安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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大きな南瓜
かぼちゃと蝙蝠が、住宅街に溢れていた。
見知らぬ人の家の玄関先の大きなかぼちゃと目が合ったような気がして、ちょっと笑う。
日本でも見たことがある、コミカルな顔のかぼちゃ。蝙蝠も、実物より簡単なシルエット。
駆けていく子供たちは、見事に仮装中。
これは日本では見られなかった光景。初めて見るそれに、ぼくは目を瞬いた。

ハロウィン。

言葉だけが、頭に浮かんだ。
風のって聞こえて来たのは、子供たちの楽しそうな声。

こんな長閑な、普通の住宅街に、何の用があるのだろう――――・・・。

そんなことを思って、隣をちらりと見上げた。
ぼくが外に出る用事なんて、「仕事」しか有り得ない。わかっているけど、どうしてこんな所に連れて来られたのかが謎だった。
ぼくの視線に気付いても、男はぼくを見もしない。
ぼくも出来ればこの人と話はしたくないので、口は開かなかった。
どうせ。
嫌でも、いずれ、わかる。

近くの家から出てきた、ぼくと同じくらいの年恰好の子供たちが、ぼくたちの隣を通り過ぎていく。
大半は見知らぬ「オトナ」とぼくをちょっと見るくらいで無視して通りすぎたけど、一人。
一人だけ、ぼくより年下の、小さな女の子が、男を見上げて無邪気に笑った。
舌っ足らずに、覚えたてなのだろう、少し得意げに、言葉を紡ぐ。

「とりっく、おあ、とりーと!」

その瞬間視えた光景に、いけないと、身体が動いた。

「っ・・・・だめっ・・・!」

女の子を突き飛ばして、今まで女の子が居た位置に滑り込む。
一瞬後に襲うのは、衝撃と――――そして、鈍く重い、痛み。
軽く身体が浮いて、どさりと石畳の地面に落ちた。
「視ていた」から、蹴られたのだと、わかる。
そうでなければ、一体何が襲ったのか、きっとわからなかった。
女の子が泣き出す声と、男の舌打ちが、同時に耳に届く。
男が、ぼくに近寄って。
ぐいと、無造作に横たわったぼくの髪を掴んで顔を上げさせた。
見えた顔は、明らかに、不機嫌。

痛い。

そして。


「何をしてる?」


――――――――――怖い。


「俺が許可したこと以外するな。命令だけを実行しろ――――何度教えればわかる?」

びくりと、無意識に、身体が揺れた。
視界が二分され、男の顔を見ているのと同時に、未来を視る。
意識してのことではない。勝手に視える、予知。
少し先に起こる、ぼくの、危機。
本能のように、勝手に、予知が教えてくれる。
ぼくの意思とは、無関係に。
ぎゅっと目を瞑っても、予知の画は消えない。
要らない。
視たくない。
知りたく、ない。

――――――――どうやっても避けることができない、危険、なんて。


「―――――・・・立て」

髪が手放されて、男が立ち上がる。
震える身体を叱咤して、何とか言われた通りに立ち上がった。
泣いていた女の子は、何時の間にか誰かに連れられて行ったようで、視界の端に映るだけ。
よかったと、思う。
―――――よかったと、思えて、よかった。

「仕事が先だ」

怒って、居るのだろう。
わざわざそんなことを言うのは、ぼくに対してではなく、自分に対しての。
「教育」よりも、「仕事」が、先。
先なだけで、後のものがなくなるわけではない。
未来は、変わらない。
「仕事」の未来(さき)の、「危険」。
あの建物に戻ったら、ぼくは。
強制的に、「危険」と、出会う。

ぼくは道具。
壊してはいけないけれど。


壊れなければ、それで、いい。


男はもう何も言わずに、元の速度で歩き出す。
痛む身体や怯える心を押さえつけて、ぼくも後に続いた。
あんなに聞こえていた楽しそうな声は、もう聞こえない。
遠い、日常。


最初から最後まで、逃げもせず全てを見ていたのは。
ただ一つ、玄関先の大きなかぼちゃ、だけ。









//11歳
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友達甲斐のない
「ひーちゃん?」

目の前に居るものは、私をいつもそう呼ぶ。
とは言っても実際に「目の前に居る」と見えるわけではなく、ただ「居る」とわかるだけだが。
この男が、私にはよく解らない。

「・・・・いつも思うが、何故私を「ひーちゃん」と呼ぶ?」
「え、だって聖でしょ?「名前」」
「人間だった時の、な」
「だって今の名前長いんだもん。短くていいじゃん、「ひーちゃん」」
「お前は変な神だな」
「ほら俺若いから」
「そうか」

