安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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弱音を吐くな!
「・・・母さん」
「元気でね、花梨」
「・・・・・・うん」

慈愛に満ちた表情で、ハハは言った。
何も、罪悪感のカケラもない顔で、ぼくの手を離す。
チチは、そんなハハの肩を抱いた。

黒服に腕を強く引かれて、つい、ぼくは、振り向いた。
一縷の期待があった。
もしかしたら、追って。
手を伸ばして、くれるのでは、ないか。
もしかしたら。

――――・・・ぼくは、振り返っては、いけなかった。

見えたのは、伸ばされた手でも追い縋る両親でもなく。
ぼくよりも大事そうにお金が入ったカバンを抱いて微笑みあう、二人。
ぼくにはもう、目も向けず。
それはとても、幸せそうな。

「―――――・・・っ・・・!」

知っていたはずだ。
ぼくはこの光景を、一年前に視てていた。
変わらなかった。
変わらなかった、それだけだっ!
手放したくないと思って欲しかった。我儘は言わなかった手伝いもした勉強も。
それでも。
やっぱり、変わらなかった。
ただ、それだけ。

泣くな。
嘆くな。
弱音を、吐くな!

覚悟はきっと、できていた。

「・・・・・さよなら」

ぼくを生んで、けれど愛してはくれなかった人たち。









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