安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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デビュー
新生活を始める場として最初に選んだのは、昔住んでいた出雲の国。
出雲大社に程近い、古い小さなビルの一階。
「占いします」と、それだけ書いた。

出来るだけ明るく見えるようにドアは開けて、白を基調にした店の中にはテーブルセットが一つあるだけ。

そして奥に作ったスペースに、ぼくの部屋がある。

そう簡単にお客さんは来ないかもしれないけど。
それでも良かった。

店の外に座り心地のいい椅子を1脚置いて、店先に座って人を眺める。
お客さんがいない時は、ずっとそうしていた。

毎日寝る前に、翌日の未来を視るのを日課にした。
いつまで此処に居られると、すぐにわかるように。

一つに長くは居られない。
ぼくは逃げなくてはいけないから。

もう誰も。
傷つけない、ために。
この力を、誰かのために使うために。
偽善でも。
自己満足でも。
過去の過ちを謝罪するために。

そして視た。
今日が、ぼくの占い師デビューの日。

「あの・・・・・。占い、って、此処・・・ですか?」

稿にも縋る思いなのだろう。
必死で心細げな面持ちの、線の細い女の人。

ぼくは椅子から立ち上がって、微笑んだ。

「いらっしゃいませ。お待ちしてました、早菜瑞樹さん」

お客さん第一号の早菜さんは、名前を呼んだぼくに目を見張って、それから覚悟を決めたように恐る恐る、店の中へと足を踏み入れた。









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