世の中の少数派 |
2007年9月26日 01時37分
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ぼくの部屋にはテレビがない。
必要性を感じなかったから、買わなかった。
きっと家にテレビがないというのは、世の中の少数派なんだろうと思う。
少なくとも、日本で。
どれだけの人が、テレビを見ずに生活しているのか。
あの建物から出れなかった頃は、ぼくに余計な情報を与えないことが目的で部屋にテレビがなかった。
最初は少し淋しかったけれど、やがて嫌でも慣れて。
そして今は、もう要らない。
天気なら視ればわかるし、自分の危険も力が教えてくれるからニュースも要らない。
ドラマやバラエティは、暇潰しに過ぎない。
見ていても、ただ、それだけで。
誰かと、テレビの話で盛り上がるわけでもない。
自分独りが、楽しんでも。
余計に、寂しさが募る。
それなら、知らないほうがいい。
後ろ向きな考えだと、少し苦笑したけど。
紛れもない、事実。
ぼくは自由を手に入れたけど。
これは果たしてたくさんの人を犠牲にしてまで得るものだったのかと、思う。
ぼくは。
「・・・一体、何してるんだろう」
一体何が、欲しかった?
//21歳
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恥じ入る心 |
2007年9月25日 21時30分
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「何時如何なる時も、己を恥じ入る心を忘れてはならない」
「はい、先生」
正座をした幼いぼくが、正面の人を見上げて答える。
その時ぼくは心の底から本当に、その人を尊敬していた。
否。今だって、ぼくはあの人を尊敬している。
けど。
「アイツが何処へ逃げるか視とけ」
「・・・・三つ目の路地を、右。小さな木の扉を開ける」
ぼくの言葉を受けて部下に指示を出す男。
これで逃げた「制裁者」を確保できれば、また彼の功績となる。
力があれば、上へは上がれる。
真実弱肉強食の、裏の世界。
心の奥で「逃げて」と思うぼくが居る。
けれどぼくは先ほど彼の行き先を告げ、捕まえる手助けをしている。
なんという矛盾。
恥も外聞もない、ただ、自分の安全と自由のための、告げ口。
唾棄すべき、行為。
これをぼくは、ずっと続けてきた。
代償と呼ぶには多すぎる、大きすぎる罪は幾つも重なり、きっともう清算も償いも間に合わない。
「己を恥じ入る心を、忘れてはならない。そうすれば、最低限、自分だけは裏切ることなく生きていける」
書道の先生だった。
両親はぼくに甘く、大抵はぼくのお願いを聞いてくれて。
習いたいと行ったら、お稽古に通わせてくれた。
厳粛な、人だった。
幼いぼくの頭では全てを理解できなかったけど、その潔さは感じられた。
ぼくは、真っ直ぐな、高潔な先生の生き方が好きだった。
けど。
きっと今のぼくを見たら、先生は目を背けるだろう。
それとも。
今の、ぼくを見て。
恥を知れと言って、怒ってくれるだろうか。
見せることはできない。
先生に失望されたくないし、ぼくはぼくの罪を打ち明けられるほど強くない。
それにまだ、見せる自由もない。
携帯で部下からの報告を受け取った男が、またぼくを見る。
「隠れているみたいだな。どこに居る?」
一秒先の、未来を視る。
一秒ではそれほど動くはずがないから、隠れている場所も、視える。
ぼくは、それが彼に何をもたらすか知りながら、告げる。
「―――――カウンターの裏に」
自分を、恥じ入る、ことを。
覚えているのなら、きっと、こんなことはできない。
これはとても、恥ずべき行為。
//18歳
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そりゃまたベタな展開で |
2007年9月24日 00時57分
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「・・・・。・・・遅刻しそうでパン食べながら歩いてたら曲がり角で男の子と打つかって、ちょっとカッコよくて惹かれたら実は転校生で隣の席だった?」
事実は小説より奇なり、とか。
人生何が起こるかわからない、とか、よく言うけど。
・・・・そのベタな展開は何。
「それ、いつの少女マンガ?」
「作り話ではない。実際にあった話・・・だそうだ」
「・・・・・そりゃまたベタな展開で・・・」
此処古書喫茶の常連である「魔法使い」の東雲さん。
昼間はとある店で占いのようなことをしているそうで、その占いに来た女の子がそう言ったらしい。
目を輝かせながら語る人を思い浮かべようとして、失敗した。
ぼくには無理だ。
「おぬし、有り得ると思うか?」
「・・・あんまり」
「だろうな。わたしもだ」
「あ、やっぱり」
大体「遅刻しそうで」、ってことは学校に向かって歩いてたわけだから、前から来た人が転校生、っていう確率はかなり低いと思う。
どこからどこへ行こうとしてたの、その人。
「・・・それで、どうしてそんな話を?」
「その馬鹿娘の未来を視てくれないかと思ってな」
「・・・・・・・・は?」
「そしてそれを占い結果として伝える!どうだ、妙案だろう!」
「東雲さん、それ詐欺って言うんですよ。もしくは騙り」
予知のことがばれたのはぼくの不注意だった。
本棚が倒れる画が視えて、青の手を引いて足をとめさせた。
それならそれで普通は終わりのはずだったのに、何故か青は笑って問うた。
「不動さん、未来がわかるんですか?」
・・・・覚りの妖怪か?
