傾いた塔 |
2007年9月11日 02時44分
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ぐらりと。
ぼくの中で、高い塔が音を立てて傾いた。
心が、急速に沈んでいく。
糸が切れた人形のように、その場に崩折れた。
思考が真っ白に染まる。
もう、いい。
そう、思った。
もう、いい。
ぼくは今まできっと、それなりに、頑張った。
どんなに苦しくても、哀しくても、申し訳なくても、泣きたくても。
たくさんの人を犠牲にして、幾つも罪を犯しても。
それでも、生きた。
それは誰のためでもない、ただ自分のためだった。
ぼくは、生きたかった。
生きたかった。
生きて、いたかった。
そしていつか、いつか。
そんな資格はないかもしれないけど、幸せに、なりたかった。
でも、もう、いい。
倒れないように必死に支えてきた塔は、もうボロボロだ。
もう保たない。
今度ばかりは、もう、駄目だ。
傾いた塔は、そのままぼくという人格を支える柱。
もう後は、倒れて崩れるのを待つばかり。
願いを持ったのがいけなかったのか。
自由を望んだのがいけなかったのか。
命を捨てられなかったのがいけなかったのか。
生まれてきたのがいけなかったのか。
多分ぼくは、存在してはいけなかった。
どうして生まれてきてしまったのだろう。
神様は、どうしてぼくのようなモノを作ったのだろう。
どうしてぼくは、もっと早く、諦められなかったのだろう。
頑張らなくて、よかったのに。
頑張らなければ、よかったのに。
涙が一筋頬を伝って、床に小さな染みを描いた。
//22歳?(21歳以降)
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正論を振りかざす |
2007年9月10日 01時43分
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「親は子供を育てる義務がある!」
ぼくの目の前で、会話は行われた。
それはぼくとはまったく関係ない、ただ別の人と別の人の会話。
子供を捨てようとしている人と、それを止めようとしている人の。
「俺が生んだわけじゃない!」
「生まれてきた子に罪はないだろう!」
「本当に俺の子かどうかも怪しいんだぞ!?」
「子供は親に、愛される権利があるんだ!」
言い合いは続く。
子供を捨てるなんて、最低の人間のすることだ。
―――――では、子供を売るのは?
考え直せ、この子は何も悪くない。
―――――では、悪い異能の子は、いいの。
一方は完全な言い逃れで、一方は世間一般的にとても正しい。
けれどぼくは、その正しい人の言葉にいちいち傷ついた。
「可哀想だと思わないのか、その子が!」
あなたはぼくを、可哀想だと思うの。
なら、あなたは。
ならあなたは、ぼくに何かをしてくれるの?
台詞の一つ一つを聞く度に、心が冷える。
ああ、ぼくは。
何故だかとても、哀しかった。
//12歳
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答えを出して |
2007年9月9日 15時36分
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「ねぇ、なら、教えて頂戴」
その人は。
ぼくが異能を打ち明けると、妖艶に笑ってそう言った。
「私はあと、何年生きられるのかしら」
普段と変わらない口調で、普段と変わらない笑顔で。
何でもないことのように、「死」を、口にした。
「・・・・・・どうして・・・」
「知りたいから聞いただけよ。他に理由が要るのかしら」
「だって」
だって、普通、人はそんなことは考えない。
考えないようにして、生きてる。
「余命約1から5年、なんですって」
言われたことが、一瞬理解できなかった。
この、強く、美しい人が?
死ぬ?
「でも、1から5年なんて、はっきりしないと思わない?どうせならはっきり知りたいのよ、私」
「余命何年」と言う言葉が、なんて似合わない人だろう。
・・・・・・殺しても、死なないタイプの人なのだ。
なのに。
「本当に?」
「聞いてるのは私よ?さぁ、答えを出して」
あなたは答えを見れるのでしょう?
そう続けられて、困惑に瞳が揺れた。
確かに。
確かに、ぼくは、答えを出せる。
だけど、それは。
教えるべきではないのでは、ないか?
