疑似家族 |
2007年11月5日 22時36分
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「お若いお父さんですね?」
「若造りなだけで、実際はそうでも」
「あら、そうなんですか。済みません失礼なことを」
「いえ、よく言われます」
おめかしした小学生の娘(ぼく)を連れ、パーティー会場の奥さま方と如才なくにこやかに会話を交わす男。
目的のためには手段を選ばない、冷たい目の。
ぼくの、今日の持ち主。
親子を演じて来いと、言われた、人。
「ほら、花梨。ご挨拶は?」
何も言う必要はない。
お前はただ、少し後ろに立っていればいい――――・・・。
それがこの会場に入る前の、男の言葉。
向かい合った瞳が告げる。
言った通りにしろと。
言葉よりも明確に、ぼくに命じる。
言われた通りに少し後ろに立ち位置を変えれば、ぽんと腕が降ってきた。
頭を、撫でられる。
背筋が凍って、恐怖と緊張で汗が背中を伝う。
この手は。
怖い、手。
振り払わなかったのはただ、そんな余裕もなかっただけ。
「済みません、ちょっと人見知りで。こら、花梨。駄目だろ?」
こわい。
こわいこわいこわいこわい。
この手は、昨日、ぼくに。
「教育」を施した、手。
演技で優しく撫でられて、作り物の笑顔を向けられて。
それでも、身体を支配するのは圧倒的な恐怖。
やめてはなしていやだ。
この手をっ・・・・!
「ゃ・・・・・・」
つい我慢できずに声を漏らしたぼくに、男は向き直る。
ぼくだけに見える瞳を冷ややかに、やはり声には出さず命令した。
――――――黙れ。
ぴたりと、声は喉の奥に張り付いた。
「親子で仲がいいんですね」と。
表面上は優しい「パパ」を演じる男に、笑顔を向ける人たち。
手近に「子供」が居なかったから、ただそれだけで連れて来られたぼくにも彼女たちは笑みを向ける。
「やっぱり家族は仲がいいのが一番ですわね」
ああ、誰も。
本当のことなど、欠片ほども見てはいない。
//10歳
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