自己制約 |
2007年10月21日 01時16分
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ぼくは出来るだけ、自分の未来は視ないようにしている。
少なくとも、自分の意思では視ないように。
未来はわかっていてはいけないものだと思うから。
本来なら知らないものだと、思うから。
それはただの自己制約で。
破っても誰も怒らないし、必要を感じれば破ってしまうこともある。
ただそれでも、必要であっても、本当はやはり視たくはない。
知りたくない。
自分のこの先。
未来の道。
ぼくが、どう、なるか。
この制約は、ただ。
知ることが恐いから、逃げるための、言い訳。
恐いのだ。
恐い。
明日は、明後日は、明々後日は。
一年後は、二年後は、五年後は?
ぼくは、自由に、なれるのだろうか。
もしかしたら、一生。
ずっと、このまま、この建物の中で――――・・・。
それはとても有り得ること。
この裏の世界では、命の価値はとても軽い。
生と死は、紙一枚を隔てたくらいにしか、違わない。
絶望を知るのは、嫌だ。
それはとても、怖い、こと。
もし自由になれても、きっと違う恐怖が生まれる。
常に消えることのない、不安。
視たくない。
だからきっと、自己制約はずっと続く。
//14歳
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淋しさを覚え |
2007年10月20日 23時25分
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言われなれてる言葉。
もう傷つくこともなくなったくらい、慣れてる言葉。
それでも、何故か淋しさを覚えて、神社に足を向けた。
神社には人影がなかった。
それでも何故か気分が和らいで、ほっとする。
淋しさが消えはしなかったけど、代わりに何かが満たされた。
「気持ち悪ぃ」
「へー。本当、バケモノって感じでいいね」
少しの間、共闘するという、別の組織の「ボス」。
世襲制というわけではないのに、まだ幼さの残る青年。
けれど。
あの男、ぼくの「持ち主」と、同じ目の、男。
さぞかし気が合うことだろうと、思う。
「気持ち悪い」も、「バケモノ」も。
どちらも数えるのが馬鹿らしいくらい、聞いた。
何度も何人にも、言われた。
慣れている。
それでも哀しくないわけではないらしいと、自嘲した。
脆いことだ。
「淋しい」なんて。
「弱い」を認めることと、同じ。
ぼくは弱い。
「君なら・・・」
「彼」は。
ぼくの異能や汚さを知ったなら、何て言うのだろう。
//21歳
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この気持ち、隠し切れない |
2007年10月19日 23時27分
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隠すことが難しい感情が三つある。
一つは嘲り。
この世は誰も彼も何て愚かしく、笑ってはいけない場面でもつい嘲笑が浮かぶ。
一つは愉悦。
要らないモノを壊すのはとても心地よく、血も悲鳴も愉快で仕方がない。それを隠すのは、とても難しい。
そして、もう一つは。
「よお花梨。まだ予知能力は顕在か?」
「・・・・・・・お蔭様で」
「まだ役に立ってるのか?ツマラナイな。実にツマラナイ」
心の奥底から湧き上がる、暗く昏い、欲望。
ガキの頃から細い首に手を伸ばす。
指で喉に触れて、輪郭に沿うようにつうと撫でて。
「・・・・触らないでくれる?」
「早く・・・早く、壊れればいいのに。ああお前、そろそろ予知が出来なくなればいい」
「その手を、退けて」
「ツレナイなぁ。同じ道具同士、ナカヨクしようとしてるのに」
ああ。
ああ、ああ、ああ。
嗚呼。
つい無意識に、舌なめずり。
顔に浮かぶのは、淫靡な笑み。
昏い欲望。
隠し切れない、衝動。
ああ、ツマラナイ。
あとほんの少し、数ミリ、ちょっとだけ。
――――力を篭めれば、殺せるのに。
「お前の血が見たいなァ・・・・断末魔が聞きたいなァ・・・なぁ、マダマダ顕在か?」
俺は初めてお前と向かい合ったその瞬間から、お前が殺したくて仕方がない。
一分一秒でも早く、お払い箱になればイイのに。
そうしたら。
完膚なきまでに完全無欠に、骨の髄まで苦しめて、心行くまで殺してやるのに。
「・・・・残念ながら、そんな予定はないよ」
この気持ち、隠し切れない。
そしてまた。
「それはそれは、ホントに、残念だ」
隠すつもりも隠す意味も、何処にもない。
//18歳
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どんな病も治せる薬 |
2007年10月18日 23時09分
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ヒトとは利用するものだ。
「―――――死ぬ人を、探せ?」
「ああ。耳は付いてるんだろう?二度は言わせるな」
「何をするつもり?」
「ちょっとした慈善事業だよ。聞いてどうする?どうせお前がやることは変わらない」
