安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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無限増殖
「ああ、また増えた――――・・・」

ひらりと、白い紙が舞った。

堪り兼ねて、だんっと両手を机に叩きつける。
衝撃で、また2・3枚紙が舞った。

「何で、やってもやってもやっても減らないの!?それどころか増えるの!?」

心の底からの、叫びだった。

隣で若干いつもの精彩を欠いた高埜さんが小さく息を吐く。
彼女の手の中にも、やはり白い紙の束があった。
苛立ちを感じているのは同じだろうに、ぼくのように叫ばずぽつりと零す。

「・・・・・・こんなことなら授業に出ればよかったわ」

ぼくたちが格闘している白い紙。
それはいっそ芸術的なまでにバラバラになっている、この古書喫茶の本の目録だった。
一枚一冊、著者発行年はもちろん、目次やあらすじまで完備。
もともと閉じ方が甘かったのか何なのか、本棚から取ろうとしたら散らばってしまったらしい。

「済みません、皆さん」

そう言って苦笑する青が、この惨状を作り出した張本人だ。
ぼくが来たときには店の床は紙で溢れ、足の踏み場もなかった。
今は紙は机の上にしかないから、片付いたと言えば片付いたんだろうけど。
見て並べて閉じるだけなのに、本当にやってもやっても終わらない。

此処ってこんなに本あったっけ?と、半ば自棄になりつつ思う。
何の偶然か、高埜さんと声が被った。

「「・・・・まさか勝手に増殖してるんじゃ」」

そこで台詞が同時だったことにお互い気付いて、思わず目を合わせて苦笑する。
「そんなわけないよね」と非現実的な台詞を誤魔化そうとした瞬間、青が言葉を挟んだ。


「いやだなぁ、不動さん。本や目録が勝手に増殖するわけないじゃないですかー」


その声音に、高埜さんとぼくの手が、止まった。

青はにこにこと笑っている。
ついさっきの不自然な声などなかったかのように、普段より2割増しくらいの笑顔だ。
自然すぎて、逆に不自然が浮き立つ。

「・・・・・・え・・・」
「・・・冗談、よね?」
「何がです?」

「無限増殖」。
何故か、そんな四文字の漢字が脳裏に翻った。









//21歳
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本領発揮!
視界が急にブレて、見える光景が変わる。
はっ、として、上を見上げた。

建設中のビルから伸びる鉄の腕に、ぶらさがる無数の鉄骨。
遥かな高みにある、褐色の、それ。

「―――――・・・・っ!」

「逃げろ」という警告だけでは、間に合わない。
上空でぷつりと聞こえない音がして、鉄骨を釣り下げていたワイヤーが切れた。

最初はぼくの右を歩く学生。

「止まって!一歩下がって!」

進行方向に割り込んでそう叫べば、学生は気押されて素直に一歩下がる。
それを見てぼくはすぐに次の人の方へ走ったから、学生は「何だよいきなり」、と悪態をつき、気を取り直して歩き出そうとする。
その瞬間。

最初の轟音が響く。

空から降ったそれは予知通りに「さっきまで学生が居た場所」、つまりは現在の学生の目と鼻の先に突き刺さり、土煙を上げた。
そしてその頃には、ぼくは三人目の手を強引に引いていた。
四人目は、乱暴に力一杯突き飛ばす。

轟音は最初のものからほとんど間を置かずに次々と響いているけれど、振り返る余裕はない。

大丈夫。
これだけすぐの未来なら、ぼくの予知はほとんど絶対だ。

走り回るぼくの髪を掠めてまた一つ鉄骨が刺さる。
刺さり方が甘かったのかそのまま傾いて、建設中のビルの柵に当たって止まった。
これが来たと言うことは、あと、一本!

空を見上げて立ちすくむ小さな女の子に手を伸ばして、なんとか抱えて地面を転がった。

刹那、最後の轟音。

土煙は未だ止まない。

何が起こったかわからず吃驚している女の子を立たせて埃を払って、怪我がないことを確認してほっと息を吐く。
土煙が収まれば、歩道は酷い有様で。
けれど誰も大怪我はしてなくて、ぼくは安心して微笑んだ。

野次馬に囲まれて動けなくなる前に、踵を返す。

「――――、―――・・・良かった」

きっと、本当は。
ぼくの力、予知は、こんな風に、人を助けるための力なんだろう。
どこかで道を間違えなければ、誰も不幸にすることなく、この力を使えていた。

この力で人が助けられるなら、幾らでも。
脳が焼き切れるまで、予知を使っても構わないのに。

上手くいかない。

ああでも、今日は、今だけは。

この力を誇っても、許されるかもしれない。










//20歳

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弱音を吐くな!
「・・・母さん」
「元気でね、花梨」
「・・・・・・うん」