目隠しに覆われて見えない目。
私は少し、異端だ。
あまり好んで関わろうとするものはいない。
大方「何を考えているのかわからない」とでも思われているのだろう。
その私に好んで近寄ってくるこの男。
私よりよほど、「何を考えているのかわからない」。
私はただ、あの子が気に入ったから、気紛れに少し贈り物をしただけだ。

目隠しの中で目を閉じれば、あの子が見える。
私の目を持った、人間の子供。
心を傷つけながら、今日も言われるまま未来を告げる。
瞳をあげたのは別に繰り人形にしたかったからではないのだが、人間とは予想外の生を歩む。
可哀想に、と、思う。
しかし思うだけだ。
どうせ我らは見ているだけ。世界をあるがまま管理するだけ。
崩壊させるのも、守っていくのも、人間がすることだ。

「・・・・ひーちゃんってさ・・・友達甲斐ないよね」

ふいにそんなことを言われ、目隠しの中の目を開ける。
閉じても開けても、色彩は変わらず黒い。

「まだ居たのか」
「うわ酷いよそれ」

可笑しな単語を聞いた気がして、首を傾げた。

「・・・・・・・友達?」

なんだ、それは。

問いは言葉に出さなかったが、ちゃんと伝わったらしい。
また「酷いって」という声が返ってきて、軽く眉を寄せる。
目隠しの裏での仕草だから、相手には見えないが。

「いいじゃん、俺とひーちゃん、友達」
「馬鹿なことを」
「えー?駄目?」

駄目とか、いいとか、そいうい次元の問題ではない。

「神という存在に成り果てた私には、友も親も存在しない」

そもそも「情」というものがほとんど欠落している。
それはそちらだって同じだろう?

そう、問えば。

「まぁねぇ。でもほら、人間ってよく友達がどうとか言うじゃん。ひーちゃん人間好きだし、真似してみようかなぁって」

なんて、茶化した答えが返ってきた。

やはり私は、「これ」がよくわからない。









//カミサマ
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電話越しに聞いた声
「遊ぶ約束」をした。
日にちだけ決めて、詳しいことは電話で、と。
「友達」の家に、電話。

「・・・・、・・・・どうしよう」

情けないことに、さっきから番号を押しては電源ボタンを押す、その繰り返し。
緊張、してる。

ボスではない誰かに電話を掛けるということ事態、とても、久しぶりで。
最初は何ていうんだっけと間抜けにも本気で考えて、「もしもし」という四字を思い出すまで数十分掛かってしまった。
決めた日付は明日。
今日のうちに電話しなくては、約束が流れてしまう。
そして連絡するのにあまり遅い時間では失礼で。
では何時が丁度いい?
わからない。
今は忙しくない時間だろうか。何かの邪魔はしないだろうか。
ああ駄目だ、本当に、わけがわからないほど緊張してる。
思考が、変。

この連絡を取るためだけに、新しく契約してきた携帯電話。
仕事用のとは違う、ぼく用の。
逆探知の心配も、盗聴の心配もない。
部屋は完全に安心できないから、場所も変えた。
大きく深く、深呼吸。

もう何度目か、ようやく、番号の後に通話ボタンを押した。

誰が出るだろうと、思う。
お家の人だったら、どうしよう。
ぼくはちゃんと喋れるだろうか。
何か失礼なこと、うっかり言ったりしないだろうか。

『――――はい、・・・・です』

思考が脳を上滑りして、よく聞こえなかった。
何度も番号は確認したので、焦りつつも間違っていないはずだとそんなことを思う。
大丈夫、大丈夫と、もう一度こっそり深呼吸をし直した。

「えっと、ぼ・・・わたくし、不動と申しますが、あのっ・・・」

落ち着け、ぼく。

なんとか友達の名前を告げ、取り次いでもらう。
ああやっぱり間違っていなかったと、ほっとした。

保留音の中、苦笑する。
ぼくは。
こんな当たり前のことすら、できなくなっている。
10年は、やはり長かったのだと、思う。

『不動さん?換わりました』

保留音がぷつりと途切れて、聞きなれた声が聞こえて。
電話越しの声に、思わず微笑む。
ああ。
よかった、ちゃんと。
繋がった。

「・・・・うん、ぼく。電話、今の時間で大丈夫だった?明日のことだけど――――」

君の声は電話越しでも優しいねと。
つい言ってから、自分で言った言葉に少し照れた。









//21歳
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瘡蓋
心の傷も、身体の傷も。
いい意味でも悪い意味でも、何も変わらない。

