安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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電話越しに聞いた声
「遊ぶ約束」をした。
日にちだけ決めて、詳しいことは電話で、と。
「友達」の家に、電話。

「・・・・、・・・・どうしよう」

情けないことに、さっきから番号を押しては電源ボタンを押す、その繰り返し。
緊張、してる。

ボスではない誰かに電話を掛けるということ事態、とても、久しぶりで。
最初は何ていうんだっけと間抜けにも本気で考えて、「もしもし」という四字を思い出すまで数十分掛かってしまった。
決めた日付は明日。
今日のうちに電話しなくては、約束が流れてしまう。
そして連絡するのにあまり遅い時間では失礼で。
では何時が丁度いい?
わからない。
今は忙しくない時間だろうか。何かの邪魔はしないだろうか。
ああ駄目だ、本当に、わけがわからないほど緊張してる。
思考が、変。

この連絡を取るためだけに、新しく契約してきた携帯電話。
仕事用のとは違う、ぼく用の。
逆探知の心配も、盗聴の心配もない。
部屋は完全に安心できないから、場所も変えた。
大きく深く、深呼吸。

もう何度目か、ようやく、番号の後に通話ボタンを押した。

誰が出るだろうと、思う。
お家の人だったら、どうしよう。
ぼくはちゃんと喋れるだろうか。
何か失礼なこと、うっかり言ったりしないだろうか。

『――――はい、・・・・です』

思考が脳を上滑りして、よく聞こえなかった。
何度も番号は確認したので、焦りつつも間違っていないはずだとそんなことを思う。
大丈夫、大丈夫と、もう一度こっそり深呼吸をし直した。

「えっと、ぼ・・・わたくし、不動と申しますが、あのっ・・・」

落ち着け、ぼく。

なんとか友達の名前を告げ、取り次いでもらう。
ああやっぱり間違っていなかったと、ほっとした。

保留音の中、苦笑する。
ぼくは。
こんな当たり前のことすら、できなくなっている。
10年は、やはり長かったのだと、思う。

『不動さん?換わりました』

保留音がぷつりと途切れて、聞きなれた声が聞こえて。
電話越しの声に、思わず微笑む。
ああ。
よかった、ちゃんと。
繋がった。

「・・・・うん、ぼく。電話、今の時間で大丈夫だった?明日のことだけど――――」

君の声は電話越しでも優しいねと。
つい言ってから、自分で言った言葉に少し照れた。









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