教えてしまったら、それは認識によって不変になる。
選択が、絞られる。
「・・・・嫌」
「あら、残念だわ。折角いい人生設計ができると思ったのに」
「ぼくは、あなたに死んで欲しくないから」
「でも、6年は生きられないそうよ?医者によれば、だけれど」
「わからないよ。医者だって間違える」
「そうね」
存在が美しい人。
生きている光を持っている人。
この人が死ぬなんて、ぼくには思えない。
きっと。
「病魔の方が逃げてくかもしれないしね」
「・・・・あなたの中の私ってどんな人間なのかしら・・・?」
「えっと・・・・最強?」
「お褒めの言葉有難う」
「どういたしまして」
この先まだ、無限の選択が待っているから。
未来は、きっと変わる。
だからぼくは、答えを出さない。
//21歳
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突き刺さる言葉 |
2007年9月8日 16時02分
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ぼくは断罪を受ける。
「お前がっ・・・!お前が“狂った時計”か!」
ぼくと同い年くらいだろうか。
少女はぼくを真っすぐに睨み付けて、悲痛に叫ぶ。
「お前があんな予知をするから、兄貴は―――――・・・・・!!」
この建物に銃器は持ち込めない。
持って入れるのは、ファミリーの幹部だけ。
この建物、だけは。
例外がない限り、銃を抜いてはいけない。
だから、だろうか。
少女が取り出したのは、鈍く光る銀色の。
「お前の所為で、兄貴は死んだんだっ!」
突き刺さる、言葉。
今までどれだけの未来を狂わせてきたのだろう。
今までどれだけ、誰かを不幸にしてきたのだろう。
今まで、どれだけ。
命を奪ってきたのだろう。
ぼくが視なければ。
ぼくが告げなければ。
ぼくが。
「兄貴が死んでお前が生きているなんて、オレは絶対認めないっ!」
ぼくが、いなければ。
少女はナイフを振り上げる。
振り下ろす先は正確に、ぼくの左胸。
―――――視えたのは、床に溢れる赤い、血。
けれど刄がぼくに届く、直前に。
ぱんっ、と、まるで出来の悪い玩具のような、軽い音が、した。
崩れ落ちる少女の瞳から、涙が零れ落ち。
ついさっき視た赤い床が、目の前に、出来た。
今まで少女が立っていた位置を緩慢に見れば、そこには、銃を構えた男の姿が見える。
ああ、彼は、幹部、だから。
・・・・・だから?
思考が上手く働かない。
立ち上る硝煙の匂いと広がる鉄錆の匂い。
動かなくなった少女と、近寄る靴音。
握られたままの、ナイフ。
酷く、唐突に。
今何が起きたのかを、脳が理解した。
「――――――――っ!!」
叫んだのは確かにぼくだった筈なのに、何故か、声は声にならなかった。
込み上げる吐き気。
気持ち悪い血の匂い。
動かない、動かない、人の形の、肉塊。
光の宿らない瞳は、未だぼくを真っすぐに睨み付けて。
「っ・・・、う・・・ぁ・・ぁ・・・・、あ・・・・・!っ、いやあぁあああ――――――っ!!」
もう、何を嘆けばいいのか、よくわからなかった。
『お前の所為で―――――』
脳裏に蘇るのは、そんな声。
ボクノセイデ、タクサンノヒトガシンダノニ。
どうしてぼくは、生きているのだろう。
どうしてぼくは。
それでも生きたいと、浅ましくも思ってしまうのだろう。
//17歳
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あとの祭り |
2007年9月7日 03時29分
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気付いた時には、大抵が。
もう、遅い。
未来は選択によって変化する。
すぐ先の未来ほど変わり難く、時間が開く未来ほど変わり易い。
それはその未来が来るまでに、幾つの選択が可能かで変わるのだ。
選択は無限にある。
一歩踏み出すか、踏み出さないか。
目を開けているか、閉じるか。
たったそれだけの選択でも、未来は時に変わる。
もちろん変わらない時もある。
そう。変わって欲しい未来ほど、何をどうしても、変わらないのだけど。
「――――――――・・・・」
ああ。
どうして。
どうして、こんなことに。
「・・・・、・・・・・・・・、・・・・・・」
声が、出ない。
立っていられなくなって、その場にへたりこむ。
絶望に心が塗り潰されて、ただ涙だけが、頬を伝った。
ぼくは選択を間違えた。
知っているのに。
わかっているのに。
先がどうなるか、理解していたはずなのに。
どこで変わってしまったのだろう。
どこで、間違えて、しまったのだろう。
どこで。
こんな未来に、してしまったのだろう。
「・・・っ・・・・・・・・」
ああ。
ああ、もう、誰か。
誰かもう、ぼくを、殺して。
//22歳?(21歳以降)
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