安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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世間とのズレ
「・・・・・・・・え」

目を、瞬いた。

「・・・・・・・・そうなの?」

それは本気で真剣な、心の底からの、言葉だった。

何気ない会話だった。
世間話程度の、特に意味もない。
けれどその最中に、不動花梨は自分の常識とは違ったことを、聞いた。

「・・・・・もう7年も前よ?」
「本好きには世間知らずと言われても仕方ないぞ」

7年前。
そんなに前のことだった。
かの人は、死んだらしい。

「そっか・・・・・・・」

そうなんだ。

遠く、視線を投げる。
哀しいが、涙を流すほどの出来事ではない。
知人ではないけれど知っていた人が、死んでいたという、ただそれだけ。
淋しいとは、思う。
もう。

「じゃあもう、新作は読めないんだね」

軽く息を吐く。
哀しい、淋しい。それ以上に、思ったことは。

―――――残念。

そんな、思考。

幼い子供なりに、好きだった作家だった。
童話作家。知らない人の方が多いかもしれない。
けれど知る人ぞ知る、というか、根強いファンが多いひとだった。

「私も好きだったけれどね」
「ふむ、まぁ、中々不思議な空気を作る話を書く人だったな」

馴染みの古書喫茶に集った、客同士の会話。
何故その作家の話になったかも、よく覚えていない。
著名人の死だったから、ニュースでも軽く話題になったらしい。
すぐに次の話題に流れてしまうほどの、小さなニュース。
けれど知る人にはちゃんと残る、報せ。

7年前。
知れるはずもない、事象。

不動花梨は、軽く、苦笑した。

「ズレてるなぁ・・・・」

知らないことは、あとどれくらい、あるのだろうか。

戻らない歳月を想って、彼女の苦笑は、数秒の憂いへと、変わった。









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