コレは今現在で、尤も使い勝手のいい道具。
連れて来られた病院で不審そうに俺を見て、けれど「仕事だ」の一言で動くモノ。
嘲笑は、いつも尽きない。
ただ最近は、少しイラつく。
いつも通りの気色悪い的中率。それはいい。
「仕事」と言わなければ動かない効率の悪さが、イラつきの原因だった。
もういい加減、悟れよと、思う。
躊躇いも拒否も逡巡も、どうせ意味はないのだ。
手間掛けさせずに、さっさとやればいい。
逃げ場はない、反抗は出来ないと、知っているのに無為に足掻く。鬱陶しい。
少しずつ調教してはいるが、いい加減それも面倒になってきた。
暫く焦点の合わない目で未来を見ていた道具が、視線を俺に固定して口を開く。
「・・・、・・・あの人とあの人と、こっちの人。それから、あの子」
示された4人の病人。
ああご愁傷様と、そんな感想を抱きながら口の端を持ち上げた。
――――まずは、ガキからか。
交渉相手はもちろん親。
少し周りを見れば母親が見つかったので、使い終えた道具をその場に置いて近寄っていく。
逃げるなとは、言わない。
それこそアレを買ってから今までに掛けて、「逃げられない」と調教してある。
「・・・あの、済みません。失礼ですが、あの子のお母さんですか?」
表情は「哀れみ」。
知らない人間に警戒する母親に、数秒「逡巡」を見せ次に「真摯」な目を向ける。
この程度の偽装で少しは警戒が薄れるのだから、本当に笑いが止まらない。
「あの子、あまり長くありませんね?実は私も昔重い病で、それを思い出して」
「っ・・・。そう、ですか。あの、ご用件は」
「あの子を助けたいと、思いました」
「・・・・・・冷やかしなら、帰ってください」
「いいえ、違います。私も重い病だったと言いましたよね。一度は死に掛けたくらいだったんです。でも、今は健康です」
「・・・・・・・・・・・おめでとう御座います」
「どうしてだと思います?」
「・・・・あの」
「実は私、“どんな病も治せる薬”、持ってるんです」
「!」
藁にも縋るとはこのことだろう。
愚かしいことだ。
そんなにガキを大切にしても、何の得もないのに。
「信じられないかもしれませんが・・・騙されたと思って、使ってあげてください」
「・・・下さるんですか?」
「ええ。ああただ、一応秘密なもので、その旨をサインして欲しいんですが」
「・・・・・・・・・・・それだけで、いいんですか」
「私があの子を助けたいだけですから」
俺が欲しいのはそのサイン。
なくてもどうとでもなるが、あれば格段に便利な証書。
「真摯」と「哀れみ」と下手の態度に、「それくらい」と安易に手を出す。
本当に、どいつもこいつも面白いくらい、いい反応だ。
「―――――有難う御座います。助かりました」
さぁコレで、あの死体は俺の物。
ああ、まだ生きてたか。
「早く治してあげてくださいね」なんて言い残してその場を去る。
もちろん、置いておいた道具はちゃんと回収した。
俺と母親のやりとりを聞いていたらしい道具が、訝しげに呟く。
「・・・・・・・どんな病も治せる薬・・・・?」
薄く、笑う。
嘘ではない。
少なくとも、俺にとっては。
「死ねばどんな病気も進行しないだろう?」
薬を使っても使わなくても、どうせすぐ死ぬ。
欲しかったのは、その後その死体をどう扱っても構わないと偽装するための、直筆サイン入りの紙。
ただ焼くんじゃ勿体無いから、俺が金に換えてやる。
「・・・・どこが慈善事業」
「リサイクルってのは、立派な慈善事業だろう?」
唾棄するように吐き出す台詞に、肩をすくめた。
どうせ死ぬやつを使ってるだけ、優しいと思うがな。
//15歳
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静寂の中の音 |
2007年10月17日 03時35分
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ぴちゃん。
それは規則的な音。
それは継続的な音。
暗闇の中で、静寂の中で、その音だけが耳に響く。
視界が利かないのはキツく縛られた目隠しの所為。
それしか音がないのは、此処がぼくともう一人以外誰も居ない密室な所為。
ぴちゃん、ぴちゃん、と。
それは水が立てる音。
それは、液体が液体の中に落ちて、起こる音。
視界が真っ暗でも。
ぼくには、その部屋の映像が視えた。
1秒先のその場所の未来の画が、視えていた。
ぴちゃん、ぴちゃん、と。
ぼくではないもう一人の人の手首から、赤い液体が雫となって落ちる様が、視えていた。
そしてそれが。
途切れる、瞬間も。
動脈を切った手首から流れる血が、途切れるという意味は、流石にわかる。
つまり、この人は。
ぼくと同じ密室に閉じ込められて、数刻前に手首を切ったその人は。
もうすぐ、死ぬのだ。
ぼくは道具に堕ちても、「生きる」ことを選び。
彼は「生きる」ことを捨てても、気高き死を選んだ。
ああ誰か、教えてください。
ねぇ。
――――――いったいどちらが、正しかったの?
//10歳
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