安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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デビュー
新生活を始める場として最初に選んだのは、昔住んでいた出雲の国。
出雲大社に程近い、古い小さなビルの一階。
「占いします」と、それだけ書いた。

出来るだけ明るく見えるようにドアは開けて、白を基調にした店の中にはテーブルセットが一つあるだけ。

そして奥に作ったスペースに、ぼくの部屋がある。

そう簡単にお客さんは来ないかもしれないけど。
それでも良かった。

店の外に座り心地のいい椅子を1脚置いて、店先に座って人を眺める。
お客さんがいない時は、ずっとそうしていた。

毎日寝る前に、翌日の未来を視るのを日課にした。
いつまで此処に居られると、すぐにわかるように。

一つに長くは居られない。
ぼくは逃げなくてはいけないから。

もう誰も。
傷つけない、ために。
この力を、誰かのために使うために。
偽善でも。
自己満足でも。
過去の過ちを謝罪するために。

そして視た。
今日が、ぼくの占い師デビューの日。

「あの・・・・・。占い、って、此処・・・ですか?」

稿にも縋る思いなのだろう。
必死で心細げな面持ちの、線の細い女の人。

ぼくは椅子から立ち上がって、微笑んだ。

「いらっしゃいませ。お待ちしてました、早菜瑞樹さん」

お客さん第一号の早菜さんは、名前を呼んだぼくに目を見張って、それから覚悟を決めたように恐る恐る、店の中へと足を踏み入れた。









//24歳?
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ここから一歩踏み出せば
永遠に逃れることはできないのだと。
泣きたくなるくらいに無情に、知った。

ここから一歩踏み出せば、もう、戻れない。

儚い夢を抱いた、ぼくが間違っていたのだろう。

光の側に。
こんなぼくでも戻ってこれると、浅はかな、夢を見た、ぼくが。

ああどうして。

ああ。



どうして、こんなことになるんだろう。



もうぼくに、予知の力はないに。
この子には、なんの、罪も、ないのに。
ただ。
ただただ、健やかに、普通に。
普通、に・・・・・・!



どうして。



「いやぁ・・・!匠っ・・・・・・!たくみぃっ!!」



狂ったように、名前だけを繰り返す。
呼んで、呼んで、答えはなくて、でもやっぱり呼んで。
捕まれた腕は動かなくて、行きたい場所には届かなくて、抱き上げることもできなくて、呼ぶことしかできなくて!

愛らしい頬に流れていた涙はいつの間にか枯れて乾いて、目からも光が消えていく。



「・・・・・・っこんなのっ・・・・・・!」



嫌だ。
いやだ。
イヤダイヤダイヤダイヤダイヤタ・・・!



「こんなの、いやぁああ!っ!」



ねぇお願い。

ねェ、お願い、だよ。お願いだからっ!






お願いだから、誰か、嘘だと、悪い夢だと、言ってください。











//29歳くらい?

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記念撮影
「済みません」

待機を言い渡されて立っていたら、そう声を掛けられた。
顔を上げれば声の主はぼくと同じくらいの年の女の子。
日本語だったから少し驚いて、軽く眼を瞬いた。
一瞬後すぐに視たのは、あの人が何時戻ってくるか。
ああ。
まだ、大丈夫。

「・・・あ、えっと。何でしょう?」

そう問い返せば、女の子はにこりと笑って、持っていたカメラをぼくに差し出す。

「悪いんですけど、写真撮ってもらえませんか?」

そう言って指した先には、その子と同じくらいの年の日本人の、数名の集団。
海外旅行の記念撮影、らしい。
もう手の届かない過去の記憶が、痛みを伴って脳裏に蘇った。

記憶にある最後の記念撮影は。
家族旅行で、だった。

そっと苦笑して、記憶を振り払う。
いくら思っても、もう、戻って来ない。
戻ることは、できない。
戻りたいと思っては、いけない。
戻りたいと逃げたいは、同じだから。

