安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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暖かいところに行きたい・・・
此処は寒くて、冷たくて。
暗い、場所。

それはまるで地の底のような。
それはまるで、太陽の光も届かない空の果てのような。
温度のない、ところ。

地から生えた鎖に繋がれたぼくは、逃げる術もなく。
そしてまた、逃げる場所もない。

開いているだけで何も見ていないぼくの視界に、この場所の「主」が、ぼんやりと映る。
彼は此処の支配者で。
ぼくは彼の道具。
やがて「主」が、何かを言った。
音が耳を滑る。
わからない。
今、なんて、言った?

もう一度、「主」は口を動かす。
声は聞こえているはずなのに、耳に脳に体に染み込んでいるはずなのに、何を言われているのかわからない。
聞き直そうにも喉は張りつき、唇は鉛のように重い。
ぼくの虚ろな反応に彼は笑う。
満足気に、見えた。
そしてぴくりとも動けないぼくの耳元に唇を寄せて、もう一度、何かを言った。

前の二回と同じ言葉。
それはわかるのに、何を言っているのかは全然わからなかった。
けれど識る。
体のなかの何かが、告げた。

それは決して消えない言葉。

「主」が、ぼくから離れる。
次の言葉は、ちゃんと認識できた。
認識できたからと言って、返事ができたわけではなかったけれど。

「――――――――・・・・・いい子だ、花梨」

麻痺していた色々なものが、溶けだしていく感覚。
真っ先に蘇るのは、恐怖と苦痛。

涙が一筋だけ、目から零れた。

「忘れるな。お前は何処へも逃げられない」

暖かいところに行きたい、と。
思った。

理性はいとも簡単に、自分の思考を嘲笑する。




そんなところ、お前には存在しないのに。










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