安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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奇跡の目撃者
それは奇跡のような光景だった。

降り注ぐ鉄骨。
不思議な色の瞳をした少女が、その中を泳ぐように動く。
その目は何処も見ていないようで、しかし全てを見通すように煌いて。
必要最小限の動きで歩行者の位置を動かして固定し、時には強引に押し出して。
一人の腕を引き一人の背中を一歩押し、少し離れた次の一人に走る。
遥かな高さから落下したビルの骨組みである鉄骨は、少女が最後の一人を押し倒した瞬間に、爆音のような音を立ててコンクリートに突き刺さるように到着した。
土煙が舞って、視界が不明瞭になる。
一部始終をただ眺めていた野次馬が、一拍遅い悲鳴を上げた。
爆音と悲鳴に感化されて、野次馬は一層増える。
僕は思わずぎゅっと拳を握って、彼女と通行者たちの末路を確かめるべく目を凝らした。

そして土煙が収まった、歩道には。

通行人を避けるように林立した、無骨な鉄骨の、林。

皆何が起こったかわからないという顔で、呆然と立っている。
斜めに地面に刺さっている鉄骨もあれば、横倒しになっているものもある。丸太を組み合わせたように刺さっているものもある。
なのに。

誰一人として、怪我人は居なかった。

戦慄する。
僕だけなのだろうか。気付いたのは、見ていたのは、僕だけ?

彼女が、あの、わけがわからないといってもいいような動作で、次々と通行人を動かしていかなければ、鉄骨の下敷きになった人間は絶対にいた。
それはまさに、奇跡のような、光景。

彼女はほっとしたように微笑んで、そして自分は何もしなかったかのように、立ち上がる。
誰も止める者がいないことを幸いと、そのまま、何も言わずに踵を返した。

僕は奇跡なんて信じたことはなかった。
そんなものはないと、迷信だと、思っていた。
けれど、これは。
これは、正しく――――・・・。

「奇跡って、本当にあるんだ・・・・」

この日から、僕の人生観は少し変わった。







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