一瞬そう思い、つい頷いてしまって。
その時店にいた客たちも耳に入ってしまって。
奇異の目を向けられるとか、嘘だと決め付けられるとか、色々過ぎってどうしようと思ったのだけど、何故かあっさりと「へぇ」みたいな感じで受け入れられてしまった。
この店は、客も主も従業員も、何処か不思議だ。
そこで東雲さんの携帯電話が鳴って、東雲さんはメールを開き。
「あ」
「・・・・どうかしました?」
「今度はその“運命の転校生”が実は双子で、三角関係になったって」
・・・・・・・・・・・・・・。
凄い人も居るものだ
「何か視なくてもわかりそうな気がしてきますね」
「うん、次はきっと男同士の争いに割って入って「私の為に争うのはやめて!」かな」
此処まで王道を突っ走る存在は、逆にレアかもしれない。
//21歳
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季節の節目 |
2007年9月23日 23時27分
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「あ・・・」
黄色い実がついた樹を見つけて、つい立ち止まる。
立ち止まれば歩いてたときは気付かなかった甘い香りが薫って、もうそんな時期かと時を想った。
秋を告げる日。
ぼくは花梨の実がなる頃、秋分の日に生を受けた。
つまり、今日は。
ぼくの、誕生日。
・・・・最後に祝ってもらったのは、何時のことだっただろうか。
自分の名前がその実と同じだけあって、ぼくは花梨の実が結構好きだ。
すべすべした、黄色い実。
そのままでは食べられないけど、甘い香りは持っていて。
栄養価は高い、果実。
昔は、必ず。
誕生日の頃には、母が花梨の砂糖漬けを作っていた。
懐かしい記憶。
遠い、記憶。
もう決して戻れない、過去。
最後になった10歳の誕生日にも、変わらずそれは出されて。
その時には売られる未来を視ていたぼくは幼心に「まだだ」とほっとしたけれど、結局売られたのは誕生日を2週間程過ぎた頃だった。
本当に、前日まで。
否。ぼくを売る瞬間ですら、いつも通りだった両親。
つい物思いに沈んでしまって、苦笑する。
ぼくは両親を恨んでいるのだろうか。
よく、わからない。
ああ、でも、そういえば。
あの日の三日後に小学校で遠足があって、ぼくはそれが楽しみで。
売られた後でそれに気付いて、行きたかったなとぼんやり思ったことを覚えてる。
行き先は、確か。
「・・・・・プラネタリウム、だった」
ああ。
行きたいな。
不意に、思う。
星はよく見上げるけれど、それとはまた、別に。
作られた夜空だけど、数え切れないほどの星を見上げるのは、きっと楽しい。
「遠足」は、もう、無理だけど。
今は、誰も、誘える人も、いないけれど。
いつか、誰かと、一緒に。
「・・・・行きたいな」
そしてぼくはその場を後にして、スーパーを渡り歩いて。
何軒目かで花梨を一つ、購入した。
//20歳
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ときめき |
2007年9月22日 23時36分
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甘く暖かい感覚が、身体に浸み込んで行く。
それは雪のように柔らかく降り積もって、雪とは違い触れても消えない。
あの人の名前を呼ぶ度に。
あの人の姿を見る度に。
あの人の声を、聞く度に。
それはどこからか生まれて、確かに降り注ぐ。
どうしてそんなにも、ぼくに優しいのだろう。
どうしていつも、ぼくの望みを叶えてくれるのだろう。
ぼくだけに優しいなんて、馬鹿な自惚れはないけれど。
優しくされる資格なんてないぼくにも、彼は優しい。
ぼくが予知によって突然現れても、気味の悪い顔一つせず笑ってくれる。
ぼくの所為で嫌な目にあっても、ぼくとまた会ってくれる。
ぼくを。
友達と、言ってくれる。
それは感動に似た、小さな胸の震え。
―――――ぼくは、あなたが、とても、好きです。
//21歳
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