安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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一生分の運
僕は多分あの時、一生分の運を使い果たした。
そう、思う。

だからこんなに、不幸なんだろう。

「・・・・君に会ったことは奇跡のような幸運だったよ」

微笑んだ。
確かに運が良かった。
彼女に会わなかったら、きっと僕は死んでいたから。
でもだから、その後にいいことは何もなかった。
彼女の所為で。
彼女の、所為で。

たまたま、すれ違って。
いきなり「行かないほうがいい」と真剣な目で言われ、なんだこの人と胡乱な目を向けて。

でも数十分後、彼女の言葉の真意はわかった。

彼女に呼び止められなければ、ぼくは玉突き事故に巻き込まれて死んでいた。
轢かれて血を流して、痛いし苦しい最後だっただろう。
僕が相手にしなくても彼女が食い下がってくれたおかげで、僕は間一髪巻き込まれずに済んだ。

それが幸運でなくて、なんだと言うのか。

「――――――でもだからこそ、君が憎い」

それは一生分の幸運。


使い果たして枯渇した運は、僕に不幸ばかりを連れてくる。


例えばその日のすぐ後、空き巣に入られた。
その後は、父が入院して。
彼女には振られてしまい、バイトも首になって。
こんな汚い仕事に、手を出すはめになった。

君があの時、ぼくに会った、その幸運の、所為で!

微笑みは、酷薄な笑みへと、変わる。



「ねぇ。僕にどう、償ってくれるの?」



僕は、君を許さない。









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