安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で
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熱
2007年8月28日 00時10分
頭がぼおっとする。
「・・・りん。花梨。何をしてる?行くぞ」
男の声が酷く遠い。
今日の仕事はこれから警察に行って、ある刑事と密かに顔を合わせて、その人の未来を見ること。
ぼくは子供だし、一般人だから、警戒されずに会うのは簡単だ。
だから、これから出かける、のに。
体が上手く動かない。
「・・・・・・おい」
黒服が埒が明かないとぼくの腕を掴む。
強く引かれて、くらりと、視界が揺れ。
「ぁ・・・・・」
捕まれた腕はそのままに、膝を着いた。
はぁと、吐いた息が熱い。
辛うじて膝を着くに留めていた片腕が、支える力を失ってくたりと崩れた。
ぶらんと、捕まれた腕だけが無意味に上にある。
「・・・・・・りん、・・・した?」
「・・・・・す?・・・さん」
「・・・・ば、・・・・・・ずだ。お前、持て」
「はい」
すぐ上で交わされた会話が遠い。
聞き取れないままに力の入らない体が浮いて、砂袋か何かのように肩に担がれる。
逆らう気力も起きない。
視界が次々と流れて、やがて車に放り込まれた。
これは、熱だ。
覚えがある。
前のときは、母さんが、冷たい、桃を。
何も食べたくないと言ったら、缶詰を買ってきてくれて。
嬉しかったことを、覚えてる。
男の顔が、目に映る。
ぼくに顔を近付けて、耳元でゆっくり言葉を発音する。
「仕方がないから刑事の前には連れていってやる。未来は見れるんだろうな?」
ぼくは、薄く、笑う。
何を笑ったのかよくわからない。
帰らない過去を振り返った甘い自分か、こんな病人を運んでまで未来を知りたいと言う男か。
それとも、もしかしたら心のどこか片隅で、「休んでいい」と言ってくれるかもしれないと期待していた愚かな心かもしれない。
体は上手く動かない。
頭もぼおってしている。
会話も、遠い。
けれど。
「・・・・・・目、は、見えてる・・・」
だから、何も問題なんて、ない。
問題なんて、ない、のだ。
//12歳
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