安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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目覚まし時計を叩いて止める
べしっ、と。
そんな音と同時に、耳障りな音が停止した。
それに伴って膨らんだベッドからむくりと起き上がるはずの身体は、しかし残念ながらそのまま腕を布団の中に戻してごろりと寝返りを打つ。

実はこの男。
見た目や印象通り、低血圧且つ適当である。

「・・・・・ディス」

ぼそりと、室内に新たな音が降る。
何時の間に部屋を訪れ中に入っていたのか、ついさっきまでは布団の中身以外誰も居なかったはずの部屋に、黒尽くめで長身の女が一人立っていた。
名前を呼ばれても、布団の中身はぴくりとも反応しない。
完全に、二度寝の体勢である。
女はそれに憤慨することも呆れることもなく、当然のように懐に手を伸ばした。
一応もう一度、名前を呼ぶ。

「ディス」

目覚ましを叩いて止めた男がこの落ち着いた抑揚のない声で起きるはずもなく、やはり変化は起きない。
予想通りだったそれを認識して、女は懐から黒光りする鉄の塊を取り出した。
何の抵抗も躊躇も無く、すいっと自然に照準を合わせ、引き金を引く。
正確に男の頭部を狙った弾丸が、女の手に握られたトカレフから殆ど音も無く放たれた。

次の瞬間。

普通ならば予測される血の花が咲くことは無く、ガキッ、と、硬質な何かと何かがぶつかった音が部屋に響く。

女はナイフを手にした銃で受け止めながら、男の名を呼んだときと同様の抑揚のないぼそりとした声で、一言言った。

「・・・・・・おはよう」

人間離れした動きで銃撃を避けナイフでの反撃を繰り出した男は、答えない。
女もそれ以上何も言わないまま、数秒静かに時が過ぎた。

そして銃とナイフの拮抗は唐突に終わりを告げる。

「・・・・・・?ん?ああ、朝か?」
「・・・・・・・・違う」
「目覚ましなったんだろ?じゃあ朝だろ」
「・・・・・・・・現在時刻はグリニッジ標準時間でPM11時過ぎ」
「朝ジャン」
「・・・・・・・・違う」

男はナイフをしまい軽く伸びをして、女はそれを確認し銃を懐に戻す。
時刻を考えると当然のことながら、外は暗い。
夜が始まりの声を挙げて、少し。
宵闇の時間がこれから広がる。

「不動花梨の抹殺命令出ないカナー」
「・・・・・・・・多分出ない」
「お前の抹殺命令でもいいなァ、フィア」
「返り討ち」
「タノシソウだ」

これは毎日の起床の儀式。
叩かれて沈黙した役立たずの目覚ましは、また次の夜に音を立てる。
そして同じような展開で、男が起きる。

毎夜仕事があるこの二人の職業は、マフィアに属する殺し屋だった。

「いやー、いつも悪いな?起こしてもらって」
「・・・・・・・・死ねばいいのに」
「ヒハハ、助かるわホント」
「次はヤる」

今日も殺戮の夜が始まる。











//ディスとフィア
苗字はない。戸籍もない。「サディスト」でディス、「マフィア」で「フィア」。
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