垣根を取り払って |
2007年8月22日 18時13分
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ぼくはマフィアが嫌いだ。
そしてマフィアの構成員たちも、ぼくを嫌っている。
否。少し違う。彼らはぼくを嫌っているのではなくて。
「フドウ、カリン」
「・・・・・あれが」
「ふん」
ぼくを、見下している。
ぼくは道具だ。
ぼくは便利だ。
ぼくは金づるだ。
ぼくは、彼らにとって、彼らと同じ人間では、ない。
だから実は、嫌うことすら、ない。
それを知りながら、目の前の男は無意味に爽やかに笑う。
当然のように、白々しい言葉を、吐く。
「こいつは買われた身、こっちは買った側―――その辺りの垣根は取っ払って、今日は無礼講で行こう」
親しげにぼくの肩を抱き、決して笑っていない目で、楽しげに、嗤った。
「『邪魔者』が排除できたのはこいつのおかげだ。さぁ飲め、兄弟たち」
あの日。
契約を交わしたぼくとこの人は、一種の共犯者なんだろう。
それでもぼくはこの人を始めとするマフィアが嫌いだし、この人はぼくをぼくとして扱いはしない。
契約は成った。
ぼくはぼくの代金として支払われた額の仕事をし終え、この人は。
「今日から俺が「父親」だ。―――――文句があるやつは今日のうちに、な」
野望を、叶えた。
「垣根を取り払った」、「無礼講」。さっきこの人はそう言ったけれど、実際は。
ファミリー全体に下克上を知らしめる、垣根を高く厚くするための、儀式。
そして目の前の男――――「ボス」は、ぼくに囁くのだ。
「片っ端から未来を覗け。問いはシンプルだ。“裏切るのは、誰だ?”」
ぼくは。
マフィアが嫌いで暴力が嫌いで黒服も嫌いだけれど、誰よりも何よりも。
この人が、嫌いだ。
//18歳
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