世間とのズレ |
2007年11月29日 02時45分
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「・・・・・・・・え」
目を、瞬いた。
「・・・・・・・・そうなの?」
それは本気で真剣な、心の底からの、言葉だった。
何気ない会話だった。
世間話程度の、特に意味もない。
けれどその最中に、不動花梨は自分の常識とは違ったことを、聞いた。
「・・・・・もう7年も前よ?」
「本好きには世間知らずと言われても仕方ないぞ」
7年前。
そんなに前のことだった。
かの人は、死んだらしい。
「そっか・・・・・・・」
そうなんだ。
遠く、視線を投げる。
哀しいが、涙を流すほどの出来事ではない。
知人ではないけれど知っていた人が、死んでいたという、ただそれだけ。
淋しいとは、思う。
もう。
「じゃあもう、新作は読めないんだね」
軽く息を吐く。
哀しい、淋しい。それ以上に、思ったことは。
―――――残念。
そんな、思考。
幼い子供なりに、好きだった作家だった。
童話作家。知らない人の方が多いかもしれない。
けれど知る人ぞ知る、というか、根強いファンが多いひとだった。
「私も好きだったけれどね」
「ふむ、まぁ、中々不思議な空気を作る話を書く人だったな」
馴染みの古書喫茶に集った、客同士の会話。
何故その作家の話になったかも、よく覚えていない。
著名人の死だったから、ニュースでも軽く話題になったらしい。
すぐに次の話題に流れてしまうほどの、小さなニュース。
けれど知る人にはちゃんと残る、報せ。
7年前。
知れるはずもない、事象。
不動花梨は、軽く、苦笑した。
「ズレてるなぁ・・・・」
知らないことは、あとどれくらい、あるのだろうか。
戻らない歳月を想って、彼女の苦笑は、数秒の憂いへと、変わった。
//21歳
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