安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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疑似家族
「お若いお父さんですね?」
「若造りなだけで、実際はそうでも」
「あら、そうなんですか。済みません失礼なことを」
「いえ、よく言われます」

おめかしした小学生の娘(ぼく)を連れ、パーティー会場の奥さま方と如才なくにこやかに会話を交わす男。
目的のためには手段を選ばない、冷たい目の。
ぼくの、今日の持ち主。
親子を演じて来いと、言われた、人。

「ほら、花梨。ご挨拶は?」

何も言う必要はない。
お前はただ、少し後ろに立っていればいい――――・・・。

それがこの会場に入る前の、男の言葉。

向かい合った瞳が告げる。
言った通りにしろと。
言葉よりも明確に、ぼくに命じる。
言われた通りに少し後ろに立ち位置を変えれば、ぽんと腕が降ってきた。
頭を、撫でられる。
背筋が凍って、恐怖と緊張で汗が背中を伝う。
この手は。

怖い、手。

振り払わなかったのはただ、そんな余裕もなかっただけ。

「済みません、ちょっと人見知りで。こら、花梨。駄目だろ?」

こわい。
こわいこわいこわいこわい。

この手は、昨日、ぼくに。
「教育」を施した、手。
演技で優しく撫でられて、作り物の笑顔を向けられて。
それでも、身体を支配するのは圧倒的な恐怖。

やめてはなしていやだ。

この手をっ・・・・!

「ゃ・・・・・・」

つい我慢できずに声を漏らしたぼくに、男は向き直る。
ぼくだけに見える瞳を冷ややかに、やはり声には出さず命令した。

――――――黙れ。

ぴたりと、声は喉の奥に張り付いた。

「親子で仲がいいんですね」と。
表面上は優しい「パパ」を演じる男に、笑顔を向ける人たち。
手近に「子供」が居なかったから、ただそれだけで連れて来られたぼくにも彼女たちは笑みを向ける。

「やっぱり家族は仲がいいのが一番ですわね」

ああ、誰も。

本当のことなど、欠片ほども見てはいない。









//10歳
コメント(0)トラックバック(0)10〜15歳
 


歓喜
歓喜に沸く。
煩いほどに溢れた歓声が、酷く耳障りだった。

「我らは「時計」を手に入れた!」

歓喜を煽る、隣の声。
これもやはり、耳障りで。
架せられた首と手足の鎖が、異様に冷たかった。
密度の濃い歓声と熱狂で温度の高い、部屋。
暑く感じても可笑しくないはずなのに、汗一つかかない。
感覚が麻痺しているのか、暑いは愚か暖かいとすら思わなかった。

シークレット・コードNo,00『狂った時計』。
それがぼくに付けられた道具としての呼び名。
あのファミリーでは、大抵『時計(クロック)』とだけ呼ぶ人が多かった。
そもそも呼ばない人、「アレ」で片付けられることが一番多かったけれど、次に多かったのはこれだった。
もしくは、SC00。第一級の組織機密。
ぼくの存在は、他の組織に知られてはならない。
「未来がわかる」という情報はいい。
それがぼくだと、知られてはいけない。
それはファミリーの不利益。
ぼくが狙われることは、好ましくない。

だからぼくが「時計」だということは、ファミリー外には流出禁止。
なのに今、ぼくが他のファミリーに捕まっているという、それは。

ウラギリモノが、居る。

そういう、こと。

ああきっと、戻ったらまた何か視させられて。
そして「粛清」が、行われる。
ぼくが、引き起こす、制裁。

いまだ覚めやらない熱烈な歓喜の中で、目を、閉じる。

視えるのは歓声を上げる人たちでは、なく。





浴びる様に降る銃弾の雨と、溜まる血の赤と、ゴミのような黒い塊。





あと、30分後。
歓喜は惨劇に変わる。
ぼくに付けられた発信機を辿って、「ボス」が、来る。









//20歳

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コメント(0)トラックバック(0)16〜20歳
 


それは秘密
告げることは助けを求めること。
教えることは、巻き込むこと。

だから、それは秘密。




薄暗い路地から大通りに出れば、人の波に行き当たる。
細い、奥まった「裏」の世界で何が起こっているかなんて考えもせずに、普通に過ごす「表」の人たち。
「仕事」が終ったことが実感できてほっと息を吐く。
そんなタイミングで声を掛けられて、どきりと心臓が跳ねた。

