スキャンダル |
2007年9月6日 23時47分
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「一週間、こいつの未来を見続けろ」
いきなりそう言われ、テレビの画面を見せられた。
そこにはぼくでも知っている、有名映画スターが映っている。
「・・・・この人?」
「ああ。こいつの未来を見て、スキャンダルになりそうな場面を言え」
「スキャンダル・・・・?」
「ああ」
何それ。
一番最初に思ったのはそれだった。
今までで一番変な仕事だ。
同じ人物の未来を見続けるのは好きではないが、それほど見るのが恐い仕事ではなさそう、というのが正直なところ。
「・・・・映像だと、少しキツイよ」
「明日実物を見せてやる」
「・・・そう。わかった」
スキャンダル。
要は、愛人とか、借金とか、そういうものだろう。
一体何に使うのかと思わなくもないけど、聞かないほうがいいことはわかってる。
知らないほうが、いい。
知ってしまえば、視るのが嫌になる。
きっと、よくないことだ。
しかしそんなぼくの思考を見透かしたように、男は言葉を続ける。
「脅しの材料にするんだよ。「必ずわかる」なら、誘拐よりも手っ取り早いからな」
「・・・・聞いてない」
この男は。
ぼくの嫌がることをするのが得意だ。
なんでそんなに、と思うくらい、的確に。
こういうことを、する。
「・・・・・明日までは何もないってことだよね。出てってくれる?」
「これは失礼?じゃあな」
「・・・・・・・・・・・・・・」
ああ。
やはり、聞かなければ、よかった。
//16歳
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カーテンの向こう側 |
2007年9月5日 23時42分
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あのカーテンの向こう側に、「何か」、居る。
それはぼくを害する「何か」。
ぼくの望まない、「何か」。
何だろう。
何だろう。
恐くなって母さんの服を掴むと、母さんは訝しげにぼくを見下ろした。
「どうしたの?花梨」
「カーテンの・・・・」
「カーテン?ああ、気付いたの。大丈夫よ、花梨」
「何が居るの?」
見上げれば、母さんは笑う。
安心できるはずの笑みは、何故か恐怖を煽った。
ああまさか。
ああ、まさか。
「アレ」は今日なのか。
「母さん」
「どうしたの?花梨。今日はやけに落ち着かないのね」
「何が、居るの」
「父さんよ」
「父さんと、何」
母さんはさらりとぼくの髪を撫でる。
部屋の奥を仕切るカーテンが、窓からの風に煽られて微かに翻った。
母さんは、なんでもないことのように、言う。
「あなたの所有者になる人」
カーテンの向こう側に行ってしまえば。
もう、戻れない。
//9歳
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逃げられない、逃がさない |
2007年9月4日 22時17分
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ぼくは弱い。
だから、逃げられない。
アレは役に立つ。
だから、逃がさない。
「イツキ。「時計」をそのまま外に出す気か?」
あの賢しいガキと契約してから5ヵ月。
最初の1月は検査に費やした。両親の申告と予知の瞬間がばっちり映ったビデオでしか能力を確認していなかったから、実験と検査を繰り返し、能力値を測定した。
結果は予知確定率96%。
本物のバケモノだった。どうやら俺は運がいい。
この世は裏も表も、情報を制した者が勝つ。
未来の情報なんて、ほとんど金のなる木だ。
事実、この5ヵ月で、俺の地位は1つ上がった。
「いけないか?」
軽く笑って返す。
人を小馬鹿にした笑い顔は、もちろんわざとだ。
今日はこれから、買って初めてアレを外に出す。
「逃げたらどうする」
また、笑う。
今度は、はっきりとした嘲笑。
「逃がすと思ってんのか?」
この、俺が。
あんな役に立つ道具を、ミスして失くすと?
こいつに比べれば、あのガキの方が遥かに頭がいい。
アレは解ってる。
自分が此処から逃げられないこと。
賢いことが仇になる。
自分が弱く力のないことを知っている。
何が出来て、何が出来ないのか。
夢や希望や幻想の、御伽噺のようなバケモノの癖に、夢も希望も幻想もなく、現実的に何が出来て何が出来ないかを知っている。
だから、出来ないことは、やらない。
愚かで、やり易いことだ。
それとも未来がわかると、自然とそうなるのだろうか。
足掻かない。
挑まない。
そんなことをしたらどうなるか―――――わかるから。
本当に、愚かで、やり易い。
「・・・・花梨」
「なに」
「わかってるだろうが、一応言っとく」
「・・・・だから、なに」
腕を掴んで引き上げれば、軽い身体は簡単に持ち上がった。
「逃げようと思っても、無駄だ」
腕一本で体重を支える羽目になったガキは辛そうに顔を歪め、それでもじっとこちらを見返す。
「・・・・・・・知ってる」
ああ、これだから。
コレは愚かで賢しいガキだが、中々、愉しい。
「だろうな。それでいい。――――行くぞ」
俺はコレを使って、裏の世界をのし上がる。
//10歳
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帰る家 |
2007年9月3日 23時14分
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「もーいーかい」
「まーだだよー」