身体の傷は自分で癒す。
病院に行くことがあっても、結局のところ自己治癒力がものを言う。
瘡蓋が治りかけの合図で、やがて治る。
心の傷は他人が癒してくれる。
傷つけるのも他人なら、癒してくれるのも、他人。
瘡蓋のように目に見える合図はないけれど、ちゃんと、治る。
暖かい言葉や。
優しい笑顔。
柔らかい空気に、治してもらう。

どちらも、時間の経過とともに、やがて治る。
これは、いい意味での、「同じ」。

では、悪い意味での「同じ」はと言うと。

「――――『わたしはなにもしらない』」
「・・・・っ・私は、何も知らなっ・・・!?」
「『なんだ、このおんなは』」
「なんっ!?何故、俺の」
「『おれのいおうとしていることを』」
「・・・・・・・・・・・『ばけもの』」
「・・・・、・・・っ・・・・バケモノっ・・・!!」

未来を見ることは、使おうと思えば、色々な使い道がある。
例えば彼の一秒先を見て、唇を読むなんて、簡単なこと。
恐怖に満ちた顔も、ぼくから逃げようと押さえつけられている両腕を動かそうとする様も。
ぼくの目には、一秒早く視えている。
ある人は言ってくれた。
『凄いですね』と。
ぼくが予知をできると言ったら、微笑んで、そう。
生々しく血を滴らせていた心の傷は、それで少し、癒えて。

そして此処で、再び蹂躙される。

瘡蓋を無理やり剥がせば、傷は悪化する。
治りかけを、化膿させる。
それと、「同じ」。

癒されて治りかけた心の傷は、治る前よりも深く強く、抉られる。

優しい言葉を知ってしまえば。
ナイフのような言葉は、鋭さを増す。

「こ・・・このバケモノをどこかへやってくれ!」
「俺が知りたいことを聞いてからだ」
「話すっ!話すから、コレを!」
「話してからだ」

これが、悪い意味での、「同じ」。

身体の傷も、心の傷も。
治りかけは、脆い。

瘡蓋を剥がせば、覗くのは生々しい、赤い肉。









//21歳
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地図にも載っていない
日本には、「住宅地図」というものがある。
載せてもいいと許可をしたわけでもないのに、個人住宅の所在地が載っている地図。
年に一度は更新され、新しい住宅地図が発行される。
建物を建てる際に国へ届け出るそこから、情報は流れている。
だから事実上、住宅地図に載っていない建物は存在しない。

しかしそれは、「表向き」の、言い分。

法律なんて、やろうと思えば穴だらけだ。

「此処が日本での“本部”だ」

現に此処は、地図に載っていない。

どうやったかは知らない。
知りたいとも思わない。
しかし地図を見ても、この建物は存在しない。
住所もない。
手紙を出すときはさぞかし困ることだろう。

もちろん肉眼では見えるから、見掛けは普通のビジネスビル。
一歩足を踏み入れればそこは、マフィアの巣窟。
ぼくの目の前に居るこの男が「ボス」になってからファミリーには日本人が増えた。
だからか何なのか、一見して東洋系の人間が多い気がする。
構成員は大体黒いスーツ。
幹部に近い人間は、ダーク調の色合いの、個人仕立ての立派なスーツ。
どちらにせよスーツの男ばかりの、閉鎖的な社会。
此処では、何が起きても不思議じゃない。
そう。
密売も競りも殺人も、なんでもありだ。
此処は、一種の異世界。
「表」とは違う法のある、「裏」の世界。

「仕事の時は指定がなければ此処に来い。お前の指紋は入り口の指紋認証に登録してある」

ぼくは知っている。
それは、幹部と同じ扱い。
一般構成員は、中から開けてもらわなくては入れない。
刺さる視線は「特別扱い」への嫉妬からか、それとも野心からか。

つい、自嘲した。

ぼくはもう。
「この世界」から、抜けられることはない。

こんな「特権」、一度も欲しいなどと言ったことはないのに。

「―――喜べ。お前は全室フリーパスだ」

意訳すれば、定期的に、全ての部屋の未来を見ろと、そういうこと。
裏切りも工作も狙撃も、許す気はないと。
そういう、こと。

「・・・・・・・行けなくても、いいのに」

日本に作られた、地図にも載っていない「この世界」。
頭まで沈みきったぼくの身体はきっと真っ黒なのだろうと、そんなことを思った。









//21歳

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