「・・・・不動さん?」

つい、さっき出てきた路地を伺う。
大丈夫、もう、誰もいない。
危害が加わる可能性はないはずだ。

跳ねる鼓動に言い聞かせる。
大丈夫。
大丈夫の、はずだ。

それは秘密。
これは秘密。
知られてはいけない、悟られてはいけない。

ぼくが何をしているか、なんて。



―――――・・・言えない。



ぼくは弱い。
ぼくは、醜い。
ぼくは、汚い。

巻き込みたくない、危険から遠ざけたい―――・・・・
誰かのためと、言いながら。

実際は、ただ、自分のためだ。





笑顔を浮かべようとして、少し失敗した。









//21歳
コメント(0)トラックバック(0)21歳以降
 


隠し事はしないで
拷問は面倒だから嫌いだ。
こんな要らないモノとっとと殺したいと、いつも思う。

暴力にも、未来を読まれる気持ち悪さにも屈しなかった男が、俺の前に座っている。
聞きたいことがある。
こいつが、隠していること。
花梨に少し先まで未来を視させても、わからないと首を振った。
これを聞き出せれば、また俺の地位は上がる。
逆に聞き出せなければ、折角築いた地位にも傷が付く。

面倒だが、聞き出さずに殺すことは論外だった。

「ある事」を調べさせていた部下が戻ってきて、成果を俺に耳打ちする。
満足できる成果に口の端を吊り上げて、花梨を持ってって確実に「それ」を連れて来いと更に指示する。
男はそれを見て、軽く訝しげな表情をした。
・・・とは言っても、散々痛みつけたため、青痣等で表情は見辛かったが。

「・・・もう一度聞くが」

口を開き、ついでに腹部に蹴りを入れる。
これ以上顔を傷つけて、口が利けなくなるのはお断りだった。

「話す気はないか?」

男はごほごほと咳き込んで、それからやはり無言を通す。
ああ面倒なと、舌打ちを零した。

花梨を連れて出ていったはずの部下が、指示を成功させ戻ってくる。
扉を潜ったのは、部下だけではなく。
目隠しと猿轡をされた、女と餓鬼。

その二人に男が目を見張り、身動きして両隣の部下に押さえつけられた。

さて、少しは効果があるらしい。
「それ」は、この男の妻と息子だった。

俺が片手を挙げれば、すぐに部下二人の銃口が女と餓鬼の頭に固定される。

押さえつけられた男が、「止めろ」と叫んだ。

俺も銃を取り出して、男の額に付ける。



「隠し事はしないで、素直に吐け。そうすれば――――」



かちりと、シリンダーが回った音がした。









「とりあえず、楽に死なせてやる」









お前も、女も餓鬼もな。









//樹閃月
コメント(0)トラックバック(0)その他
 


可愛い我侭
可愛い我侭を叶えるために。
ぼくは魔法使いになろうと思った。

まず欲しいのは、可愛いくまのぬいぐるみ。
お店を選んで立ち寄って、一つ手に入れる。
次に求められるのは、綺麗な花。
花束か鉢植えか迷って、鈴蘭に似た小さな鉢植えを購入した。
それから要るのは、きらきらのアクセサリー。
これは小さな宝石が光る、ネックレスにしてみた。
そして、最後は。
食べきれないくらいの、御馳走。

視ていた光景を切って、少し悩んだ。

これは難しい。
少しずつ慣れては来たけど、ぼくは料理があまり上手くなくて。
沢山の御馳走なんて、用意するのは難しい。
そもそも、前もって用意できるものじゃない。
湯気が立っているから、出来立てだから、料理は美味しい。

「我侭」を聞ける時間は、明日の17時20分過ぎ。
それまでに料理を作ってくれるように、お願いしておくしかない。

間に合わなかったら魔法使いにはなれず仕舞いだけど、そこは賭けだ。
とりあえず用意できるものだけ用意して、家に帰った。
何処に置いておこうかと、少し迷う。
結局彼女では手の届かない、上の方に一つずつ隠した。

そして視た通り翌日の5時過ぎに、ぼくは聞く。

「何が欲しい?」

彼女はぼくが視たときと、同じ答えを返した。

「あのね、あのね。くまさんがほしいの!」

笑って頷いて、くまのぬいぐるみを取ってきて手渡す。

「あとね、おはな!」

少しずつ歩いていたから、花の隠してある場所はすぐだった。
やっぱり手渡すと、彼女はぱちくりと目を瞬く。

「あとは?何かある?」
「えっとね、えっと・・・きらきらもほしい!」

これは小さいからポケットに入ったので、取り出して首に掛けた。

にこりと、笑う。
彼女はぱあっと嬉しそうに笑って、宝石よりもきらきらした目をぼくに向けた。

「すごい!どうして?」

ないしょ、と、悪戯っぽく笑う。

他にはある?と、また聞いて。
そして答えと同時に、襖を開けた。

「ごちそう、たくさん!」

そこには頼んだ料理がちゃんと並んでいて、内心ほっとする。
あとでちゃんとお礼を言わなくてはと、思った。

そして御馳走の並んだ部屋を見て、彼女はまた嬉しそうに歓声を上げて。

「すごいすごい!ありがとう、おかあさん!」

そう、言った。
どうやらぼくは、無事魔法使いになれたらしい。

きみが幸せなら、ぼくは幸せなんだよと、抱き締めて言った。

生まれてきてくれて、ありがとう。









//27歳?(無事結婚できて子供出来たら)
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