脅威 |
2007年12月10日 00時47分
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思わず、身体を竦める。
小さく悲鳴が漏れたけど、どうにかそれだけで恐怖をやり過ごした。
未来を視て恐怖を感じたのは、初めてではなかった。
けれどこれを同種の恐怖を感じたのは、まだたったの2度目だ。
前回は、土砂崩れだった。
家も車もまるで玩具のように、土に呑まれて崩れていく。
道も森も人も動物も区別なく、ただただ強引に、苛烈に猛威を振るう。
人の起こす恐怖とはまた違う、震撼するような、恐怖。
それは天災と呼ばれるもの。
神の怒りと、恐れられるもの。
「・・・・・・・20日後・・・」
自然の、脅威。
ぼくが視た2度目の天災は、噴火という形をしていた。
灼熱が地を舐め、人を焼く。
木々も皆炭と化し、静かになった街には灰が降り注ぐ。
世界が灰色に染められていく。
「20日後、山が、噴火する・・・!」
戦慄が浸透して、次に街の人を避難させなくてはと思考が転じる。
何も考えず踵を返したぼくの手を、誰かが掴んだ。
邪魔をしないでと、反射的に言いかけて。
「何処へ行く?」
刺すような冷たい目線と行動を縛る声に、全ての動きを止めた。
まさか、と、思う。
この場所の予知をさせたのはこの人で。
こんなの予測できるはずもないけど。
でも噴火はもう、20日後で。
まさか。
だって、そんな。
「噴火は20日後か。運がいいな」
耳が聞いた台詞を否定する。
運が。
・・・・いい?
何を言っているのか、わからなかった。
「マグマが、街まで、届く。街の人たちに、避難を・・・!」
赤い液状の火は土を這い、森を焼き、人を焼く。
街は死に、動くものはなく。
惨劇もなく、ただ命が散る。
それの何処が、運がいいのか。
「何も言う必要はない」
「でもっ」
「でも?」
「っ・・・!」
ぼくの腕を掴んだ手は、ちっとも揺るがない。
それどころかますます強くなって、ぼくの行動の自由を奪った。
わからない。
わからないわからないわからない。
わかりたく、ない。
「逆らう気か?花梨」
違う。
そうじゃない、逆らいたいわけじゃなくて。
言おうとするけど、視線を合わせた途端、全ての言葉は萎縮した。
喉の奥に張り付いて、外に出ない。
ああ駄目だと、思う。
悟る。
この人は、人が死ぬことなんて、どうにも思ってない。
「一儲けする。勝手に情報を漏らすな」
くらりと、目の前が暗くなった。
どうして。
どうしてこんなにも、この人との距離は、遠い。
同じ言葉を話しているはずなのに、どうして。
通じない。
「帰るぞ。・・・・そんなに気になるなら、何人死んだか結果だけは後で教えてやる」
浮かぶのは、嘲笑。
どこまでも、ぼくを愚かと蔑む、視線。
絶望が、心を塗り潰す。
どう、して。
知っているのに、ぼくにはまた、何も出来ない。
後日ぼくに齎されたのは、取り返しの付かないほどの、膨大な数の死者数。
有志に残る大規模な災害だったと、言う報せ。
//16歳
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