夕日が街を赤く染める時間、小さな公園。
住宅街の真ん中に位置するその公園には、子供たちの遊び声が響いていた。
しかし楽しい遊び時間はそろそろ終る時間で、一人、また一人と子供の数は減っている。
「花梨」
遊んでいた中の一人、少女が声に顔を上げる。
6歳程度の少女は、振り返って屈託なく笑った。
少女の名前を呼んだ女性は、走り寄った少女に手を伸ばす。
その手を繋いで、少女ははにかむ様にまた頬を緩めた。
「さ、帰りましょう。花梨」
女性は柔らかく笑い、そして――――・・・
「・・・・何時まで寝てる気だ、花梨」
目を開ける。
間近に映った男の顔に、眉を寄せた。
「別に、寝てないよ」
「何だ・・・長いこと目閉じて呆けてるから立ったまま寝てるのかと思ったぜ」
「ぼくはそんなに器用じゃないよ」
「ふん。何を呆けてたんだ?」
「・・・・・別に?」
「ふーん」
何処の国でも、子供の遊ぶ時間はそう変わらない。
夕暮れ時、サッカーをしていた少年たちが次々と仲間に手を振って離れていく。
「此処で待て」と言われてぼうっと立っていたら、そんな光景が見えて。
何となく、遠い昔のことを思い出した。
ただ、それだけ。
「もういい?」
「ああ。行くぞ」
「・・・・・はい」
もう帰れない。
あの頃は、幻想や夢の中にしかない。
帰る家、も。
帰れる家も。
何処にも、ない。
基本的に、この男と仕事に関係ない会話はしない。
ぼくにも彼にも、する気がない。
もう仕事は終ってぼくは部屋に「仕舞われる」だけだから、移動中に会話をする必要はなかった。
石畳を走る、子供の足音と高い笑い声が耳に入る。
「何時まで遊んでるの」と、そんな声まで聞こえて、少し微笑んだ。
微笑んだのを自覚して、ああ、と、思う。
ああ、ぼくは。
いつか、あれを、もう一度。
望んでいる。
今度は伸ばす側でいいから。
今度は伸ばす側が、いいけど。
いつか、また。
ぼくが仕事を続けて契約が成って、自由になってから。
そんな、いつかの未来に。
「帰ろう」と、手を繋いで。
「家」に、帰れれば、いいのに。
//18歳
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あなたの誇りはなんですか |
2007年9月2日 18時13分
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「貴様らに話すことなどない」
手錠と鎖で戒められ、拷問を受けて尚、そう言う人を見た。
FBIの、マフィア捜査官。
潜入捜査をしていたこの人を、「視た」のは、ぼくだった。
一般構成員は立入禁止の部屋に連れていかれて、未来を視た。
誰かが来たのが視えてしまった時には、戦慄した。
告げれば。
・・・・・・こうなることは、わかっていた。
よほど手酷く痛め付けられたのか、手当てもされず血を流す姿に、顔を歪める。
勝手に体が震えて、思わず強く両腕を掴んだ。
ごめんなさい――――。
そう言いたくなったけど、言う権利はきっとぼくにはない。
場違いなぼくに、その人は若干顔色を変える。
「・・・なんだ、この子は。まさかこんな子供に危害を加えるつもりじゃないだろうな!?」
びくり、と。
申し訳なさに、体が震えた。
ぼくは。
ぼくは、あなたに、心配してもらう資格なんて、ないのに。
時期ボスと目されている男が、ぼくの後ろでせせら笑う。
ぼくの肩に手を置いて、にやりと、楽しげに笑った。
それをどう勘違いしたのか、FBIの男の人は更に叫ぶ。
ああ、叫ぶのも、体力を削るだろうに。
ぼくのために、その人は叫ぶ。
「貴様らに誇りはないのか!?」
この人は、とても、誇り高き、人。
「・・・・・勘違いすんなよ、馬鹿が。これに危害なんて加えたらどんだけの損害だと思ってる?」
嘲笑したまま、男は言う。
そして、ぼくの名を、呼んだ。
「花梨。コイツに未来を教えてやれ」
訝しげにぼくを見る、誇り高い優しい人。
ぼくは目の前に居乍ら彼と目を合わせられずに、俯いて目を閉じた。
そして視て、絶句、する。
言葉を失ったぼくを見て、後ろの男が楽しげに、笑った。
「どうした?花梨。早くしろ」
よろりと一歩後ろに下がって、茫然と、首を振る。
駄目だ。
言ったら、告げたら、この人は。
脚を引いた体はすぐに後ろの男にぶつかって、男は平然と、また厳然と、ぼくに言葉を投げる。
「仕事だ。言え」
ぼくは。
口を、開く。
「・・・・・・・・・あなた、は・・・・・・」
この人は、こんなに、いい人、なのに。
ぼくは。
ぼくは―――――・・・・・。
「・・・ぼくを殺そうとして、この、人に、撃たれる」
この人から誇りさえも奪って、死なせてしまう。
どんなに辛いだろう。
この優しい人が、守るべき子供(ぼく)を殺そうと決意するのは。
どんなに、辛いだろう。
この誇り高き人が、自ら誇りを汚すのは。
「・・・何、を」
「おっと、馬鹿にしない方がいいぜ?コイツがウチの「最高機密」だ。予知能力は便利でな」
「・・・・!まさか、この、子供が貴様らの・・・?」
「ああ。しかし、意外と平凡だな。言い淀むからもっと面白い末路を期待したのに」
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
許して、なんて。
言えるわけが、ない。
ぼくの、誇りは。
ずっと前に、粉々に壊して捨ててしまった。
今、ばくが誇ることができる信念なんて、ひとカケラすらも、存在しない。
ごめんなさい。
それでも。
それでもぼくは、生きたいのです。
//15歳
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