「―――――いいですよ。ぼくでよければ」

カメラを受け取って、出来るだけ自然に、と心がけて、笑った。









//18歳
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目覚まし時計を叩いて止める
べしっ、と。
そんな音と同時に、耳障りな音が停止した。
それに伴って膨らんだベッドからむくりと起き上がるはずの身体は、しかし残念ながらそのまま腕を布団の中に戻してごろりと寝返りを打つ。

実はこの男。
見た目や印象通り、低血圧且つ適当である。

「・・・・・ディス」

ぼそりと、室内に新たな音が降る。
何時の間に部屋を訪れ中に入っていたのか、ついさっきまでは布団の中身以外誰も居なかったはずの部屋に、黒尽くめで長身の女が一人立っていた。
名前を呼ばれても、布団の中身はぴくりとも反応しない。
完全に、二度寝の体勢である。
女はそれに憤慨することも呆れることもなく、当然のように懐に手を伸ばした。
一応もう一度、名前を呼ぶ。

「ディス」

目覚ましを叩いて止めた男がこの落ち着いた抑揚のない声で起きるはずもなく、やはり変化は起きない。
予想通りだったそれを認識して、女は懐から黒光りする鉄の塊を取り出した。
何の抵抗も躊躇も無く、すいっと自然に照準を合わせ、引き金を引く。
正確に男の頭部を狙った弾丸が、女の手に握られたトカレフから殆ど音も無く放たれた。

次の瞬間。

普通ならば予測される血の花が咲くことは無く、ガキッ、と、硬質な何かと何かがぶつかった音が部屋に響く。

女はナイフを手にした銃で受け止めながら、男の名を呼んだときと同様の抑揚のないぼそりとした声で、一言言った。

「・・・・・・おはよう」

人間離れした動きで銃撃を避けナイフでの反撃を繰り出した男は、答えない。
女もそれ以上何も言わないまま、数秒静かに時が過ぎた。

そして銃とナイフの拮抗は唐突に終わりを告げる。

「・・・・・・?ん?ああ、朝か?」
「・・・・・・・・違う」
「目覚ましなったんだろ?じゃあ朝だろ」
「・・・・・・・・現在時刻はグリニッジ標準時間でPM11時過ぎ」
「朝ジャン」
「・・・・・・・・違う」

男はナイフをしまい軽く伸びをして、女はそれを確認し銃を懐に戻す。
時刻を考えると当然のことながら、外は暗い。
夜が始まりの声を挙げて、少し。
宵闇の時間がこれから広がる。

「不動花梨の抹殺命令出ないカナー」
「・・・・・・・・多分出ない」
「お前の抹殺命令でもいいなァ、フィア」
「返り討ち」
「タノシソウだ」

これは毎日の起床の儀式。
叩かれて沈黙した役立たずの目覚ましは、また次の夜に音を立てる。
そして同じような展開で、男が起きる。

毎夜仕事があるこの二人の職業は、マフィアに属する殺し屋だった。

「いやー、いつも悪いな?起こしてもらって」
「・・・・・・・・死ねばいいのに」
「ヒハハ、助かるわホント」
「次はヤる」

今日も殺戮の夜が始まる。











//ディスとフィア

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コメント(0)トラックバック(0)その他
 


一年365日
一年、365日。
心の休まる日なんて、なかった。

気を抜けば、待っていたのは死だった。
或いはそれで死んでいた方が、色々な人のためだったのかもしれない。

ぼくが進んで殺した人はいないけど。
ぼくがいなければ死ななかった人は、きっといた。
ぼくが、殺してしまった、人が。

聞いたのはあの人で、告げたのはぼくで。
指図するのはあの人で、手助けするのはぼく。
ぼくが、いなければ。
逃げ切れたかもしれない人は、きっと、いた。

くる日もくる日も、ぼくは予知を続けて。
一年365日、休む事無く人を不幸にする手助けをした。
代わりにあの人が得をする。

他人の命を取り上げて、あの人は自分の未来を広げていく。

そうだぼくは知っていた。

ただ視てないふりを、していただけ。


ぼくはこの人と、無数に積み上げられた屍の上に立っている。












//16歳
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