安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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鏡の中の偽り
ぼくには霊視の能力はない。
そもそも、霊感と言うものが皆無に近い。

だから無理だと言ったのに、ぼくが連れて行かれたそこには、一枚の姿見が置かれていた。

「・・・・・・これが?」

それは、未来を映すと言う噂の、鏡だった。

よくある話、だと思う。夜中の何時に見れば、死ぬ時の顔が映るとか、結婚相手が映るとか。
けれどこの鏡は噂に留まらず、未来かはわからないが、覗いた人の姿以外のものが、映ったらしい。
人々は鏡に幽霊が宿っていると口々に証言した。

本当に未来が映るのか。
その検証に、既に効果が実証されているぼくが呼ばれた。

未来だとしたら、何の、いつの未来か。
同じ力を持つぼくなら、何かを感じ取れるかもしれない――――・・・そんな風に、言われた。

けれど噂の「それ」を目にしても、ぼくは何も感じない。
目立った反応をしないぼくの代わりのように、ぼくを連れてきたボスが、口の端を持ち上げて薄く笑った。

行けと促されて、鏡の前に、立つ。
鏡の中には、左右逆のぼくがいた。
人の未来を視る要領で鏡の未来を覗こうと、束の間目を閉じて意識を切り替える。
相手が動かない鏡だから視えた光景が未来か今かわかり辛くて、鏡に、手を伸ばす。

とん、と。
背中を、押された。

「え・・・・・・・・・」

体勢が崩れて手が鏡に触れる、寸前に。





鏡の中で、立ったままの、ぼくが。

ニィと、笑った。





何か電気が走ったような感覚と派手な音がして、ぼくは膝から崩れ落ちた。

そして。

ボスが、面白そうに、嗤う。





―――――ぼくが覚えているのは、そこまで。









//21歳?
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