弱音を吐くな! |
2007年8月30日 13時00分
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「・・・母さん」
「元気でね、花梨」
「・・・・・・うん」
慈愛に満ちた表情で、ハハは言った。
何も、罪悪感のカケラもない顔で、ぼくの手を離す。
チチは、そんなハハの肩を抱いた。
黒服に腕を強く引かれて、つい、ぼくは、振り向いた。
一縷の期待があった。
もしかしたら、追って。
手を伸ばして、くれるのでは、ないか。
もしかしたら。
――――・・・ぼくは、振り返っては、いけなかった。
見えたのは、伸ばされた手でも追い縋る両親でもなく。
ぼくよりも大事そうにお金が入ったカバンを抱いて微笑みあう、二人。
ぼくにはもう、目も向けず。
それはとても、幸せそうな。
「―――――・・・っ・・・!」
知っていたはずだ。
ぼくはこの光景を、一年前に視てていた。
変わらなかった。
変わらなかった、それだけだっ!
手放したくないと思って欲しかった。我儘は言わなかった手伝いもした勉強も。
それでも。
やっぱり、変わらなかった。
ただ、それだけ。
泣くな。
嘆くな。
弱音を、吐くな!
覚悟はきっと、できていた。
「・・・・・さよなら」
ぼくを生んで、けれど愛してはくれなかった人たち。
//9歳(もうすぐ10歳
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