安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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めぐりあい
人の時は巡る廻る。
だから出会いもまた、巡り廻る。

私たちのすることは世界を維持すること。
それぞれが存在し続けることで、世界は存続していく。
居ることが、意義。
こう言えば聞こえはいいが、ただ人身御供と何が違うのかと昔思った。
今は思わない。
そんなことを思うのも、馬鹿らしい。無意味だ。
幾ら考えても、私はもう人ではないのだから。
私たちはただ世界を眺めている。
人間が何をするのかを見ている。
世界が壊れていく様を見ている。
哀れなと思いながら、すぐ傍でただ、見ている。

他にすることもないし、出来ることもない。

出来ることといえば、そう。
私が見える人間に、何かをしてやるくらい。
例えば、少し前に神社にやってきた赤子に、私の目を譲ったように。

出雲に神が集まる季節だった。
紅葉を眺めていた私を、じっと見る視線。
穢れのない、澄んだ、幼い瞳。
まだ自我もはっきりしていない赤子に穢れや汚れがあったらその方が逆に驚くが。
神主の一族であるわけでもないのに神が見える目は久しぶりで、不意に気紛れが擡げて。
じっと、私を見る赤子に、笑みを向けた。
まだ自分は笑えたのかと、軽く驚いた。

私はその子が好きになった。

「―――――いい子だね。お前に贈り物をあげよう」

言葉などわかるはずもない赤子は。
私が近づいていっても、やはりじっと、私を見ていた。

その、目に。

そっと手を、翳す。

その瞬間、自分の視界から世界が消えた。

「次に会ったら、返してくれ」

気紛れ以外のなんでもない。
もしあの子が死ぬまで私に会わなかったとしても、大した時間ではない。
それまで盲目というのも、変化があっていい。
私はそれで満足して、踵を返す。

そして。

あの日とは違う神社、喚ばれた神に興味をもって立ち寄ったそこで。
私は再びあの子と会った。

時は巡り廻り。
あの子は赤子ではなく、けれどあの子だった。
見えない目でも、あの子が私を見ているのがわかる。
あの日と同じように、私の隣には紅葉があった。

「ずっと見てたけど、会うのは久しぶりだ」

私は。
ふと、微笑んだ。

ああやはり、私はこの子が好きらしい。

少女を通り越して女性に成長した赤子が、私をただじっと見る。
目隠しをした、私を。

「約束通り、返してもらうことにしよう」

時は巡り廻り。
人は時とともに変わり。
出会いは、巡った。

私は何も変わらない。

私を見つめるその目に手を翳せば、暫く見ていなかった視界が私に戻ってきた。

「あ・・・・・・・」

そこで、初めて。
彼女が、言葉を漏らす。
私の目ではなくなった瞳から、涙を零した。

「あっ・・・・・ぁ・・・・・!」

嬉しいのか、悲しいのか、それとも、苦しいのか。
わからない感情が視える。

このめぐりあいがあの子にどんな変化を齎すのか、それは私が決めることではない。

だから私は言う。

「さよなら、不動花梨」

たぶんもう、会うことはないだろう。









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