安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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冷たい
ぼくはその日、生きているということはとても温かいということなのだと、実感した。

血の通った手も、腕も、頬も。
触れればほっと息が漏れるくらい、温かい。
それが当然だと思っていた。
それ以外の温度なんて、知らなかったから。

そっと、もう一度、白い滑らかな頬に触れる。

目を、伏せた。

悲しく、なる。
けれど、涙は出ない。
現実が、酷く遠かった。


「――――――――・・・・つめたい・・・・」


どうしてだろう?
答えは簡単だ。

彼は、死んでしまったから。

もう生きて、いないから。

死ぬって何だろう。
生きているって、何。
動くこと?
話すこと?
笑うこと?

どれも当たりで、どれもハズレ。

死ぬって、冷たくなること。
生きているって、温かいこと。

ひやりとした感覚が指先から身体の芯まで伝わって、ぱっと手を頬から離した。

ああ。
ああ、ああ、ああ。

そうか。

この人は、死んでしまったのだ。


―――――――――ぼくの所為で。


逃げようと。
ぼくに言った、人。



「―――――――――・・・っ!!」



突然現実が戻ってきて、ぼくは悲鳴のような慟哭をあげる。
そして思考は暗転した。

ああ。

ああ、ああ、ああ、ああ。









優しさを与えてくれたのに、ぼくは悲劇しか返せない。









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