安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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記念撮影
「済みません」

待機を言い渡されて立っていたら、そう声を掛けられた。
顔を上げれば声の主はぼくと同じくらいの年の女の子。
日本語だったから少し驚いて、軽く眼を瞬いた。
一瞬後すぐに視たのは、あの人が何時戻ってくるか。
ああ。
まだ、大丈夫。

「・・・あ、えっと。何でしょう?」

そう問い返せば、女の子はにこりと笑って、持っていたカメラをぼくに差し出す。

「悪いんですけど、写真撮ってもらえませんか?」

そう言って指した先には、その子と同じくらいの年の日本人の、数名の集団。
海外旅行の記念撮影、らしい。
もう手の届かない過去の記憶が、痛みを伴って脳裏に蘇った。

記憶にある最後の記念撮影は。
家族旅行で、だった。

そっと苦笑して、記憶を振り払う。
いくら思っても、もう、戻って来ない。
戻ることは、できない。
戻りたいと思っては、いけない。
戻りたいと逃げたいは、同じだから。

「―――――いいですよ。ぼくでよければ」

カメラを受け取って、出来るだけ自然に、と心がけて、笑った。









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