安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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疑似家族
「お若いお父さんですね?」
「若造りなだけで、実際はそうでも」
「あら、そうなんですか。済みません失礼なことを」
「いえ、よく言われます」

おめかしした小学生の娘(ぼく)を連れ、パーティー会場の奥さま方と如才なくにこやかに会話を交わす男。
目的のためには手段を選ばない、冷たい目の。
ぼくの、今日の持ち主。
親子を演じて来いと、言われた、人。

「ほら、花梨。ご挨拶は?」

何も言う必要はない。
お前はただ、少し後ろに立っていればいい――――・・・。

それがこの会場に入る前の、男の言葉。

向かい合った瞳が告げる。
言った通りにしろと。
言葉よりも明確に、ぼくに命じる。
言われた通りに少し後ろに立ち位置を変えれば、ぽんと腕が降ってきた。
頭を、撫でられる。
背筋が凍って、恐怖と緊張で汗が背中を伝う。
この手は。

怖い、手。

振り払わなかったのはただ、そんな余裕もなかっただけ。

「済みません、ちょっと人見知りで。こら、花梨。駄目だろ?」

こわい。
こわいこわいこわいこわい。

この手は、昨日、ぼくに。
「教育」を施した、手。
演技で優しく撫でられて、作り物の笑顔を向けられて。
それでも、身体を支配するのは圧倒的な恐怖。

やめてはなしていやだ。

この手をっ・・・・!

「ゃ・・・・・・」

つい我慢できずに声を漏らしたぼくに、男は向き直る。
ぼくだけに見える瞳を冷ややかに、やはり声には出さず命令した。

――――――黙れ。

ぴたりと、声は喉の奥に張り付いた。

「親子で仲がいいんですね」と。
表面上は優しい「パパ」を演じる男に、笑顔を向ける人たち。
手近に「子供」が居なかったから、ただそれだけで連れて来られたぼくにも彼女たちは笑みを向ける。

「やっぱり家族は仲がいいのが一番ですわね」

ああ、誰も。

本当のことなど、欠片ほども見てはいない。









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