安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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垣根を取り払って
ぼくはマフィアが嫌いだ。
そしてマフィアの構成員たちも、ぼくを嫌っている。
否。少し違う。彼らはぼくを嫌っているのではなくて。

「フドウ、カリン」
「・・・・・あれが」
「ふん」

ぼくを、見下している。

ぼくは道具だ。
ぼくは便利だ。
ぼくは金づるだ。
ぼくは、彼らにとって、彼らと同じ人間では、ない。
だから実は、嫌うことすら、ない。

それを知りながら、目の前の男は無意味に爽やかに笑う。
当然のように、白々しい言葉を、吐く。

「こいつは買われた身、こっちは買った側―――その辺りの垣根は取っ払って、今日は無礼講で行こう」

親しげにぼくの肩を抱き、決して笑っていない目で、楽しげに、嗤った。

「『邪魔者』が排除できたのはこいつのおかげだ。さぁ飲め、兄弟たち」

あの日。
契約を交わしたぼくとこの人は、一種の共犯者なんだろう。
それでもぼくはこの人を始めとするマフィアが嫌いだし、この人はぼくをぼくとして扱いはしない。
契約は成った。
ぼくはぼくの代金として支払われた額の仕事をし終え、この人は。

「今日から俺が「父親」だ。―――――文句があるやつは今日のうちに、な」

野望を、叶えた。

「垣根を取り払った」、「無礼講」。さっきこの人はそう言ったけれど、実際は。
ファミリー全体に下克上を知らしめる、垣根を高く厚くするための、儀式。

そして目の前の男――――「ボス」は、ぼくに囁くのだ。




「片っ端から未来を覗け。問いはシンプルだ。“裏切るのは、誰だ?”」




ぼくは。
マフィアが嫌いで暴力が嫌いで黒服も嫌いだけれど、誰よりも何よりも。


この人が、嫌いだ。









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