慈愛に満ちた表情で、ハハは言った。
何も、罪悪感のカケラもない顔で、ぼくの手を離す。
チチは、そんなハハの肩を抱いた。

黒服に腕を強く引かれて、つい、ぼくは、振り向いた。
一縷の期待があった。
もしかしたら、追って。
手を伸ばして、くれるのでは、ないか。
もしかしたら。

――――・・・ぼくは、振り返っては、いけなかった。

見えたのは、伸ばされた手でも追い縋る両親でもなく。
ぼくよりも大事そうにお金が入ったカバンを抱いて微笑みあう、二人。
ぼくにはもう、目も向けず。
それはとても、幸せそうな。

「―――――・・・っ・・・!」

知っていたはずだ。
ぼくはこの光景を、一年前に視てていた。
変わらなかった。
変わらなかった、それだけだっ!
手放したくないと思って欲しかった。我儘は言わなかった手伝いもした勉強も。
それでも。
やっぱり、変わらなかった。
ただ、それだけ。

泣くな。
嘆くな。
弱音を、吐くな!

覚悟はきっと、できていた。

「・・・・・さよなら」

ぼくを生んで、けれど愛してはくれなかった人たち。









//9歳(もうすぐ10歳
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夏に降る雪
空から舞い落ちる白いもの。
そう言われたら何を連想するだろう。
雪?
でも今は夏だ。
それは雪ではなく。

「・・・・・・花・・・」

太い樹から舞い散る白い花弁が、絶え間なく降り注ぐ。
それが、空から降ってくるように見える。
ぼくは陶然と眺めていた白い花弁たちから目を離して、振り返って笑う。

「・・・・素敵な場所だね」

微笑めば、微笑みが帰ってくる。

ああ、それはなんて。


幸せな、光景だろう。


「―――――連れて来てくれて、ありがとう。「 」」


目を開ければ、それは黒く塗り潰されて消える、夢。

一瞬の黒の直後に、ぼくに与えられた部屋が映る。
マフィアの本部内に位置する、小さな、部屋。
扉には鍵、窓には格子。
隣には研究室、逆の隣には見張り。
施設内はそれなりに自由に歩ける。ただし、見張りつき。

ぽつりと、呟いた。

「・・・・・あれは、未来?」

本当に?
いつの?
何年後?
それとも。

「・・・・・ただの、夢?」

もうすぐ、ぼくが契約したあの男は、このマフィアのボスになる。
「ボス」に就任して約2年。裏切り者や反逆者を潰して、名実共に、正真正銘のボスに。
それはイコール、ぼくがこの部屋を出れるということ。
だから、可能では、ある。
可能ではある、未来なら。

期待しても、いいだろうか。

これからも生き続ければ、あんな日が、来るのだろうか。

何故か、涙が、一筋流れた。

ぼくは。

幸せを願って、いいの?

流れた涙は、たった一筋だけで、涙の跡だけ残して消えた。










//19歳
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頭がぼおっとする。

「・・・りん。花梨。何をしてる?行くぞ」

男の声が酷く遠い。
今日の仕事はこれから警察に行って、ある刑事と密かに顔を合わせて、その人の未来を見ること。
ぼくは子供だし、一般人だから、警戒されずに会うのは簡単だ。
だから、これから出かける、のに。

体が上手く動かない。

「・・・・・・おい」

黒服が埒が明かないとぼくの腕を掴む。
強く引かれて、くらりと、視界が揺れ。

「ぁ・・・・・」

捕まれた腕はそのままに、膝を着いた。

はぁと、吐いた息が熱い。

辛うじて膝を着くに留めていた片腕が、支える力を失ってくたりと崩れた。
ぶらんと、捕まれた腕だけが無意味に上にある。

「・・・・・・りん、・・・した?」
「・・・・・す?・・・さん」
「・・・・ば、・・・・・・ずだ。お前、持て」
「はい」

すぐ上で交わされた会話が遠い。
聞き取れないままに力の入らない体が浮いて、砂袋か何かのように肩に担がれる。
逆らう気力も起きない。
視界が次々と流れて、やがて車に放り込まれた。

これは、熱だ。

覚えがある。
前のときは、母さんが、冷たい、桃を。
何も食べたくないと言ったら、缶詰を買ってきてくれて。
嬉しかったことを、覚えてる。

男の顔が、目に映る。
ぼくに顔を近付けて、耳元でゆっくり言葉を発音する。

「仕方がないから刑事の前には連れていってやる。未来は見れるんだろうな?」

ぼくは、薄く、笑う。

何を笑ったのかよくわからない。
帰らない過去を振り返った甘い自分か、こんな病人を運んでまで未来を知りたいと言う男か。
それとも、もしかしたら心のどこか片隅で、「休んでいい」と言ってくれるかもしれないと期待していた愚かな心かもしれない。

体は上手く動かない。
頭もぼおってしている。
会話も、遠い。
けれど。

「・・・・・・目、は、見えてる・・・」

だから、何も問題なんて、ない。


問題なんて、ない、のだ。









//12歳
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